こどものころ、「ほんものは誰だ」という土居まさる司会のバラエティ番組があった。
私は、あまり好きではなかったが、毎週欠かさず見ていたのだった。
なにしろ、地方ではチャンネルが4つしかなく、うち2つはNHKの総合と教育なので、必然的に二者択一になってしまっていた。
いまでこそ衛星放送やケーブルテレビができ、選択肢が広がってきたが、地上波に関しては、民放2局という状況は変わっていない。
「ほんものは誰だ」という番組名の通り、ある偉大なことを成し遂げた人物は、もっともらしいことを言っている3人のうちの誰か、を当てる一種のクイズなのだった。
ゲストのタレントが、いろいろと質問をして、「ほんもの」を探し出すわけだが、いまも、たったひとりの「つわもの」を時折思い出す。
「日本全国を無賃乗車で一周した」方なのだ。
よくいえば「薩摩守ただのり」、わるくいえば「ただの犯罪者」、よくもまあ、テレビにでてきたなあ、というのが私の感想だった。
「改札はどうやって通り抜けたんですか?」
あるタレントの問いかけは、愚問だったが、私も訊いてみたいことだった。
1番は、定期券の日付のところを指で押さえて通り抜ける、と答えた。
2番は、定期入れを堂々と見せて、開くのを忘れたフリをして通り抜ける、と答えた。
3番は、定期入れに鈴をつけて、チリンチリンと鳴らしながら通り抜ける、と答えた。
私には、そんなことで通り抜けることができるのなら、苦労はないような気がしたけれど、凡人にはまねの出来ないことをするから立派なんだろうと、納得するほかなかった。
質問がひと通り終わると、「ほんもの」が立ち上がるのだが、「にせもの」の方も心得たもので、立ち上がろうとしたり、中腰になったりして、番組の盛り上げに一役かっていた。

成長した私は、上京して、旧国鉄と西武鉄道に、「キセル乗車」でつかまった。
旧国鉄のときは、始末書を書かされたし、両方とも三倍の運賃を支払った。
駅で取り押さえられるというのは、みっともないことで、なさけないことこの上ない。
駅員は、混雑の中でも、よく見ているものだと感心した。
せこい金を浮かすために、恥ずかしい思いをするのは割に合わない、と身にしみたからではないが、いまは目的地まで正しく切符を購入している。当たり前だが。
いまも時折思い出す「薩摩守」、切符を買わずに日本一周するというのは、やはり、幾多の困難を乗り越えた偉業というしかないだろう。
鉄道員のみなさまは、激怒しておられるでしょうけれど。