まあ、この時期になると、「今年1年のベストテン音楽」的な企画がありますが、最近、音楽を集中して聴くことが中々出来なかったり、生き急いでいるのか、今年の前半なんて、何聴いていたかも忘れていることも多々ある訳で、そう言った意味で、本当の2020年ベストテンはどんな意味があるかもよく分からないですが、まあ、気張らず、つらつらと思い出してみた「今年、よく聴いたかも?音楽10選」みたいなものを書いてみようかなとも思います。(順不同で、思い出した順に書いてみますので、数字には意味はありません、悪しからず。)

1) John Cage “Variations VII”. 2LP
 John Cage自体は有名な作曲家ですし、皆さんも一度は聴いたことがあるとおもいます。個人的には、あの傑作名高い”Variations II”は好きでしたが、この2枚組の”Variations VII”は久しぶりに、現音系ではぶっ飛んだ❗️盟友のDavid Tudorも参加したライブエレクトロニクス。ノイズと現音を結ぶミッシング・リンクでもある。私は現音を欲する時が定期的に来るんですが、その度に音圧の無さにがっかりすることが多いんです。そんな中で巡り会えて良かったと思えるアルバムです。
  日本のパンクのオリジネーターでありながらも、現役で日本のアンダーグランドシーンの牽引者でもあるPhewさんが、今までの音源からと新録から成る作品をコンパイルした新作CD。私はそれまでにも、CDR作品も聴いてきたし、YouTubeでもライブの様子を見てきたが、この新作には思わず「唸って」しまった❗️最近の路線でもあるヴィンテージなアナログシンセとリズムボックスとヴォーカル/ヴォイスと言う簡素な楽器から奏でられる音楽は唯一無二な音楽であり、特にPhewさんのヴォーカルはその声質と歌詞と相まって、一聴しただけで、彼女の世界に引き込まれてしまう魔力がある。非常にミニマムな音のみで形成された抽象的な音楽なのだが、その効力は最大限の効果を発揮している。なので、選曲が予想外であったと言う意味において「唸って」しまったのである。また、次作では我々の予想を越えた音楽を聴かせてくれると思う。


3) Former_Airline “Postcard from No Man’s Land”  cassette
   こちらも日本のアーティストであるが、東京在住の久保正樹くんがやっているソロユニットがFormer_Airline(FAL)である。以前より交流があり、作品を交換していたのであるが、彼の魅力と言うのは、その「中庸性」にあると言える。特に突出した音や効果音などは使っていないにも関わらず、極私的音楽を淡々と紡いでいく、その姿勢に感銘を受ける。また、そのような姿勢からも、彼の音楽はダビーな音処理とあり、独特の浮遊感を持って、我々の耳から脳に入ってくる。明るい長調の曲も何故か祝祭的ではなく、私的なちょっとした嬉しさみたいに感じられる。ミニマルな曲が多いが、プチ・トランスな感触も忘れてはいない。FALの名前を見て「ニヤっ」とした貴方は彼の音楽を聴くことをお勧めする。
  もう浸透しているのか?日本在住の英国人ノイズ・ミュージシャンKenny Sandersonの新しいソロノイズユニット名(Facialmess名義で長年活動していた)。Facialmessが所謂ハーシュノイズ或いはカットアップ・ハーシュであったことを考えると、大きく転換し、一聴、コラージュとも捉えられるアブストラクトな音楽を奏でるようになった。そんな彼が、ライブだけではなく、音源も残そうというのも一つの転機ではある。ラウドなサンプリング・ノイズとエレクトロニクスの絶妙なコンビネーションは最早、彼自身の代名詞となりつつあり、また、このスタイルは今の日本のノイズシーンでも特異かつ異質な存在である。何故、彼がFacialmessでのカットアップ・ノイズからこのようなアブストラクトな音響ノイズに転換したかは預かり知れないが、今年出たCDの中でも良質な作品であると言えよう。

