


鉄打出とは、一枚の鉄板に熱を加えて、金槌で薄く打ち延ばし、置物や過敏など立体的な造形を生み出す高度な技術で、他に例を見ない卓越した技巧であり、さかのぼれば、自在置物などを製作した江戸時代の甲冑師に行き着きますが、山田宗美(1871~1916)は、鋭い観察眼によって対象の本質をとらえ、独自の美意識によって細部にいたるまで魂を込めて作り込まれ、まさに「鉄に生命を吹き込んだ」作品の数々でした。
加賀藩御用の刀剣鍛冶の家に生まれ、当初は父の宗光とともに創作に励み、鉄打出の技法を確立後は、日本美術展覧会などで受賞を重ね、最高の栄誉とされる「帝室技芸員」に地方在住者として初めて内定したものの、発表前に惜しくも急逝しました。
鉄という素材は、写実表現になじまないような気がして、大雑把に成形するだけでも技術はかなり必要だとは思われますが、大黒様のふくよかな表情や足の指の一本一本であったり、ウサギの頬が動いていそうでいまにも飛び跳ねそうな躍動感であったり、香炉や香合の紋様の美しさであったり、手に取って眺めることができたら、どんなに至福のひとときかと思えてくるほどの魅力にあふれていました。
現在まで技術が引き継がれていないのが残念ではありますが、江戸から明治にかけての名工は、いまほど情報もなく、素材も道具も限られた中で、自らの腕のみで名品を作り上げたことに尊崇の念を抱くとともに、人間の創造力は、機械やコンピュータに頼らなくても、無限の可能性を秘めているものだと感じさせ、創造の喜びを語りかけてきていました。