最近私が見聞きした事例を2つご紹介します。



眉毛を引っ張って抜いてしまう子がいます。

朝家を出て学校から帰ってくると眉毛の量が減っている。

それを見た母親は「抜いちゃいけないって言ったでしょ。何で抜くの?同じことを言わせないで」。

子供は「ごめんなさい、許して」と言うだけ。

半ズボンの下の太ももにあざがあり、どうしたのか母親が問いただすと「わかんない」。

母親は「わかんないわけないでしょ。どこでぶつけたか、それとも友達に蹴られたか何かしたのか思い出せないの?」と詰問。

子供は「もう思い出せないよ」で終わり。

この子供さんは自己主張が弱く、不満をきちんと口にできないので、自分の言いたいことを言えるように指導して欲しいと保護者は放課後デイサービスに要望しています。



友達が遊んでいるとすぐに口を出してきたり「仲間に入れて」の断りもなくずかずか入り込んできておもちゃをいじって主導権を握ってしまう。

自分と直接関係ないところで話をしていても聞きつけるとそこに割り込んで「僕はね、~を知ってるよ」と自分の自慢話を始める。

自分のうちにあるおもちゃを友達に自慢するためにわざわざ持ってきて見せようとする。

何をやるにも「パフォーマンス」を計算して大人から同情を買うようアピールしている。

他の子供を指導しているところにも入り込んで来て「こうしたらいいじゃないか」などと自分の言いたいことを言うが、指導の邪魔になるだけで話の筋や展開はとんちんかん。

勉強はそれなりにできるが、基本的な生活態度ができておらず行儀が悪い。



前者は明らかに母親の抑圧的な態度が子供の「いいたいことも言えない」消極さを生んでいることがわかります。

自分にとって最も身近な養育者が子供に言いたいことを言わせない。

だから反抗はおろか言い訳もせずただ謝るだけ。その方が子供自身にとってはその修羅場を早く切り抜けられ楽になれるからです。

眉毛を抜くのはそうしたストレスが身体的反応として現れたものです。

これが癖になると他のストレスを受けたときも眉毛を抜くようになる。

それが家庭の外で起きるとそれがまた母親の怒りの元になるわけです。

友達に蹴られたかも知れないあざも、それを口にすることで自分の苦痛の再現になるので回避し、「思い出せない」で切り抜けようとする。

この子がこの世で一番畏れているのは母親です。

その母親が人格形成に大きな影響を与えている。

母親自身が子供にものを言いやすいよう変わらない限り、この子の苦労は続きます。眉毛もなかなか生えて来ないでしょう。



後者に関しては2つの可能性が考えられます。

1つは親の愛情不足が原因で承認欲求が強いために、家庭の外に飛び出すと他者からの承認を求めて他者への迷惑なども顧みずに誰彼構わず人間関係の中に入り込む。

賢いのでどうやれば人が自分の方を向いてくれるかを経験で学んでおり、アピールが強い。何をやるにしてもパフォーマンスが伴います。

アタッチメントが弱いもしくはほとんどないので、船で言えば母港を求めてあちこちさまよい、自分を認めてくれることにしか関心がない。

なので他人の考えや立場はどうでもいい。

ちやほやしてくれればそれだけで満足なのです。

逆に、愛情過多で甘やかされ、家庭で大事にされているそのやり方が家庭の外でも全く同様に通用すると考えている場合もあり得ます。

自分の持っているおもちゃを外で見せびらかすなどと言う行為は、自分がいかに恵まれているかを誇示するためにやっているようなもので、自分が他人より常に優位に立たないと気が済まない、マウント取りの典型です。

家庭で恵まれていて賢く育っていると、他者をうらやましく思うことはまずありません。

もしかすると家庭でも上手に振る舞っていて、外でマウント取りのために迷惑行為を重ねていることなど養育者は想像すらしていない可能性もあります。

このタイプは、ちやほやされればされるほど誤学習を重ね、過てる万能感に基づき周りをどんどん浸食し、気がつけば周囲には誰もいないと言う結末を迎えます。その間に悪い人間に利用され収奪され、ぼろぞうきんのように捨てられるのが関の山です。



どちらのケースも、親の価値観が色濃く反映された子供ができあがっています。

前者は過度の抑圧による萎縮型の子供、後者の前半は愛情不足によるアタッチメント渇望型の子供、後者の後半は放任による野放図型の子供 です。

いずれも、親自身が自分(たち)の養育の仕方が子供に直接大きく影響しているという認識がない。

もっと言えば自分たちの養育方法が子供をどんどん悪い方へ向かわせているという自覚がない。



なので、第三者による指摘が欠かせません。

親に気づいてもらうことによって、親が養育方法を改めなければ子供は気づきません。

自浄能力がないからこそ子供なのです。

子供自身に悪行をきちんと指摘することももちろん必要ですが、そういう子供を形作ってきたのはほかならぬ親です。

親の見えていない側面を見せ、意識を改めてもらうことで初めて子供は変わるのです。



親の養育方法が子供の価値観形成にどれだけ重大な影響を及ぼしているか、今回は実例を示してお話ししました。