ビールを飲んで、昼寝して、目が覚めたら、午後10時を回っていた。
メシを食いに行こうと思い、上着を着てホテルを出た。
あたりを見回すと、スーパーの灯りが見え、その前に電飾看板がハデに輝いている。
導かれるようにその看板の矢印の方へ進んで行った。
「喫茶店」と書いてあったが、中は普通の食堂だった。
私は「カキフライ定食」450円を注文した。
スポーツ新聞に目を落としていると、中年カップルが2組入ってきた。
「わしのおごりや、なんでも頼み~」
「好きやわぁ、そういうとこ」
「あっついなあ、たまらんわー」
いきなりにぎやかになった。
目を上げると、正司としえに似たおばさんが、額の広いパンチパーマのおじさんにしなだれかかっている。二人とも、顔が大きかった。
カキフライ定食が運ばれてくる。
カキのつぶは小さいものの、飯やみそ汁など充分な量があり、しょぼいのではないかという私の懸念を吹き飛ばしてくれた。
黙々と食べ終わり、代金を支払って、私が入ってきた自動ドアの方に歩いて行くと、
「そっちのドアは開きまへんで」
と店のおじさんに呼び止められた。
「そっちは入口専用ですねん」
私はへらへらと愛想笑いを浮かべて、レジのある方の出口に戻って行った。
入口と出口を厳格に分ける必要があるのだろうか。
表に出て、冷たい夜風にあたり、私にある考えが浮かんできた。
もしかして、「食い逃げ防止」ではないか、と。
24時間営業なので、酔っ払った客が金を払うことを忘れてしまうかもしれないし、腹いっぱいになってついうっかり店の外に出て行ってしまうかもしれない。
余計なトラブルを未然に防ぐ素晴らしいシステム。
「ひとつかしこくなりました」と、店主の手を両手で握りしめてお礼を言いたいような、少し足取りも軽くなって、「人生っていいな」という気持ちがふつふつとわいてきたのだった。
(つづく)