「いやあ、3月のアタマから一日の休みもないんだよ、忙しくて」
トラック一台で、とにかく金になるものをかき集めてくる、という仕事をしている人が、私を見つけて話しかけてきた。
ぼやいているようだが、実は自慢をしにきたのだった。
この人は、荷物の売り先が一銭でも一円でも高いところに持って行く。
私は片づけばいいので、相手の評価にすべて従うのだが、この人の場合は、苦情を言ったり他社の買値を言ったりして、一円でも多く自分の懐に入るように交渉する。
勤勉で、力強い人だ。
「土曜も日曜も仕事ですか」
「お客さんに呼ばれると、行かないわけにはいかんだろう」
「すごいですね」
「今日これが三回目、鉄くずおろすの」
いい取引先を見つけたか、効率よく回れて思わぬ高収入がころがり込んできたか、脳内で快楽物質が出っ放しになっているようで、舌も滑らかだった。
この人は、テレビやエアコンが金になると聞けば、朝から晩まで集めて回り、鉄の相場が上がったと聞けば、日の出から日没まで回収しまくる、抜群の行動力で金を稼ぐのが趣味、という人だった。
バッテリーを売るために、150キロ離れた精錬工場へ行くときには、午前4時半に起きるそうだ。
何しろ、2トン車に6トン以上積んでいるのが自慢なのだから。
この人の話題は金のこと以外ない。
5,6年前から知っているのだが、自分がいかにたくさん稼いでいるかが自慢で、私も含めて、割の合わない、稼ぎの低い仕事をしている者を見下して、悦に入っているのだった。
ある時、私が「先週東京行って友人と酒を飲んできましたよ」と世間話をしたところ、
「金かかるだろー」
と間髪をいれず、悲鳴のような素っ頓狂な声を上げたのには、さすがにびっくりした。
私の場合、金は使うために稼いでいるのである。
「タフですね、私にはマネできません」
「慣れだよ、慣れ。昼寝は一時間してるけど」
この人は40代後半で、世間的には男盛り仕事盛りかも知れないが、鉄くず、バッテリーやその他もろもろをトラックに積み込むのは、体力勝負以外の何ものでもない。
この人の仕事をする原動力は、金が入ることだけだろう。
誰にも搾取されず、丸々自分の儲けになるということで、満足感は大きいと思う。
しかし、それは可処分所得ではないのである。
残念なことに、いくら骨身を削って家電や鉄くずやバッテリーを集めてきたところで、高は知れている。
私の知り合いに県庁や市役所に勤めている人がいるけれども、彼らの厚い待遇にはかなわない。
将来のことのみならず、現時点でも、労働時間や保障の面でまるっきり劣っている。
比較をしてみてもどうなるものでもないが。
私は乗りかけた船でここまできてしまい、ほかにすることも見つからず、生活費を稼ぐために、誰にでも出来る仕事を、誰にでも出来るようにやっているだけだ。
自分に合った仕事など、どこにもない。
割のいい仕事を選び取るなどということもできそうにない。
明日も今日と同じように過ぎるだろう。
「私の県庁の知り合いが、どうしても10日間は有給を取らなくてはいけないらしくて、去年の6月北欧回ってきたって言ってましたよ」
「私の金沢の友人が、ネットで週に30万くらいしか売り上げがないってぼやいてましたよ。エスティマをキャッシュで買ったって言ってましたから、今週末あたり家族でキャンプに行くんじゃないのかな」
と口にしようと思ったけれども、この人の上機嫌に水を差しては申し訳ないような気がして、何も言わないでおいた。
「いいですね、お客さんがいっぱいいて。うらやましいですよ」
私は竹ほうきを借りて、荷台に残った細かなごみを落とすため、飛び乗った。
「一日一万くらいならアホでも稼げるけど、もっと稼ごうと思ったら、頭使わんとな」
この人は私を見上げながら、へっ、へっと声を上げて笑った。
私は苦笑いするほかなかった。
見下ろすと、頭頂部がかなり薄くなっているのを発見した。