


すっかり夜も更けて、誰もいない運動施設の脇を進んで行くと、突然、明かりのついた三階建てのビルが見えてきて、近づいてみると、明かりは美容室が営業していたためで、数人の美容師が立ち働くのがガラス越しに見え、ホテルと思われる部分には明かりがなく、2階と3階のいくつかある客室の電灯もついていないようで、薄暗い入口からは、ほんの少しだけロビーの蛍光灯の光がもれてきていました。
ホテルの中へと入って行くと、豪華な石造りのアーチがあり、ロビーには、ガラスケースに民芸品がたくさん飾られ、応接セットやついたてなどが置かれて、通り道はひとつしかないかのようにフロントからエレベーターに向かっていて、フロントと思われる机の上にも何かと品物が置かれているために、わずらわしさと息苦しさを感じて、ない方がましなものだらけ、全部捨ててしまったら、すっきりと広々した快適空間になるはずで、ものに囲まれているのが幸せな昭和の高度成長期に迷い込んだような、田舎の年寄りの家に行って、旅行に行って買い込んできたか、誰かにもらったかした古ぼけた土産物が大事そうに陳列してあるのを見せつけられた時のような、何とも言いようのないどんよりした気持ちになって、2階の客室へと向かって行きました。
客室は、古さは感じるものの、思ったほどひどくはなくて拍子抜けしましたが、ユニットバスは老朽化どころではない傷み方で、当然ながら清潔感はまったくなく、ここでひと風呂浴びようという気持ちにはなれないばかりか、排水溝が壊れていて、ウサギかタヌキでも獲るワナのような状態、足がはまったら抜けなくなりそうで、洗面所より奥へは立ち入らないのが無難という結論に達し、24時間入浴可能な大浴場を利用、脱衣場は傷みが目立つものの、シャワーがぬるかっただけで、浴槽と湯はきれいで、ゆっくりつかることができました。
いくつもの客室のほか、宴会場や大浴場があり、おそらく、建設された当初は、素晴らしい近代的な設備を誇り、企業や役所、町内会などの宿泊をともなう懇親会などに使われ、場所柄、学生の運動部の合宿などにも大いに利用されたと思われるのですが、時代の流れの前に施設は老朽化し、顧客の求める清潔感や快適さはもはや望むべくもなく、宿泊にしても、宴会にしても、他の施設との競合に打ち勝つためには改装をするしかないのは誰の目にも明らかであっても、さまざまな事情が許さないという一面もあるのはいたしかたのないところで、野球場の真ん前にあるという野球観戦には最高の立地と、昭和の「古きよき時代」の名残りを感じられる味わい深い建物に泊まる貴重な体験ができるだけでも、思い出が刻み込まれ、ありがたい話で、機会があれば、また泊まることになりそうな気配は感じています。