今日、帰宅すると 先に帰っていた娘が泣いていた。

聞いてみると 案の定公園の事だという。


実は今私が住む団地では 駐車場の整備工事が始められようとしている。

もともと 棟間には それぞれの日照権を奪わない程度の間隔があり

そこに木を植え 広場としていた。

広場のはずれに若干の遊具がある以外はとくに何もなく

そのかわり 子供達がキャッチボールをしたり 鬼ごっこをしたりと

車の進入がなく 安心して走り回れるスポットとなっていた。


娘もここで 自転車やローラースケート、一輪車の練習を積んできた。


そして 花の咲く木も咲かない木も 多くの樹木が木陰を提供して来たのだ。

木の根元からは 毎年たくさんのセミが顔を出し

うるさいくらいに鳴きわめいていた。


今年、そのスペースを全てアスファルトで埋めて 駐車場ができる事となった。

長く住民たちの要望が出ていた話で

大人だけの話し合いは スムーズに進み その案はあっというまに決済された。


今週からその工事が始まる事になり 週末、広場のスペースは全て

工事用の柵で覆われたのだ。


子供達が学校から帰ってくるころには 何本も植わっていた、

生活の全てを優しく見守っていてくれた木

子供達が木登りの練習をした木

子供達の入学を祝うように咲き誇った桜

秋には美しく紅葉していた楓

その全てが 初めから何もなかったかのように 切り倒されていたのだ。


その光景を見ながら帰ってきた娘は

思わず涙が溢れ 止まらなくなったのらしい。


間もなく夏休みになり、2学期が始まる頃には

すっかり工事も終了する。 

いつかそこに何があったのかを思い出すことすら難しくなっていくだろう。

初めから ここは駐車場だったのではないかと思えるほどに。


しかし そこに倒された木や 埋め立てられたセミの命が

確かに息づいていたことを 記憶の片隅に留めておきたいと思っている。