寒の入りを迎えた頃であるから、病むさが厳しくなる時期である。身に染みる寒さも、堪えるなか僕は、渡し場のおじさんに深々とお辞儀を済ませると、再び文房具屋を目指して自転車に乗った。
 僕は自転車に乗りながら、自宅で寝ている父親のことを思い出すように考えていた。
 ただ、ひたすら病気のことが少しでも良くなるように、子供の僕ではあるが、その気持ちは人一倍であると幼いながら思っていたのである。
 そんなことで、僕は、父親と以前訪れた神社に寄ることにしたのである。その神社までは、もう一つの坂を超えなくてはならなかった。僕は寒さで凍えながらも、その峠の難所を力いっぱい踏み込みながらその坂を登り切った。
 それから、やっとの思いで、その神社にたどり着くことができた。

 まず僕は、父から教えられたように、お清め場である場所で両手を洗い、口をひとくち清めた。それから、鳥居をくぐると端を歩いてゆく。
(神様が真ん中を通るから、我々人間は端を通るようにするんだ!)
 父が、云っていた言葉をふと思い出す。
 そこの境内は、まだ人だかりで一杯である。正月の三日間は、大変賑わいを見せ、境内は混雑しているのを僕はなんとなく予想をしてみたりもした。
 それから神前にたどり着いた。お賽銭をあげて、お辞儀をして、少年は神様にお願いをする。
(どうか、お父さんの病が、良くなりますように)
(これからも、作文が、書けますように)
(福の神が来て、少しでも生活が良くなりますように)
 少年の想いには、三つのお願が含まれている。その父を思う気持ちは、心から願う切なる感情の表現であり、純情なる少年の悲しみを現わしているかのようであった。
 そして少年は、お土産売り場に足を運ぶことになる。
「あけまして、おめでとうございます」
 売り娘の巫女さんたちに、新年の挨拶をして、兄弟たちと家族のお守りを買うと、少年は、また隣町の文房具屋さんを目指して自転車を走らせた。
 それから、長い河川敷きの土手を走り、少年は隣町にはいる。入り組んだ通りを抜けて、とうとう文房具屋さんにたどり着いた。
 顔は冷たいし、手は感触がない。そして体は冷え切り、寒さが堪えるが此処まで頑張ってきた。
辺りは白銀の世界。深々と雪が舞ってきている。その空を僕は見上げていた。

つづく。