5) 石橋英子 “Hyakki Yagyu (百鬼夜行)” white vinyl LP
  別にバンドメイトだからとかではなく、以前より、その時々の音楽を聴いてきたアーティストとして、このアルバムは素晴らしいと素直に思う。これの少し前にBamdcampに挙げていたトラック辺りからも、既に変化は見られたのだが、(誤解を与えるかも知れないが)敢えて言うと、Yoranの名盤”Montparnasse”を彷彿とさせる、雑音にかなり近いところでギリギリ楽音を保っている繊細かつ強靭な音楽だと思う。そう❗️無声映画の「サントラの」ような絵画的音楽なのである。こんな音楽は稀にしか存在しないし、また、あったとしても、サントラ以上に、時にその存在を主張し、時に受け入れる音楽はそうそう無いものである。そう言った意味で、彼女の音楽は自立し、また受容してくれるのである。正にマルチインストルメンタリストの面目躍如である!!因みに「語り」入りです。

6) V.A. “Vanity Box (Vanity Records)”. 11CDs in box 
  多分、近年で最も待たれたであろう80年代初頭に日本国内で最も実験的かつ精力的に活動していたVanity Recordsの正式なリイシュー作品である。Vanityを主催していた阿木譲氏の死後に出された訳で、阿木氏の何らかの拘束があったものと想像する。70年代後半から80年代前半に活動していたグループ(DADA, SAB, Aunt Sally, あがた森魚, BGM, Tolerance, R.N.A.Orgasm, Sympathy Nervous, Normal Brain, Perfect Mother, Mad Tea Partyがほぼほぼ同内容で収められている。個人的にも宅録中心の活動であったので、ここに収められている作品が従来のライブ中心のグルーは/アーティストではなく、宅録中心のグループ/アーティストであることからもシンパシーを抱いていた。特に、BGMやSympathy Nervous, Perfect Motherは大好きであったので、これらの全てを、まさか2020年に聴くことが出来ようとは夢にも思わなかった(Perfect Motherだけはシングルを持っていたが)。当時よりVanityには賛否両論あった訳だし、今もあるのかも知れないが、それは作品を聴いてからでも遅くはなかろう。これと一緒にリイシューされた”Vanity Music, Tapes and Demos”共々、私には嬉しいリイシューであったが、その後の未発表音源を加えたbox setやCDの乱発には些かウンザリもしている。
7)  モリモト アリオミ “ピクニック” cassette
  何だか和物が多いかも知れませんが、これは外せませんね。モリモト氏と言えば、SNS上ではバンドマンとかギタリストのイメージが強いのですが、何と彼がモデュラーシンセを使って作ったテクノ・ポップ作品がこれです❗️初め、ビックリしたんですが、何とも言えない宅録(しかもその下には4畳半フォークの流れがある)で、これまた全然「シャレ乙じゃない」ところが、私にはビビっと来たのですよ。モデュラーシンセ奏者は沢山いますが、彼の様な曲を作る人は聴いたことがありません。最近のギ酸が多少近いかも知れませんが、ギ酸がNDWを彷彿させるのに対して、こちらは70年代のフォークミュージックを彷彿とさせると言う奇跡的作品です。多少、音程の怪しいところも、それならばグッドですね。その後、”クリニック”を出しており、その続編が待たれるところではあります。久々に聴いた「テクノポップ」です。

8) Karel Appel “Musique Barbare”. LP
  オランダの画家であるKarel Appelの音源である。中ジャケに写っている油絵具がダラダラに着いて、ズボンの両ポケットからタオルを出している服装を見ると、まあ、「彼は真面目だがマトモじゃないな」と言うのがよく分かる。これは某現音専門店で見つけて買ったのですが、内容は破茶滅茶なミュージック・コンクレートです(表ジャケにテープまみれになっているので、察することはできる)。打楽器、ピアノ、声、テープ、およそ音の出るモノは何でも使い、それを生々しく切ったり、繋いだりして作られた「野蛮な音楽」❗️一時期、ヘビロテしてました。突き抜けた画家が音楽でも突き抜けることはありそうで無いものだと思うのですが、彼の場合には絵画と音楽、共に突き抜けてますね。
ちなみに録音は1963年です。
9) Martin Escalante & Matt Mottel “Chop Party” 7”single
  メキシコからの刺客Martinが、シンセ奏者のMattと使った7インチです。MartinのSaxophoneは最早Saxnoiseになっており、ショルダー・シンセのややインダストリアルな電子音に塗れて、混沌した音を刻み込んでいる。私は全然、知らなかったのだが、京都の某輸入盤屋の視聴で気になり、即購入しました。聴いてちょっとぶっ飛びましたね。シンセの音なのか?サックスの音なのか?分からない位、カオスなのだが、何処かファニーなところがある、そんな第一印象でした。できれば、このデュオで、この路線で、アルバムを作ってもらいたいものです。因みに、マスタリングはLasse Marhaugです(ノイジーな音に仕上がったのは彼の好みかな?)。

