派遣されている職場では、いろいろな会社に所属している人たちがきていて、違う立場の人たちが寄り集まって運営しているのですが、その中に、以前は市町村の役人と同様のみなし公務員のような立場の人たちもいて、若手の社員のひとりが、「育児休暇」を取って、一年ほど休むという報告をしに、上司をともなってあいさつにやってきました。
立場は違っても、職員の人たちは、ほとんどが高校や大学を卒業して以来、ずっとこの職場にいる人たちなので、待遇もよく、休みも多く、20年も30年も顔を合わせつづけ、狭い世界で、他の業界とはあまり接触もなく、気心知れているため、阿吽の呼吸、あるいは馴れ合いでやっているところがあって、好きなことを言い合い、場合によってはハラスメントや差別発言に近いものがあっても、誰も目くじら立てず、平和のうちに日々やるべきことだけをやって、定時にさっさと帰り、期末調整だの、精勤だのと賞与以外にもことあるごとに手当てが出て、旅行券やビール券などもことあるごとに支給されていて、そういうのは部外者には一切関係のないところであって、身分の違いとあきらめるほかはなく、ましてや、「育児休暇」を取らせてくれなどと申し出たら、有給休暇すら取れない状況であるのも踏まえた上で、「うちではそういったことに対応できないため、お引取りください」と言われ、間違いなく退職にいたるのみだと思われます。
育児休暇に入る人が、「サッカーチーム作れるくらい子供作れよ」とか、「英才教育で東大にでも入れる気か」などと茶化されていたのですが、根がまじめな人のようで、「そんなに作ったら破産しますよ」とか、「オヤジは高卒でも大学までは最低でも進学させますよ」などと答えていて、「LINEで子供の写真ガンガン送りつけないでくれよ」とか、「最低でも5、6人頼むよ」などと言われると、「たまに送りますから、イイねしてくださいよ」とか、「そんなにいたら、マジ中学出てみんな働いてもらわないといけないからダメですよ」などと真顔で答えていて、「いまの世の中、高校まではただなんだから、カネいらないでしょ」などと直属の上司からも言われ、「やっぱり人に自慢できるくらいのレベルでないと、人にアピールできないんで」などとわりとほんとうのところを言う人なのかな、と思いながら、黙って聞いていましたが、給料をもらいながら子育てできることを、当たり前の権利のようにとらえていて、権利を行使することに何の疑いもためらいもなく、幸せなことだ、とか、ありがたいことだ、とは思っていないように見受けられ、淡々と手続きが進められただけのように思われました。
その人が育児休暇を取るために、ひとり有資格者を募集し、二か月ほど前から見習い期間として、すでにきていて、新しく雇われて入ってきた人が、毎年自家用ダンプを車検に出している整備工場の若手社員だったのには、お互いに顔を合わせた瞬間に驚いてしまいましたが、気安く話しかける身分にはなく、おそらくはただの雑用係のオヤジで、何の権限もなく、一番下の身分であり、その上司も顔を合わせてもあいさつすらしない人なので、「あんなものにあいさつもしなくていいから」と予め言い含められていたような感じで、その後、あいさつをしても、顔をそむけられるようになってしまいました。
育児休暇を取ることについて、周囲の人たちも、表面的には理解を示しているように振る舞っているものの、内心では面白くないことが言葉の端々から伝わってきて、「土日はずっと仕事で、オレなんか、3人の子供の運動会にも授業参観にも、何ひとつ行ってやれなかった」とか、「滋賀県にもひとりいるらしいけど、よそからひとり応援頼んで、その職員が単身赴任している」とか、全面的に賛同しているわけではないらしく、「「これ以上予算がないんで、もうひとり長期休暇になったら仕事が回らなくなるな」とか、「言っちゃいけないのだろうけど、(休暇を取るのは)かんべんしてほしい」とか、口をつくのは好意的な言葉ではないところに、複雑な思いが見え隠れしているようです。