千葉県佐倉市の郊外にDIC川村記念美術館があります。

この美術館が来年1月で一旦閉館し、東京都心に移転するかさもなくばこのまま廃止ということもあるかもしれないというニュースが報じられ、佐倉市自らが存続のための署名運動を始めており、私も電子署名を済ませました。

DIC(大日本インキ)の有力株主である外資系ファンドが、経営の効率化を求めて美術館の収益性の悪さを改善するために同社に求めたのが原因と報じられています。



いわゆる「物言う株主」が収益の最大化を目的に、その障害となる要素を取り除くという、お決まりのパターンです。

会社が収益を高めるためにいろいろ改革を行うこと自体は肯定されて然るべきですが、美術館のような文化的価値の高いものを他の経営要素と同列に扱って良いか否かはまた別問題です。




この美術館は世界的にも価値の高い作品を数多く収蔵しており、仮に閉館が確定するとそれらの作品を他の美術館やコレクターに売却し、作品群は散逸することになります。

売却代金で経営は一時的に立ち直るかも知れませんが、その後はどうするのか、展望は見えません。

それとも美術館の閉鎖を皮切りに会社そのものの売却をももくろんでいるのでしょうか?



現地に行けばわかりますが、この美術館はDICの研究所に隣接しており、また美術館のすぐ隣は広大な庭園が拡がっており、来館者もゆっくり散歩することができます。

アクセスは、京成佐倉駅からJR佐倉駅を経由して美術館まで約20分、無料送迎バスが運行されています。

館内は広々としており、作品を鑑賞するのに非常にゆったりと過ごせます。

併設のレストランもおいしく、魂の洗濯にはもってこいです。



美術館というのは、文化発信拠点であると共にその土地の観光資源にもなります。

確かに、都心であれば人が集まりやすく収益性もより高くなるのは事実でしょう。

しかし自然豊かな土地にわざわざ出向いてでも見たいというものがあれば、人は時間とお金を掛けてでもそこに赴こうとします。

そこにたどり着くまでのプロセスと、鑑賞し終わってから帰宅するまでの長い道のりは、現地での鑑賞とセットで長く心に刻まれるものであり、旅の楽しさをも味わわせてくれます。

平成2年(1990年)の開館以来多くの人が足を運んできた文化的財産、かつ地方都市の観光資源を、収益の一言で簡単に片付けるにはあまりに惜しくないでしょうか。



企業がこうした文化的施設を持つのはリスクが大きく、経営者個人の趣味で運営すべきなどという意見もあるそうですが、企業が文化的施設を有すること自体、その企業の価値を上げることに役立っており、むしろ企業という団体が本業の傍らこうした文化事業に貢献することは、その国の文化の尊重度合いを示すバロメーターとして、有益ではあっても有害なことはまずないと言えるでしょう。

採算を度外視しろとは言いませんが、企業の社会に対する貢献度と収益性のバランスを考えて、こうした文化的施設の運営には慎重であってほしいものです。