誰一人喋る奴は居なかった。
けれどその沈黙は、むしろ心地良いものだった。
自分にとって、恐らく確実に最後となるこの戦いで、俺はようやく居場所を見つけた。
つい数日前に、王位継承者候補の一人である“戦士”を意味する名を持つその人に集められた、俺と三人のメンバー。
かつて悪魔の筆頭につき従っていた奴らが、死地に共に向かう仲間として今、俺の目の前に居る。
―――本当に、冗談みたいな組み合わせだ・・・。
壁に背をもたせ、俺は何も無い床をただじっと見ていた。しかし実際のところは、高鳴る鼓動を、そして込み上げる興奮から来る笑いを鎮めるのに精一杯だった。
―――最後の戦い・・・。自分はどうなってもいい。けれど、何が何でも、ソルジャーを守る!
―――・・・そして、ファーターのくれたこの徽章に、華々しい最期を・・・。
自分の二の腕を掴んでいた手は、それこそ笑ってしまう程震えていた。
今までどこに居ても、どこか違和感があった。
自分の居場所。本心から望み、望まれる場所。そして心底安心出来る場所。それをずっと、自分は探していた。
もちろんかつての仲間達も、こんな自分を我が身以上に大切にしてくれた。
―――初めて出来た、“親友”と呼べる仲間・・・。
声援を送ってくれた。必要としてくれた。そして、時に体を張って助けてくれた。
けれど未熟な自分は、いつまでたっても彼らと並んで歩く事が出来なかった。
―――いつも、背中を見ていた。追いかけていた。
―――追いつきたかった。・・・けれど、追いつけなかった。
いくら鍛練を積んでも、奴らと自分の距離は一向に埋まらなかった。たかだか数年の違い。しかし今がまさに全盛期の自分達にとって、その違いは実際の年月の何倍もの開きとなった。
そして自分の気持ちとはうらはらに、肝心の体と力は日増しに弱まっていくばかりだった。
本当に、それはもどかしい日々だった。
いつもいつも、皆が自分の居る後ろを振り向き気にかけてくれていた。けれど自分は、いつまた背中を向けられるのかと、そればかり不安に思っていた。
―――けれど、今は違う。キャプテンは今の自分に絶対の信頼を寄せてくれている。そしてこいつらは誰も、俺を甘やかさない。こいつらはどこまでも俺と対等でいてくれる・・・。
ここに来るまで抱いていた葛藤や迷いは、もう微塵も無かった。友を、そして師匠を裏切るこの行動。けれど今自分の気持ちは、親友でもあるかつての仲間達の方ではなく、今目の前にいる守るべき人に、そして、その人に共に見染められ共に集った新たな仲間に向いていた。
その時、部屋の扉が小さく二度ノックされた。
それは俺達に入場を促す知らせだった。
―――ついに来た、出番だ・・・。
「では・・・行こうか。」
部屋の最奥で腕を組み座っていたソルジャーが、そう言いながらゆっくりと立ち上がった。
それに続いて、俺達も入口へと進んだ。
扉を開け、皆廊下に出た。すると他のメンバー――ザ・ニンジャ、アシュラマン、そしてバッファローマンが、ソルジャーについて歩いていた俺の後ろに、その順番で一列に並んでいた。
「あ・・・悪ぃ。出る順か・・・。」
すると、列の最後尾に向かおうとした俺を、ニンジャが手を上げ制した。
「お主がキャプテンの後ろにつけ。」
ニンジャの言葉に、後ろの二人もほぼ同時に頷いた。
「え・・・。けど・・・・・・。」
戸惑う俺を、最後尾の大男が鼻で笑った。
「背の順だ。」
「・・・は!?」
「俺の後ろじゃ、チビのお前は見えなくなっちまうだろう。」
「なっ・・・。」
その皮肉交じりの言葉に、他の二人も軽く肩を震わせ笑った。
つい頭に血が昇る。
「それなら俺は二番目だろうがよ!一応俺の方がこいつより―――」
「はは・・・。嘘だよ。そうムキになるな。」
「でも・・・なら―――」
「キャプテンはお前を参謀として選んだ。そして俺らもそれに何の異論もない。だから、お前がキャプテンの後ろにつくべきだ。・・・そうだろう?」
黄金色に光る眼を細め、体に似合わず穏やかな口調で紡がれたそのバッファの言葉に、アシュラもニンジャも笑みを浮かべながら大きく一度、自分に頷いて見せた。
絶対の敬服に値するキャプテンに信頼してもらい、そしてこの、他に類を見ない戦いに選手として出られる。それだけでも自分には十二分に満足な事だった。
けれどその上さらに、仲間にまでこれ程自分を認めてもらえるなど、それこそ身に余る思いだった。
―――ありがとう・・・。このチームは、やはり最高だ・・・!
