裏路地の露店で、「声」を買った。

それは鉢植えの花の形をしていて、水をやって眠ると、朝には花を咲かせた。小さな花だった。「おはよう」とためしに声をかけると、俯いていた花は小さく「おはよう」と応えた。そして、そのまま枯れてしまった。

次の日に買った声は、もっと大きな花だった。派手な赤い花で、開くと一時に部屋が明るくなったように思った。それは、艶やかな声で愛の言葉を発音して枯れた。

その次に買ったのは、鈴蘭のような、小さな花が幾つも連なった苗だった。ひとつひとつの声は小さいが、口々に重なり合って話すので、なかなかやかましかった。何と言っていたかは、聞き取れなかった。

次に買ったのは立ち姿が美しい百合のような花で、開くと、馴染みの喫茶店のウェイトレスによく似た声で挨拶をした。姿勢のよい娘で、私は彼女がチョット好きだったので、朝から何となくいい気分になった。

午後、喫茶店に行くと、件の娘が顔に大きなマスクをしていた。如何したのかと尋ねると、咽喉を故障して声が出ないと身振りで言う。昨日来たときには確かに常の通りであった筈なので、随分と急なことだ。見舞いを述べて、店を後にした。

裏路地を覘くと、露天商がまた今朝の百合を売っていたので、一鉢買った。店は繁盛しているらしく、品揃えも段々と豊富になっているようだ。

街には、マスクをした人が多く歩いていた。


咽喉にくる風邪が流行っている。



なにしろ空っぽになってしまったので、花を詰め込んでみた。

綺麗でよかろうと思ったのだが、すぐに醜く枯れてしまうので、厭になってやめた。

生きているものならいいかと思い、今度は蝶々を詰め込んでみた。

ところがこれも、ばたばたと飛び回り、更には麟紛が酷いので、咳が止まらなくなってやめてしまった。

それならば動かないものにしようと思って、かたちのよい石を選んで詰め込んだ。

しかしながら、これは重くてたまらず、一歩も動けなくなって、捨てることになった。

それでは軽いものにしようということで、次には綿毛をいっぱいに詰め込んでみた。

これが曲者だった。

構造上、風を捕えるようになっているので、気を抜くとすぐにふわふわと飛び上がってしまうのだ。お陰で、えらい目にあった。

さて、困ってしまった。詰め込むのに適したものを探すのが、こんなに難しいものだとは思わなかった。やはりもともと詰まっていたものがいちばんかと思ったが、もうそれが何だか思い出せなかった。



何かを傷つけて生きるのが厭になったので、傷つける度に欠けてゆくように呪いをかけた。

そんなことをしていると腹が減ったので、食事の支度をすることにした。冷蔵庫を見ると、玉子があった。オムレツを作ることに決めて、玉子をふたつ取り出す。調理台に打ちつけて、ひとつめの玉子を割った。人差し指が飛んだ。人差し指が無いのは少々不便だったので、人差し指のあった場所に、ブリキで出来た人差し指を接いだ。

ふたつめの玉子を割って、かき混ぜた。ボウルを押さえていた手首が飛んでしまって、危うく卵液がシンクに滑り落ちるところだった。そのままではボウルを押さえることが出来ないので、其処にも、ブリキで出来た手首を接いだ。それからフライパンを温めて、半熟のオムレツを作った。

そんな風にして、欠けた所に次々とブリキを接いでいった。全身の殆どがブリキになってしまうまでに、それほど時間はかからなかった。全身の殆どがブリキになった僕を見て、恋人が涙を流した。最後に残った頭まで飛んでいってしまい、其処もブリキと交換した。それでもう、誰も傷つけなくなった。―――――――多分。