午後三時 | かや

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中国古代・春秋時代の武将で軍事思想家の孫武(そんぶ)は兵法書『孫子』の作者とされている。
以前は戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かったが孫武は戦争の記録を分析、研究し、勝運は運では無く人為に因ることを知り、勝利を得るための指針を理論化し、後世に残そうとしたのが有名な『孫子』だ。その『孫子の兵法』は戦略書の知恵がそのまま実学として解説され様々な書物が書店に並ぶ。
中国古典は「老子」、四書(大学・論語・孟子・中庸)五経(易経・書経・詩経・礼記<らいき>・春秋)、法家、「墨子」、「孫子・呉子・六韜<りくとう>・三略」の兵法書、宋学・陽明学等々、そのどれもが人生全般について述べられ、全く抜け落ちが無いと研究者たちは言うが、東洋思想研究家田口佳史氏は著書『超訳 孫子の兵法』の中でとりわけ「孫子の兵法」はビジネスにも人生にも応用出来る「考え方と行ない方」が非常に具体的に説かれていると述べている。


「智者の慮(りょ)は必ず利害を雑(まじ)う」利を雑えて務むれば信(のぶ)可(べ)し。害を雑えて患(うれ)うれば、解く可し。是(こ)の故に諸侯を屈するには害を以てし、諸侯を役(えき)すれには業(ぎょう)を以てし、諸侯を趨(はし)らするには利を以てす。
「」の言葉の後、以上の文言が続くが、物事は利害の両面から考えなければならない、利益を求めるときには損失の面も考慮する、損失を受けたときにはどんな利益があったかを考える、そうすれば事はうまく運ぶし、いたずらに落胆することもなくなる、と「智者の慮(りょ)は必ず利害を雑(まじ)う」を解説し、どのような状況の時も物事を利害の両面から考え、常に自分に「智者の慮(りょ)は必ず利害を雑(まじ)う」と問いかければ、いたずらに舞い上がることも落ち込むことも無く、冷静に行動出来るようになるだろうと記されている。

基本は「陰陽論」で中国古典思想には〈陰陽和して元となす〉とする考え方があり、「陰」は内へ内へと入って来る働きで求心力、内部充実、革新的な性質のもの、一方「陽」には外へ外へと拡大していく働きがあり、遠心力、拡大発展的な性質を意味する。その陰陽の二つがバランスよく融合する状態を最善としている。
「陰極まれは陽となり、陽極まれば陰となる」とも言われ、陰の働きが大きくなると陽に転じ、陽の働きか過剰になると陰に転じるという具合に、見えない力が常に陰陽のバランスをとっているとされる。
「人間万事、塞翁が馬」や「禍福はあざなえる縄の如し」は陰陽論に由来していると言って良いだろう。
全てはいずれも両面を持ち合わせている。


昨日、朝から午後を跨いで数時間、友人のアジムットで海上に居た。デッキで仰向けに空を眺めていると、体の表側は全てが空に向いているが、裏側はデッキを通し船底を通して海、そして海底に向いている。うつ伏せになれば、今まで海底に繋がっていた背中側の体が空に繋がり、空と繋がっていた表側の体が海底に向かう。それが面白いなと思いつつ微睡んだ。
陸に戻り、小高い森の店のテラスで過ごした。テラスは海を眺望出来、背後は繁った森林が控えている。
心地良い風に吹かれ、視線を海に向ければ、キラキラと陽光を乱反射させ、時折飛沫をあげる海原が広がり、反対側に視線を向ければ、青々と繁茂した森林がやはり陽射しにいっそう緑が輝いている。そして、見上げた先に水色の空が一面に広がり、その空は海原の向こう水平線に繋がり、足元の地面は視線を辿れば街から海へと繋がっている。

午後三時。

風は海の匂いと街の匂いと森の匂いと、そして、二杯目に選んだテーブルのカモミールの香りを運んで来た。


sunday morning白湯を飲みつつ空を眺める。

本日も。特に何も無く。