私は知的生命体である。いくつかある宇宙の中で最も古い「フィクティシオ」と呼ばれる宇宙が私の故郷だ。宇宙を彷徨う石が特殊な宇宙放射線を浴び知能を得た。それが私たちだ。見た目はただの石だが非常に優れた知的生命体だ。

 

 それがどういうわけか私はいま地球で漬物石にされている。なんたる侮辱だ。大規模な宇宙変動で地球に不時着したと思えば地球人に漬物石にされるなんて。これまで何度か他の星に行ったことがあるがこんな手荒な歓迎を受けたのは初めてだ。


 様々な罵詈雑言をしわくちゃな地球人に浴びせるがどうやら聞こえていないようだ。途方に暮れてしまった。その星の生命体とコミュニケーションが取れないということは故郷に帰れないことを意味していたからだ。

 

 数ヶ月が経った。依然として状況は変わらずだったが漬物石の彼に楽しみができた。ある日あのしわくちゃな地球人の孫がやってきた。彼女は変わった女の子だった。なぜか私に話しかけてくるのだ。漬物石の私に。彼女は学校であった事や家族の話を親身に語りかけてくる。馬鹿なんだろうか。私も話しかけてみるがやはり聞こえないようだ。けれど悲しくはなかった。彼女の話は漬物石生活唯一の楽しみになった。

 

 それから数年の間、彼女との日々が続いた。そして今日が最後になる。彼女は都会の大学に入学するようだ。引越しの荷物と一緒に漬物石も持って行ってくれないだろうかと期待したがだめだった。

 

 あの日から時が止まったようだった。もう何年経ったかも分からない。するとどこからか車の音が聞こえてくる。隙間だらけの部屋に白衣を着た大人びた彼女が入ってきた。「ただいま、迎えに来たよ」そう言うと彼女は漬物石を抱え外へ出た。漬物石に日が差し込む。

 

 私を助手席に乗せ車を走らせながら彼女は大学で宇宙生物学を学んだこと、隕石の調査中に生命体反応を確認したこと、祖母の家の漬物石を思い出したことを丁寧に話してくれた。

 

 あっという間に彼女が働く研究所についた。どうやら世界中で私の仲間が不時着したらしく見慣れた顔が転がっていた。彼女は白い部屋に私を運んだ。ここでは私たちの声が人間にも聞こえるらしい。「ここで故郷に帰りたいかどうかを確認しているの」と説明してくれた。随分前から知っているのに話すのは初めてだ。恐る恐る話しかける。すると止めどなく言葉が溢れた。


 気付くと5時間が経っていた。最後に彼女が何か聞きたいことはあるかと聞くので「地球外生命体を使うほどお漬物とやらは美味しいのか?」と聞いた。彼女は笑った。