「1,2,3」
伯父の喫茶店は、モーニングの時間帯が一番ハードだ
喫茶店は岡山が発祥の地で、その頃から今まで続いている伯父の喫茶店のようなお店は、(妙な意地でもあるのか)なかなかモーニングの金額を値上げする事が出来ないらしい。
そのせいか、朝ごはんを作るのが面倒な一人身のご老人や、「朝は、美味しいコーヒーを飲みたい」と思われている少し年配の会社勤めの方々が、めちゃ安のモーニングを食べにわんさかいらっしゃる。
お昼の時間帯は、更に、ご飯を作りたくないご老人中心に、それなりに席が埋まる(笑)
その日、お昼の混み具合がひと段落ついて、午後のマッタリした時間に突入しようとした時。
カランカラン~♪
ドアベルが鳴って入ってきたのは、見るからにビシッと現役ヤクザさん3名でも、ヤクザさんって、面白いくらいに見た目で役柄が解ってしまうのです。
ビシッと縦縞スーツで、落ち着いていて、聡明そうなのは若頭。
軽~く光っているようなのスーツを、ちゃんとサイズを合わせて着て、常に周囲を把握しているかのような面持ちの中堅。(かなりレベルの高い、デキる伯父貴って感じ)
ダラッとしたシャツを着て、ボタンを適当に留めているチンピラ。
・・・まあ、若頭と中堅がいれば、大丈夫か
一番奥の席に座る彼らを眺めながら、お水を入れ、おしぼりとメニューを持ってテーブルに・・・
一人しかいないウエイトレスである私が、厨房のカウンターにお盆を置いた瞬間に、次々に席を立ち、お会計を済ませようとする他のお客様達
いやいや、そんなドラマのような、あからさまな動きをしなくても・・・w
(まあ、ドラマのような格好の方々が来られたから、エキストラ達はそう動かざるを得ないのか)
あっという間に、お店の中は私と、厨房にいる伯母と、現役ヤクザさん達だけになってしまった。
なんだかなあ~例えば、あの方々が突然暴れ出してから、出ていっても良いもんだけどなあ~現役ヤクザさん達、これで、さらに心が荒むぞ~
ただ、私も1つ心配な事が・・・それは、お向かいの元ヤクザさん達と、鉢合わせして欲しくないという事だった。
きっと、現役ヤクザさんを見ちゃうと、元ヤクザさん達はツライだろうな~と、考えちゃったのです。
そういう気持ちがキッカケで、ケンカに発展する可能性も無いとは言えない。(または、現役ヤクザさん達がイチャモンを付けた時に、この店や、私達を守ろうとして・・・)
そうなると、後々危険なのは元ヤクザさん達だろう・・・そういうのは嫌だった
だから、ひたすら「(元ヤクザさん達)来ないで~、来ないで~」と心の中で念じていた。
現役ヤクザさん達はお腹が空いていたようで、全員が食事を注文。
う~ん、待てるかな~チンピラさん(笑)
あまり見られると、とっても気になさる方々なので、注文を通すと、フォークやスプーンを用意しながら、そのまま厨房の様子を眺めておく事にする。
すると、案の定
3分経つか、経たないかの頃にチンピラさんが「姉ちゃん、まだ出来んのか、ゴラァ~」と、威嚇してこられた。
まだ、3分しか経ってないじゃんイキナリ、威嚇かい
まだまだ修行の足りない私は、ムッカ~ッとして、クルッと向きを変えると、「はい只今、厨房では一生懸命作っておりますので、もう少々お待ち下さいませ」
と、胸の辺りに握り拳を二つ出し、頑張ってるアピールをしながら、ニッコリ笑ってから小首をかしげる。
まさか、そんな反応が返ってくるとは思っていなかったのか、チンピラさんは、ボー然として、「・・・はい」とだけ返すと、静かに着席。
ムカッときて、何も考えないままに動いた自分の口から、あんなセリフが出てしまった事にもビックリしたが、それよりもチンピラさんのボー然とした姿が可笑しくて、可笑しくて・・・すぐに彼らに背を向けて、笑いを堪えるのが精一杯でした
そして、伯母さんも頑張ってくれて、2分程してから食事をテーブルに持って行くと、黙々とお行儀よく食べてくださって、お会計。
中堅の伯父貴が支払いを済ませた頃に、若頭が席を立つ。そして、レジ前に居る私にボソリと「姉ちゃん、迷惑掛けたな!」って・・・カッコイイ~
イイとこ全部、持って行っちゃった若頭であった
そして、彼らが店を後にして10分後、元ヤクザさんがお茶をしにやってきた。
セーフでした