俺はつい目の奥が熱くなるのを感じ、顔を庇で隠しそれを抑えた。
その時の気持ちこそ、“筆舌に尽くし難い”と表現すべきものだと思った。
短く、穏やかな沈黙が流れた。
何とか感情を噛み潰した俺は、三人の顔を交互に眺め、バッファの言葉に感謝をしつつもある“思い”に駆られていた。
―――・・・一緒に、行きたい。
確かに自分はこれまで、常に仲間の背中を追いかけていた。必至で追いかけて、それでも追いつけず、そうしている間にもさらに距離を開けられ、少しずつ弱る己を抱え、一人途方に暮れていた。
悔しい、歯痒い、情けない・・・。そんな感情ばかりを募らせながら、今まで過ごしてきた。
だが、ここまで素晴らしい仲間の前に立つのも、やはり嫌だった。
なぜなら、俺達はただのチームメイトではないのだから。
「・・・横一列に並ぼう。」
「?」
「俺達は皆、同じ思いでキャプテンの下に集った“同志”だ。そんな俺達には、上も下も、前も後ろもねぇよ。」
「ブロッケン・・・。」
「だから・・・ソルジャーの後ろで、俺ら四人・・・、肩並べて行こうぜ!・・・・・・それでもいいよな、ソルジャー。」
ソルジャーは無言で頷いた。
マスクの奥の瞳は、この上ない程優しい光を湛えていた。
「・・・上等じゃねぇか。」
「妙案だ。」
「私も異論は無い。」
「じゃあ・・・決まり、だな!」
皆で目を合わせ、そしてまた少し笑った。
そして俺達は、皆揃ってソルジャーの後ろについた。
ふと気づくと、バッファがこちらを見ていた。
「・・・何だよ。気持ち悪ぃな。」
「いや・・・。お前今、すげぇいい顔してるぜ。」
「・・・。」
「その顔で、胸張って行け!それが今のお前に唯一出来る、キン肉マンやロビン達への、そしてお前の師匠への誠意だ。」
「・・・・・・ああ、そうだな。」
薄暗い廊下の先には、眩しい程のライト。
そして俺達を待つ群衆の歓声。
―――見ていてくれ、ファーター。俺ももうすぐ、そっちに行くよ・・・。
ソルジャーの翻したマントの音を合図に、俺達は最高の舞台へと歩き出した。
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RUN(一部抜粋)
よくまあここまで俺達来たもんだなと
少し笑いながらお前 煙草ふかしてる
何もないところから 頼りなく始まって
数えきれない喜怒哀楽を共にすれば
時の流れは妙におかしなもので 血よりも濃いものを作ることがあるね
荒野を走れ どこまでも 冗談を飛ばしながらも
歌えるだけ歌おう 見るもの全部
なかなかないよ どの瞬間も
涙腺のよく似た奴が集まるもんだなと
明け方に酔いながらふと思いついても
これは一生の何分の一なのかなんて
よくできた腕時計で計るもんじゃない
約束なんかはしちゃいないよ 希望だけ立ちのぼる だからそれに向かって
人間なんて誰だって とても普通で 出会いはどれだって特別だろう
荒野を走れ 傷ついても 心臓破りの丘を越えよう
飛べるだけ飛ぼう 地面蹴りつけて
心開ける人よ 行こう
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