※ライブ動画で我慢してちょ!

10) Don Dietrich “Option”. LP
  泣く子も黙るデス・ジャズ・トリオBorbetomagusのサックス奏者の一人Don Dietrichのソロアルバムです。もう、何も言うことは無いくらい、また、一人でサックスのソロを演奏しているのが分からないくらい、突き抜けてます❗️動画を見ると分かるのですが、彼はアンプやエフェクターを使ってますね。でも、そんなことに驕るではなく、自身の命を削るくらいテンションの高い音楽を演奏するのには感服してしまいます。最近では娘さん(チェロ奏者)ともデュオも演っているみたいですね。今まで30年も歩んできた演奏は全然”Option”ではないです。ジャケの彫刻作品も彼の手によるもので、そのタイトルが”Option”と言うことらしいです。(因みに、私、今、彼と彼の娘さんのデュオとコラボしてます。来年くらいには出したいな!)

おまけ
Extra-1) .es “カタストロフの器(Vessel of Catastrophe)”
CD in 7inch sleeve.
  ホントは本編にも入れたかったんですが、最近の作品なので、今回は「おまけ」としました。サックス、ギター、ハーモニカの橋本くんとピアノ、パーカッションのSaraさんのデュオが、.es(ドット・エスと発音する)の基本形です。所謂「即興系」に有りがちな清貧なところは全く無く、スタイリッシュですらある稀有な即興デュオ。ホームが大阪の「ノマル」と言うギャラリーであることも関係しているのだろうか、ギャラリーの残響音の中で自由自在に演奏を繰り広げており、それだけでも、今迄の即興系演奏者とは一線を画す。因みに、本作を含めて”Atlas”, “Chat Me”とノマルからは3枚CD同時発売で、個展を開催した作家さんのコンセプトからタイトルを付けているようです。
  もう説明も要りませんね。ノイズ・ミュージックの始祖Merzbowの過去音源の発掘プロジェクト”Loop & Collage”から一枚。私のMerzbowの音の印象と言うのは、轟音ハーシュノイズとかではなく、寧ろ、この時期(81-83年位?)にがんがんカセットでリリースされていた頃のループを多用したノイズ・ミュージックなんですよ。その中でも、この”Agni Hotraでのループ使い方とテープ操作は卓越したものがあります。これが私の原体験なんです。この頃のノイズ・ミュージックにら可能性を感じますね。大好きな一枚❗️
※Merzbowの音源で、我慢してちょ!

Extra-3) K.Kusafuka/K2 “Demise Symphonika” cassette
  もう何回も言っているんですが、この作品には思い入れが多くて語り足りません。1984年に日本のDD.Recordsよりリリースされたのが、今年、米国のTribe Tapesからリイシューされました。この頃は既にノイズ・ミュージックをやっていましたが、そうではない作品を作った時には本人名義で出してもらっていました。んで、この作品ですが、A面は”The Last Funeral”と言う暗黒電子チャンバー・ミュージックな長尺な曲を、B面にも”Reincarnation: Chaos Reproduces The Sea of Bliss”と言う電子音の混沌から神聖なるメロが立ち現れる長尺な曲を収めています。この作品の一部は、独VODからの2LPで収められていますが、基本、この作品は「輪廻転生」をコンセプトにした作品なので、今回、フルで出してもらえて、本当に嬉しかったです。これはプログレを聴いたことの無い私の「プログレ」なんです。見つけたら、是非とも聴いて下さい。

A面の一部です。