いつかはくると思ってました。阿木譲氏が亡くなって、80年代に彼が自身のレーベルVanity Recordsから出していた音源がリイシューされる日が。多分、彼が生きている間は、リイシューは難しかったのかなあ?と想像してましたし、彼自身も既に過去となった80年代初頭の音源の再発には積極的ではなかったのかなあ?と想像してました。確かに私が若い頃(大学生時代かな?)、Vanity Recordsの音源は東京では少なく、また、若干値段が高いこともあり、中々買えず、入手できたのが、Perfect Mother(私の最初の自宅録音スタジオDark Discoはこの作品の曲のタイトルから取りました)の7”EPとV.A.”Music”2LPだけでした。当時の私の音楽関係の友人は、そんなVanity Recordsに対しては、余り良い印象を持ってなかったように思います。それは、阿木氏の衒学的態度ややり方、彼が元々演歌歌手だったことやVanity RecordsやRock Magazineの値段の高さ、不要な装丁、関西ベースの活動などなどから来る嫉妬とも嫌味とも取れる感情があったのではないか?と今となっては想像している訳です。そんな中で、東京でも、Vanity Recordsの作品の一部は入手できました。当時、宅録に精を出してした私にとって、バンドベースではなく、宅録ベースの音楽が作品になっていくのは羨ましくも魅力的でありましたね。でも、ちょっとの差で、リアルタイムには作品を買うことが出来なかったのも事実です。そんな状況の中で、やがてRock Magazineは廃刊になり、Vanity Recordsもフェイド・アウトしていったのでした。
それから30年以上経って、阿木氏が復活した訳ですが、それでも、過去の音源がリイシューされることはなかったんです。それが、彼の死後、再び、リイシューの機運が高まってきて、契約上の問題が解消したのか、ようやくリイシューされるようになった訳です。高校生時代に、阿木氏がDJのラジオから聴いたKiiro RadicalやSalariedman Club、そしてBGMなどは宅録主義の私に大きな影響を与えました。密室から紡ぎ出されるプリミティブな電子音楽、実験的なバンド・サウンドなどなど、多彩な音楽を一部だけでも聴くことができて、それが励みになった訳です。大学生になった私はそのような密室的かつ匿名的異端音楽に益々惹かれるようになっていきましたね。
そして阿木氏の没後1年余りを経て、ようやくVanity Recordsの全作品が、box setでリイシューされた訳です。音が古いとか今更聴いてもしょうがないとかという批判もあるでしようし、元々、阿木氏のやり方が余り好きではなかったリスナーもいるでしょうが、やっぱり、自分が宅録から始めたことを鑑みると、Vanity Recordsの音源は今でも魅力的なんですよ。確かに今更、こんなのを聴いてどうなるの?と言う疑問はありますが、今だからこそ聴いてみたいと思わせる魔力がある訳です。当時の東京や横浜を中心としたシーンには相入れない面もありますが、これらのプリミティブな実験性は今でも魅力的ではあると思うんです。だから、私は速攻で予約しましたね。高いとは思いましたが、ラジオで一部のみを聴いた当時の鬱々とした音(特にカセット作品に著明)はやはり魔力を持ってました。単なる郷愁だけではなく、やはり私は影響を受けていたんだなぁと確信しました。当時はそれに対する関東からの回答としてYLEM(イーレムと読む)が作った”Awa 沫”がありましたね。そう言うば、その頃って第一次カセット作品ブームだったのでは?と思います。TRAなどのカセットブックや京都のSkating Pairsなどが出てきましたからね。ただこれらはあくまでも商業ベースにあったので、余り参考にならなかったですが、、、今聴くと面白いかな?
そして、再び、カセットブームが来そうな予感の中でのVanity Recordsの再発、全部CDと言うのが時代だなぁとは思いますが——Vanity Tapesに関しては、このbox setとは別に、カセットフォーマットのboxでも再発されるみたいです。——、時代は回るんですね。今の若いリスナーの方はこの音源をどう思うのか、ちょっと知りたいところですね。私にとっては、自分のモチベーションの一つとなった音源ですし、郷愁でもあります。そして、宅録でも作品は出せるんだぞと言う意思でもありますね。とりあえず、埋もれつつあった音源を聴くことができたのは大変嬉しいことです。やり方の良し悪しは別として、一つの時代に咲いた徒花としてのVanity Recordsの音源はやはり残すべきではないかと言うのが個人的意見です。そんな訳で、ここん所は、暫く、 Vanity三昧ですね。(あと、難を言えば、カセット作品はオリジナルのジャケにして欲しかったですね。それから、オリジナルに入っていた無用なアートワークも入れて欲しかったです。) 特にカセット作品のプリミティブさが興味深いです。Viva! Vanity Records! Viva! Yuzuru Agi!