飽食の時代に何不自由なく暮らす女子高生が、戦時下の日本にタイムスリップしたら、というのが前編、もしものコーナー。
特攻隊員彰と出会い、助けられ、隊員たちが集う食堂で取り巻きの人たちとともに特別なひと夏を過ごす。
戦時下の暮らしを一言で表すと、ああ悲惨。
悲惨の中にも、まわりの人たちとの助け合いや交流もある。
百合が好意を寄せる彰は、特攻機のコクピットから、こめかみに当てた人差し指と中指を軽く振って、グッドラック、と敵性語は口走らないまでも、微笑をたたえ、ユリの花を抱いて飛び立っていく。
この本編は、そのつづき。
後編は、女子高生が現代に戻り、成長して、高校教諭になっている。
思い出のユリの花咲く丘に出向くと、彰の面影がほんの少しある涼がいた。
涼は、一目で百合が好きになる。
都合よく、涼が産休の教諭の代理としてやってくることから、ラブストーリーは突然に。
涼は、百合にまとわりつくが、百合はどこか心ここにあらず。
百合が海辺にいると、かんかん照りの暑い盛りの中、干からびてしまいそうな婆さまが旧知の間柄のように話しかけてくる。
特攻隊員が飛び立った時に美しき十代の娘だったなら、百近いのではなかろうか、と思われるが、砂浜を歩いて杖ついて出ず、となって物語は進展する。
ホスピスに暮らすチヨは、ともに食堂で過ごした戦友、というか、マブダチ。
のちに、結婚して、三児をもうけた、とほんのさわりだけ、詳しくは、のちほど。
百合先生は、戦争についての特別授業を企画する。
当然ながら、涼も全面協力。
目標に向かって力を合わせて突き進む、というのは、ラブストーリーの肝であり、要。
戦争について講義をする百合先生。
あまりの迫真性に、講釈師かぁー、とツッコミたくなるところだが、見てきたような、ではなく、ひと夏の経験。
特攻隊員が飛び立つ前に残した家族への手紙を、生徒たちが声に出して読み上げると、教室の空気は一変、これには胸を打たれる。
涼の後任がくることになり、臨時教員も打ち切り、思いを告げるにはタイムリミットが。
イギリスへ留学することにする。
戦争中は鬼畜米英なんて言っていたのでは、などとはツッコまない。
百合も、彰への思いにとらわれ、モヤモヤしたまま。
涼は唐突に告白、百合は時間の猶予を、と返事を棚上げ。
百合は、彰のことを、タイムスリップしたことを涼に伝えないといけない。
涼が出発するまつりの日、運命の夜。
百合はホスピスを訪ね、チヨの恋バナ、夫婦の秘め事を聞いて、自分の進む道を確信する。
百合は、坂道の急カーブを曲がりきれず、自転車で激しく転倒しても、バスの出発時間に間に合うよう、走りまくる。
戦没者追悼花火が打ち上がる。
暮れなずむ街並みに、スターツの青い看板だけがやけに目立つ。
涼は、戦争記念館で佐久間彰曹長の遺影と手紙を見たあと、走り出す。
百合がバスターミナルに到着すると、時計は出発時間の二分後。
あちゃー、と思った瞬間、メールが。
佐田啓二と岸恵子の時代とは異なり、すれ違いは起こらない。
待ち合わせは、言うまでもなく、あの星が降る丘。
走る、走る、汗だくになり、汗くさくなっても、走る。
君とまた出会いたい一心で。
息を切らし、丘に駆けつけると、背景には景気よく打ち上がる花火が夜空を焦がす。
好き好き好き好き好きっ好き、と臆面もなく垂れ流す、お互いに。
ひしと抱きしめ合い、好きなところを箇条書きにして述べる。
揺れる思いからだ中に感じて。
なんと露骨なハッピーエンド。
めでたし、めでたし。