ーなんでこんなのがあるのよ…ー

トギはため息をついた
学会からの懇親会…
こんなの必要なの?

学会だけならいつでも出る
発表が必要でも別に構わない
でも、これ…いる?

麻酔科から産婦人科に移って
いい上司に恵まれて、
仕事も環境も悪くない
だから…代わりに出席して欲しい
と言われたら断れない

わざわざ時間をずらしての
ホテルで懇親会…
着替えてドレスで来ている女医サンもいる
ウンスと違って、自分はこんな所は似合わない
だからパンツスーツで来ていた

それに…1人は…ちょっと…
産科は…もしかしたら
会いたくない人に
会ってしまうかもしれない…
だから出席を躊躇した

ウンスを一緒に連れて来ようと思ったが
彼女は目立つ…
ハンギョル先輩もチラッと頭をかすめたが
やっぱり彼も目立つ…

ー華やかな友人を持つとこんな時困る
足跡残してさっさと帰ろうー
トギは苦笑いをした

飲み物を受け取り、ぐるっと会場を回る
顔見知りの人もいて
簡単に挨拶をすませて…

ーよしっ!
懇親会に参加したと実績は残せたよね
帰ろう!!ー

「よぉ!トギ!久しぶりだな!」

ーえっ⁈ー

「産科に戻ってきたとは聞いたけど
会えるとは思ってなかったよ」

「お久しぶりです…
ジョンチョル先生…」

いかにももてそうな
はっきりした顔立ちで
自信に溢れた目を持つこの男は
トギにとっては
思い出したくない人…
過去の不倫相手だ

「懇親会に出席するなんて、珍しいな?」

ーあなたにだけは
会いたくなかったからよ…ー

「今日は代理です」
「あぁ、なるほど
こんな華やかなパーティーは
君には余り似合わないからな」
「…そうですね
だから、もう帰るつもりだったんです
顔だけ出せばいいと思っていたので」
「せっかく参加したのだから、
もう少しいればいい
早く帰っても
どうせ待ってる人なんていないだろ?」
「…」

「俺が相手をしてやるよ」
ジョンチョルはニヤッと下品に笑った

ジョンチョルにとって女性は
全て自分に従う者だと思っていた
付き合うのも、捨てるのも自分の意思で
それが当たり前だと思っていたのに
唯一、自分から去っていったトギに対して
何故だかわからない
敗北感の様なものをずっと感じていた…

ー俺から離れた事を後悔させてやるー


目をギラギラ光らせ
嫌な言葉で、嫌な笑い方をするこの男に
トギは改めて嫌悪感を抱き、身震いした

ー何でこんな奴、好きだったんだろう?
前はもう少し紳士的だった気もするけど…ー

奥さんとの間に子供が出来て
落ち着いたんだろうと思っていたのに
愛人がいるらしい
と最近噂で聞いた

ー最低な奴…ー

「結構です。間に合ってます」
「え?彼氏いるのか?」
「…いますよ」
「冗談だろ?
君みたいに、
地味で人見知りが激しそうな女性を
彼女にする男がいるとは思えないけど?」
「随分と失礼ですね?
余計な事で、今足止め食らってますけど
こんなに早く帰れそうな懇親会なら
デートの約束をキャンセルするんじゃなかった
と後悔してますよ」
「へぇ?なら、紹介してよ
迎えに来て貰えばいいじゃないか?」
「どうしてあなたに
紹介しないといけないんですか?
関係ないでしょ」
「関係はないけど、興味はある
それとも、口から出まかせだけで
本当はそんな人いないから
困ってるだけなんじゃないの?」

ーどうして…私はこんな男の…ー

トギは自分が本当に情けなかった
こんな男を好きになり、
大切なものを失った
それは、どれほど祈っても償えない
決して忘れてはいけない事…


「連絡しないの?
まぁ、空想相手じゃ無理だよな?」

トギはギュッと唇をかみしめると
電話をかけた

携帯の呼び出し音が鳴る…
1回…2回…3回…4回…

ーおねがい…出てくれるだけでいいから…ー


「としもし、トギ先生?どうしました?」

ーごめんなさい!後で説明するから!ー

「もしもし?チュンソクさん?
今日はせっかくのデート
キャンセルしてごめんなさいね
すぐに終われそうだから
今から迎えにきて貰って
デート出来ないかなって思ったんだけど…
うん。うん。仕事入ったのね?
残念。仕方ないね
また今度、電話するね
じゃあ、お仕事がんばって」

トギは早口で一気に言うと携帯を切った

「へぇ〜?
そんな芝居に
付き合ってくれる相手は出来たんだ?」

そう言って笑うジョンチョルを
トギはキッと睨みつけた