ここからは小説風に進めていきます。
「こわいよ。」
彼女が一番初めに口にした言葉はそんな言葉だった。これがはじめの会話だったといってもいい。公園で待ち合わせをして彼女が口を開くまでに僕らはもう、1キロを超える距離を歩いていた。まん丸に近い満月がきれいにぽっかりと南西に浮かんでいて薄暗い中、街頭が心ともなく照らしたり、木々が月明かりを隠し作ったりする闇が交互に続くなか、無言でずっと。1m先を歩く彼女の後ろをただ、僕は自転車を押してついていく。どこに行くのかもわからない、もっとも「どこに行くの?」という言葉を発そうとは思わなかったしこのまま歩くのも悪くないと思っていた。ただ会話の糸口が見つからないそんなときに急に話しかけるもんだから、僕は戸惑った。
どういう言葉でかえそうか、僕は迷ってしまった。うまいきりかえしが出来ない。というか、何が怖いのだろう。俺のほうがずっと怖いよ。なんて言えるわけなかった。
「ずっと無言なことが?それとも後ろをずっとついてきてるのが?」
「どっちもだよ」
「お前が歩くの速いんだよ」
返答はなかった。また無言になる。誰もいない公園の静寂の闇にカラカラと自転車の音が響く。もう冬といっていい季節になっていた。秋はいつの間にか終わっていた。吐いたため息は白かった。
「俺のほうが怖いよ、今日のお前はずっと何もいわねえし、不機嫌そうだし。」
「そんなのあんたの被害妄想でしょ。」
その返答にまた僕は詰まってしまう。今日は言葉がうまく出てこない。いや、いつだって言葉がうまく出てきたことなんてなかったんだけれども。
「でも俺はそう思った。」
返答はない。カラカラ、カラカラ。僕は続ける。
「ねえ、お前がけして不機嫌じゃないことと、俺がお前が不機嫌だって思うことってどっちが正しいと思う?」
返答は期待してない。僕は続ける、
「俺はさ、どっちも正しいと思うんだよね。きっとさ、いわゆる真実って言うもんはそんなもんだと思うんだ。物事の本質なんてきっとはじめからいらないんだよ。きっとさ、どんな正しいことを主張ても誰もわかんなければ意味がないと思うんだよ。正しいのに正しくない。正しくないのに正しい。そんなことって世の中にあふれかえってるんだよ」
だから怖いんだよ。
「わかってる。って言葉は俺はすげえ怖い。わかっているってことはそこで終わっちゃってるんだよ。いろんなものが終わっている。いや、完成してるっていったほうがいいか。その先がないんだよ。人間って変わっていくのに、完成することなんてないのに、わかってるなんてありえないのに。永山は私のこと一番わかっているって言う言葉はね、正直怖いんだ。今まで俺はお前のことわかってたことなんてあっただろうかって考えてしまうんだよね。そしてわからないのにわかったふりしてお前のそばにいようとして、遠ざかって行く。」
今まで俺はその繰り返しだったとおもう。
「あはは、考えすぎだよ。あ、でも考えなかったら永山じゃないか。」
笑いながら彼女は言う。まじめに話しているのに笑うなんて酷い奴だってむっとする感情と、やっと笑ってくれたという安堵感が混ざりなんともいえない変な気分だった。
「何も言わなくてもわかるって言うのはありえないよ。やっぱり言葉は最大のコミニケーションツールであるんだよ。わかってるって言葉で会話をなくした関係に終わりはあっても始まりはないと俺は思うんだ。」
だから。
だから。
「なんかしゃべろうぜ」
僕は自転車を押す速さをあげて少し駆ける。君とならんで歩くために。君の隣に行くために。
これからも君の隣にいれるように。