だから人生で五指に入るであろう祝いの場で働くのは正直向いていないと思っていたが、その時のタクヤに全くその自覚はなかったみたいだ。
これはそんな彼から聴いた話。
タクヤは普段は受け付けで対応する仕事をしていたが、スタッフの人数調整のために急遽給仕を担当する事になった。
結婚式のメニューといえば、「高い」「美味い」「少ない」「綺麗」…なんかのイメージに加え、「名前が長い」というのがあるだろう。
野菜とオマール海老のプレッセ
縁を結ぶ水引をイメージした紅白のソースとコンディメント
だとか
柔らかく煮込んだ風味豊かな大根と鴨のフォアグラ ブイヨン仕立て
だとか
果糖ブドウ糖とカラメル色素をブレンドした炭酸水 融点近くの温度で
だとか。
最後のはコーラなのでもし気がつかなかった人は結婚の時も式を挙げずに宅飲みしてた方が良い。
とにかく、この手の料理名を給仕の際にお客様に伝えて、少し解説するのがタクヤの仕事だった。
その日のメニューは
サーモンのロティ アンデス産ピンクソルトとバジル香るソースで
(記憶が曖昧なためググって出てきたメニューで代用)
で、給仕の際には
「こちら、サーモンのロティになります。テーブルのアンデス産ピンクソルトとバジル香るソースでお召し上がりください。」
と伝えなくてはならなかった。
こんなややこしい名前のメニューを6か7も出すんだから、普通に考えてキッチリ暗記しなきゃやってられない。しかしサイコパスタクヤはそうは思わず、全部のメニューを給仕直前に叩き込むプランをとった。
案の定、お盆を持った瞬間に料理名を忘れるタクヤ。
そして彼の口から出た言葉が
「こちら、赤身魚のソテーとなります。お手元の食器でお召し上がり下さい。」
タクヤ「下がるの早かったから先輩からメチャクチャ怪しまれたけどまあなんとかなったわw」
その後彼は「表情が少なく無愛想」という理由で清掃にまわされ、やがてバイトを辞めた。