珍しく電車に乗っていた日のこと。
ひとりの女性と目があった。
なぜか女性は席を移動して来て、私の隣りに座った。
ダウンコートのファスナーが動かなくなってしまったそうで、私に助けてくれ、と目配せしたようだ。
少なくともリクエストにはお応えする責務があると考えた私は、即座に微力を尽くし、ファスナーを動かした。
すると、女性は言った。
「私、サンリンボーなのよ~」
三りんぼう、という表記をカレンダーで見たことのある私は、意味の分からないまま女性の話に耳を傾けることにした。
興味は全くもっていなかったが、普段まったく鍛錬の機会がないので「我慢の訓練」と思い、嫌な顔をしない演技を続けた。
すると女性は歯科にかかっているそうで、次々に担当医が代わってしまい、治療の経緯を延々語りはじめたのだ。
担当医の治療方針がそれぞれ違うせいで何度も調子が悪くなったそうで、左右の噛み合わせがどうこう、など一生懸命話していただいたのだが、過去に歯列矯正をし、1年に1回歯科医から招待状をいただいている私に歯のメンテナンスの大切さを説かれても、微笑んで同意するしかない。
お立場にはいささか同情を禁じえないのだが…。
そのあと、なぜかご子息とご息女のお話になり、
「頭脳は安く売っては駄目よ」
とのありがたいご託宣をいただいた。
と、三りんぼうについて家に帰って辞書で調べてみると、
「この日建築すれば火災を起こし、近隣3軒をも亡ぼすという忌日」(広辞苑)
とあった。
漢字では「三隣亡」と書くそうだ。
意味を知ると、軽々に口にするのははばかられる言葉である。
ひとりの女性と目があった。
なぜか女性は席を移動して来て、私の隣りに座った。
ダウンコートのファスナーが動かなくなってしまったそうで、私に助けてくれ、と目配せしたようだ。
少なくともリクエストにはお応えする責務があると考えた私は、即座に微力を尽くし、ファスナーを動かした。
すると、女性は言った。
「私、サンリンボーなのよ~」
三りんぼう、という表記をカレンダーで見たことのある私は、意味の分からないまま女性の話に耳を傾けることにした。
興味は全くもっていなかったが、普段まったく鍛錬の機会がないので「我慢の訓練」と思い、嫌な顔をしない演技を続けた。
すると女性は歯科にかかっているそうで、次々に担当医が代わってしまい、治療の経緯を延々語りはじめたのだ。
担当医の治療方針がそれぞれ違うせいで何度も調子が悪くなったそうで、左右の噛み合わせがどうこう、など一生懸命話していただいたのだが、過去に歯列矯正をし、1年に1回歯科医から招待状をいただいている私に歯のメンテナンスの大切さを説かれても、微笑んで同意するしかない。
お立場にはいささか同情を禁じえないのだが…。
そのあと、なぜかご子息とご息女のお話になり、
「頭脳は安く売っては駄目よ」
とのありがたいご託宣をいただいた。
と、三りんぼうについて家に帰って辞書で調べてみると、
「この日建築すれば火災を起こし、近隣3軒をも亡ぼすという忌日」(広辞苑)
とあった。
漢字では「三隣亡」と書くそうだ。
意味を知ると、軽々に口にするのははばかられる言葉である。