手術当日、大雨でした。私一人が立ち会う予定でしたが、大学生の長女・高校生の次女は大雨で休校になり病院に一緒に来ました。前回は中学生と小学生で、留守番をさせるのもお菓子やパン等を用意して淋しい思いをさせないよう気を遣いました。

子供達はH先生にお会いするのは初めてです。「父をお願いします」と、子供なりに挨拶をしていました。私は少し感心していたら、H先生が病室から出た瞬間に「ウチ驚いたょ、あの容姿」と爆笑する長女。ハンサムとは言い難いけどそこまで笑う程ではないのに・・・。絶大な信頼をしている夫は「いい男だぞ!」娘を一喝しました。手術はTVの世界のことで、藤木直人のような外科医を想像していたとは(笑)

今回も手術室まで歩いて行きます。家族四人で・・・

「お父さん頑張って、待っていますからね」と声を掛けると、次女は夫にハイタッチ、長女は大泣きしてます。容姿の悪いH先生が手術着で待っていて夫は手を振りながら進んで行き、初めてお父さんは病気があると認識したようです。

手術中は病棟にあるカフェテラスで待っています。大泣きした長女は顔をうつ伏せていて「大丈夫?」と聞くと、なんと居眠りをしていました。10時開始で2時ごろ終了予定なので、子供達はマックでお昼済ませると外出します。12時ごろ子供達が戻ると同時に「手術室から連絡で手術室に行って下さい」と看護師さんが慌てています。事情は分からないけど良い話しでないのは分かりました。

手術室の看護師さんが「H先生、ご家族の方が来ました。お子さんも居ます」H先生「う~ん、余りいい話しではないのでお母さんだけ入ってもらって」 えっ?私は考えることも出来ない状態で呆然としていました。看護師さん手早く私に使い捨ての帽子と長い割烹着を着けてくれ、同行した病棟の看護師さんと手術室の看護師さんも同じ格好になっています。私の前後に看護師さんがいます。

手術台に乗っているのは夫なのでしょうが、頭と足がどちらなのかも分かりません。H先生の他に4人の先生がいます。開腹中です。

H先生は開口一番「残念ながら腹膜播種なんだよ。取りあえず小腸にあった癌は採ってこれから大腸の癌を切ります。でもね、ここをよく見てしっかり見てね。白いのがあるでしょうこれも癌でこの他のも3か所あるんだよ。大動脈も含むので全部を採ってあげられなくてゴメンね」。夫のお腹の中を見た衝撃はありましたが、H先生のゴメンね、、それに対応する知識と余裕はありませんでした。

※播種は本当に小さく白い点なのです。

手術は予定より遅く終わりました。H先生からの説明は私一人で聞くことにしました。私が動揺しているのに子供達まで巻き込めなっかです。

大腸・小腸・リンパ節、、採ったものを見せてくれました。手術室での説明の通り腹膜播種です。

私は初めて涙がでました。「お父さんは仕事もして休みはご飯の支度もしてくれます、もう良くなって治ったと思っちゃた」H先生に弱気を吐いてしまいました。H先生からは「Kさんの頑張りは凄いね。TS-1の効き目があったと思うよ。癌があっても日常生活が出来ているのだから、癌と共存して治療をしましょう」暖かい言葉でした。バイパス手術にすることなく採れる範囲はやってくれたと信じました。

気持ちが落ち着いてH先生に一つお願いをしました。

夫は病気のことは全て知りたい人です。でもいつか治療が無くなった時、厳しいことは伝えないで下さい。希望が無くなるのが怖かったです。今回もお礼(袖の下)を用意しましたがすっかり忘れてしまい、翌日に夫が渡しました。

夫の意識が戻り「お父さん、私見たんだけどね腹膜播種だったよ。でもH先生は化学療法でやります、と言ってるの」夫は転移性の癌の心配より私がお腹の中を見たことに驚いていいます。腹黒くなかったと付け加えておきました。

 

2週間後に退院して、TS-1とタキソールの抗がん剤をはじめます。