「借金をすることによって尻に火をつけないと仕事をする気にならない」というのが口癖の人がいて、それを聞くたび、笑って聞き流していたのですが、いろいろと不愉快な言動や金銭トラブルなどが重なり、付き合いを断たないといけないと思い始めた矢先、またしても相も変わらずの口癖が飛び出してきた際、つい反射的に「それって普通に考えてものすごく損なような気がするし、ものすごく頭が弱い人の考え方のように思う」と本音を口にしてしまい、もう一生で二度と会いたくもない人なので、そのまま言い訳や訂正をすることもなく立ち去り、その後も会わずにすんでいるため、精神衛生上とてもいい状態で、借金を返済したのか、踏み倒したのかは不明ながら、他人のことなのでどうでもいいことであり、自分の身の上としては、借金をせず、ほんとうに会いたい人だけに会い、ほんとうに行きたいところだけに行き、ほんとうにやりたいことをやり、心穏やかに過ごしたいと切に願っているだけに、まったく考えの違う相容れない人とは、このまま顔を合わせずに何とか無事に暮らして行きたいものだと願っています。
借金をしないと仕事をする気にならないのは、おそらく、会社に雇用されているわけでなく、気が向いた時に、バイクやバッテリー、エアコンなど、さらえば金になるものを回収に出れば、それなりに収入が得られる気楽な廃品回収稼業を若い時分からつづけてきたことに由来すると考えられ、人生の大半はパチンコ屋で過ごし、パチンコで勝利しているうちは天下を取ったような喜びに打ち震えるのでしょうが、そういう絶頂の至福の日々はあまり長くつづかず、借金をしてでも行くようになり、それを励みに仕事に精を出したこともあったのかもしれません。
友人や同僚、近所の人、同好の士たちとの語らいの場で、仕事についてやギャンブルについて、借金への考え方などの話が出てきた時、「借金をすることで尻に火をつけないと仕事をする気にならないと言って実行している人がいる」という話を持ち出したことがたびたびあり、「借金をしないように仕事をするのが当たり前」とか「借金しなくてもいくらでも仕事に取り組める」とありきたりながら真剣に答える人もいれば、「バカじゃないの」とか「そんな考え持っているやつがこの世にいるとは思えない」と一刀両断に切り捨てる人もいて、一般的なまともに働いている日本人には受けがわるいようで、少なくとも、賛同して、共鳴する人はひとりもいませんでした。
還暦近くなるまで、ひとつの考えにとらわれて、思い込んでいる裏側には、そういう思い込みにいたる出来事があったことは間違いなく、パチンコで借金をこしらえたことを、家族を養うために借金をしたとすり替えたい気持ちも含まれていて、「子育てには淡白」なのだそうで、子供の教育にはまったく費用をかけないのはもちろん、食費すらもすべてパチンコにつぎ込む情熱があり、一切省みないのには、もともと、学校や職場という規律を守る必要のある場所にはなじまず、人の言うことにはまったく耳を貸さず、頭脳明晰で博識であると自分を高評価していて、他人は頭がわるくて理解ができないと蔑んだり見下したりして、楽して金を儲けて、自由な時間を謳歌しようと企て、ナンパやテレクラでモテモテの人生を楽しみ、自分の人生を肯定し、自慢しているからであって、借金を払えなくなって追い込まれても、誰かしらが、いつの間にか清算しておいてくれる人望の厚さもあいまって、借金と仕事に関する哲学を貫き通してきた素晴らしい人生は、まさに「わが人生に悔いなし」だと思われます。
借金をして、返済をするということは、利息の分だけ余計に働かなくてはいけないということであり、思うように稼げなければ、そのために「貧すれば鈍する」状態になり、支払うべきものを支払わず、目についたものをかっさらってしまう誘惑にかられ、不安定な精神でいやしい行動に出る可能性が高まるはめになるわけで、そうならないようにしたいと願うのが一般的であり、商業行為として、商売上借り入れをするのは、必ず利益を乗せた分が確実に手元に返ってくる計算が立つからであって、やみくもに借り入れたら、利息で首が回らなくなるだけであり、そういう計算のできない人は、ただ単に商売に向いていない人であって、算用と始末が肝要なのは小学生でもわかることであり、この世で一番大切なのは「信用」であって、信用は金銭と密接にかかわりがあり、信用とは自分にはあるのだと主張することではなく、他人によって評価されるために、一度失うと取り返しがつかず、借金があるがために不本意ながら卑怯な振る舞いになってしまう場合もあり、やむを得ず借金をした場合においては、きちんと利息も含めて支払うべきものは支払い、現実を見据えて、嘘やまやかし、言い訳に逃げることなく、一刻も早く返済するのが得策であり、最低限、自分の足でしっかりと立ち、社会と向き合い、他人と向き合い、その上でやれる範囲でやりたいことをやるしかないのではないかと考えています。