ジェロニモは、仲間の中でも唯一自分より年下だった。こんな自分ですら“先輩”と呼ぶ奴に、俺は特別な感情を抱いていた。




 奴もまた、俺と同じ『元・人間』だった。


 もちろん奴はその事を知らないし、わざわざ言うつもりもなかった。しかし、元が人間だからこそ抱く、奴の焦りや苛立ちや嫉妬の感情が、俺には痛い程理解出来た。

 仲間で最も細身の自分よりも、さらに一回り小さい奴の体。自分以上にがむしゃらで一直線な奴のファイト。そして、自分の目にすらも微笑ましく映る、純粋無垢な奴の気質。
 そんな奴に俺が、他の仲間には無い特別な感情――共感――を抱くのは、ごく自然の流れだった。



 ジェロニモは、しかし未だ躊躇っていた。


 「何を悩んでんだよ。出ようぜ!」
 「・・・でも・・・。」
 「願ってもないチャンスじゃねぇか。お前だってロビン達の試合を見て、うずうずしてただろ。」
 「それは・・・。」


 俯く奴はそう口ごもりながら、毛足の長いサポーターに覆われた右腕を、確かめるように左手で撫でた。


 「・・・傷の事か?」
 「・・・。」
 「全く動かねぇ訳じゃねぇだろ。それにお前にはまだ、左腕も、脚も、何より自慢の声だってあるじゃねぇか。」
 「それは・・・。でも、それを言うなら先輩こそ、酷い怪我してるのに・・・。」

 その言葉に反応したのか、自分の腹がまた鈍く疼いた。

 一瞬過ぎる不安。しかしそれでも、戦いたいという欲求は、やはり抑えられなかった。


 俺は奴の視線が注がれる部分に、軽く拳を当てて見せた。


 「俺なら大丈夫。これくらい、何てことねぇよ。」
 「でもオラ、迷惑かけちまうかもしれない・・・。」
 「それこそ問題ねぇさ。どうせポンコツ同士だ。お前が途中で動けなくなっても、何の文句も無ぇよ。」
 「・・・。」
 「勝とうが負けようが、所詮“穴埋め要員”だ。それに、そもそもこの大会に参加する輩(やから)が、途中棄権なんてシケた真似する訳ねぇじゃねぇか。」
 「・・・じゃあ、狙いは―――」
 「ああ。あいつらだ。」


 俺はさっきより一層騒がしさを増した会場を顎で差した。
 幸いと言うべきか、時間超人以降、名乗りを上げるチームはまだ一組も現れてはいないようだった。


 「奴らをぶっ潰す、それだけだ。刺し違えても・・・、最悪、負けたって構わねぇ。」
 「先輩・・・。」
 「とにかく出来るだけ奴らにダメージを残すんだ。そしてその後は、キン肉マンやテリーらに任せればいい・・・。」
 「それは・・・確かにそうだが――」
 「だろ!戦えて、しかも皆の役に立てるんだ。願ってもねぇじゃ・・・・・・っ!?」


 ジェロニモの反応にようやく手ごたえが見えたその時、強がって殴った己の腹が突然悲鳴を上げた。
 思わず膝を折った俺の体を、奴の伸ばした両の手が支えた。


 「大丈夫だか!?」
 「はは・・・悪ぃな。」
 「やっぱり無理しちゃいけねぇよ。そりゃ・・・先輩の言うように、オラも出たい。出て、そして戦いたい!役に立ちたい!!でも、今のオラじゃ迷惑掛けるのは目に見えてる。」
 「ジェロ・・・。」
 「オラなんかを誘ってくれて・・・。それは本当に感謝してるズラ!でも、タッグは二人で戦うもんだ。だからもし、オラのせいで先輩にまで何かあったりしたら・・・。」


 その時奴の脳裏には、恐らく先のタッグでテリーの足を引っ張ってしまった苦い経験が浮かんでいたに違いなかった。

 自分が慕い、そして最も尊敬する相手に無様な姿をさらした。
 その事実がどれ程奴にとって辛い事だったであろうことも、俺にはやはり痛い程分かった。


 ―――だからこそ、俺はお前と行きたいんだ!

 

 俺は奴の肩を抱き、そして軽く鼻で笑った。

 
 「バカ野郎・・・。俺にまで余計な心配してんじゃねぇよ!」
 「だって・・・。」
 「俺もお前も戦いたい。そこさえ一致してりゃ十分じゃねぇか。」
 「・・・。」
 「俺はお前と出たい。お前とリングに立ちてぇんだ。力を貸してくれ。」
 「でも、もし――」
 「だから問題ねぇって。俺もお前も、そんな簡単に死にゃあしねぇさ。だって・・・」
 「・・・?」



 ―――だって俺達は、“超人”なんだから・・・。―――



 痛みも、そして迷いも。
 二人を縛るものはもう何も無かった。


 ようやく手に入れたこの陽の光を、俺は守りたいと思った。