注:後半に、『肉萬』の読切に書かれていたウォーズマンのファーストネームを使用・記載しています。
ご了承の上、お読み下さるようお願い申し上げます。
悪魔超人軍団との熾烈を極めた戦いにも、ようやく幕が下ろされた。
ミート君の復活と戦いの終結を祝うとの事で、関わった面々がキン肉マンの家に集められた。
キン肉マンにミート君、大王や王妃、テリーマン、キン肉マンの連れらしき女性。そして、バファローマンから分け与えられたパワーによって生き返ったロビンマスク、ウルフマン、ウォーズマン。決して大きくない――むしろここが家なのかというような場所に、よくこれだけの人数が入ったものだと、それは俺にとって感心する程の光景だった。
大王らが用意してくれた簡単な食事と酒を囲んでの談笑。キン肉マンやテリーマンらに関しては周知のとおりだったが、あのロビンまでもが冗談を言い笑う姿は、俺に不思議な感覚を与えた。
生まれてこのかた、こんな風に大勢でテーブルを囲み、笑い、酒を酌み交わすような経験は俺には無かった。そもそも自分は、食事の席で笑った記憶自体が過ぎた年月によってもはや曖昧になっていた。しかも悲しいかな、その相手の大半がファーターだった。
こういう席ではいったいどう振る舞えば良いのか―――それが分からず、正直自分は完全に戸惑っていた。だが、だからと言ってそれを誰かに聞く訳にもいかず、俺は渡された酒の入ったコップを手に、部屋の隅で壁に背を預け、ただ彼らを観察し続けていた。
―――そういえば、最後に酒を口にしたのはいつだったかな・・・。
久しぶりに胃に広がるアルコールの感触を懐かしんでいたその時、俺の隣に黒い男がやってきた。
「輪には加わらないのか?」
「・・・ウォーズマン。」
ウォーズマンは見た事のない銘柄の――恐らくは日本の――ワインの瓶を手に、俺の横に並ぶと同じ体制を取った。そしてそのまま、どちらからともなく床に座り込んだ。
「みんな、何だかいつもと違うな。もうそんなに酔ってんのか?」
「いや、それもあるだろうが、多分皆嬉しいのだろう。」
「俺だって嬉しいぜ。お前らもミート君も生き返ったし・・・。でもそれと騒ぐのは関係あんのか?」
「多分な。嬉しいから騒ぐのだろう。」
「そんなもんなのかな・・・。」
「そんなものなのだろうな。ただ俺も状況を見て推測しているにすぎないから、正直なところは良く分からないがな。」
ウォーズマンのその言葉で、この状況に馴染めていないのが自分だけで無い事を知り、俺は少し安堵した。
既に空になり傍らに置いたままのコップに気づいたのか、奴は持っていたワインの瓶を無言で俺に差し出した。どうやら白らしい、液体が三分の一程入ったそれをやはり無言で受け取った俺は、直接瓶に口を付け一気に飲み干した。
「・・・良かったな。生き返れて。」
「ああ。だがまさか、あのバッファローマンに助けられるとは思わなかった。」
「ついさっきまで殺し合いしていた敵が味方になるなんて事自体が、何だか信じられねぇよ・・・。」
だが実際に、その信じられない出来事が既に俺の目の前で二度も、そして俺自身にも起きていた。キン肉マンと戦ったバッファローマンやウォーズマン。そして、俺の師匠・・・。
「あと・・・信じられない事がもう一つあるとすれば・・・。」
「?」
「東側のお前と西側の俺が、こんな風に普通に喋ってるって事かな・・・。別に悪い意味で言ってんじゃねえぜ。」
「・・・そうだな。確かにここには国も、国同士の争いも無い。」
それ以上その会話は続かず、再び二人の間に沈黙が流れた。
キン肉マン達はいよいよ酒が回ってきたのか、その笑い声はさらに大きくなっていた。
輪に加わる気にはなれなかったものの、その様を眺めている事自体は悪くなかった。いつの間にか自分の口元も緩んでいた。
やがて本格的に酒が回ってきたせいだろうか。胸のあたりがやけに温かくなってきた。
俺は無意識のうちに、隣の男にまた話しかけていた。
「・・・にしてもさ。お前のそのウォーズマンて名前、よくよく考えてみりゃ、すげぇ物騒だよな。」
「ふふ・・・軍服しか着ない奴に言われる筋合いはないがな。それに俺にはちゃんと別の、本当の名もある。」
「ははっ・・・まあ、そりゃそうだ。・・・で、その本当の名前ってのは?」
「秘密だ。」
「隠す程変な名前なのか?」
「・・・そうじゃない。・・・・・・口外しないと約束出来るか?」
「ああ。」
「・・・ニコライ・・・だ。」
全身黒ずくめのこの男には、あまりに似つかわしくない響きを有したその名を聞き、俺は思わず噴き出してしまった。
「なぜ笑う?」
「あははは・・・そりゃお前、そこまでお行儀のいい名前だなんて、誰も思わねぇだろうがよ。」
「心外だ。」
「はは・・・悪ぃ。良い名前じゃねぇか。お前にピッタリだよ。」
「取り繕っても遅い。」
「謝るって・・・。ああ・・・そうだ、じゃあ交換条件にしよう。俺も・・・知られてねぇミドルネームがある。へたすりゃ自分も忘れちまうくらい、もう誰もその名じゃ呼ばねぇけどな・・・。口外しないか?」
「ああ。」
「・・・俺のミドルネームは―――。」
後から思えば、なぜそんなにも可笑しかったのかは分からない。だが、俺と“ニコライ”は、その後もお互いの顔を見ては声を上げて笑った。遂には周りの奴ら全員が訝しげな視線をこちらに向けていたのだが、それさえにも気付かずに、ただ笑い続けた。
そして、なぜ皆がああも騒いでいたのかという理由も、何となく分かったような気がした。