暑中見舞の文例―明治の往来物から― | かんがくかんかく(漢学感覚)

暑中見舞の文例―明治の往来物から―

暑中お見舞い申し上げます。


ということで、今回は明治時代の往来物の中から、

暑中見舞の文例をいくつか紹介します。


まずは、明治40年(1906)年に出版されたハガキの文例集に

載せられているものをお示しします。


1) 「著中見舞之文


  意外御無音ニ打過候処、此両

  三日以前より殊之外蒸熱相増、

  御老体御障も無之候哉、御起居

  相伺候也、


  (意外御無音に打ち過ぎ候ふ処、この両三日

  以前よりことのほか蒸熱相増さり、御老体御障りも

  これ無く候ふや。御起居相伺ひ候ふ也。)



     


  【出典】西野古海『はがき日用文』(大橋堂、1907年)



次に、同じ著者が約30年前に著した手紙の文例集に載せられて

いる著中見舞の例を二つ紹介します。



2) 「暑中見舞之文


  大暑之候

  実ニ難堪候、

  御障リ無之哉、

  御見舞申上候、


  (大暑の候、実に堪え難く候ふ。御障りこれ無きか。

  御見舞申し上げ候ふ。)



     


  こちらは、本文はあっさりとしていますが、大字・行書で

  記された本文の行間に、細字・楷書で本文と言い換え可能な

  表現が事細かに記されています。

  例えば、「大暑之候」という表現は、「時漸向暑(時漸く暑に向かう)

  などと書いてもよい、ということになります。



  【出典】西野古海『作文捷径』(木村文三郎、1876年)



3) 「暑中見舞ノ文


  一両已来殊之外烈炎、

  堝居実ニ難堪候処、

  大廈之御住居、

  御羨敷候、先ハ御起居

  相伺度、如此候也、


  (一両已来ことのほか烈炎、坩居【かきょ】実に

  堪え難く候ふ処、大廈の御住居、御羨ましく候ふ。

  先ずは御起居相伺ひ度く、かくのごとく候ふ也。)



  本文中にみえる「坩居」というのは、狭い家を意味する漢語です。

  「暑い中、狭い家に住んでいる私は、広い家に住む貴方が

  うらやましい。

  
  そんな暑中見舞いって……。


  【出典】西野古海『作文通書』(文江堂、1876年)




同じ「候文」で書かれているとは言え、漢語を多用する近世の文体が

近代の文体に変わっていく様子が見て取れます。


皆さんも、これらをご参考になさって、暑中見舞を書いてみてください!?


なお、これらの文例集を編纂した西野古海については、

こちらの記事 をご参照ください。