介護業界で転職を考えている人にとって、採用側が求める人材がどういった傾向なのか、ぜひ知っておきたいこと。今回は千葉県で地域密着型の介護施設「請西苑」などを展開する社会福祉法人天祐会の副理事長・本部長である森田恵さんにお話しを伺いました。<取材・文 中条佳子>

仕事が終わって子どもたちと交流するボランティア精神

千葉県、木更津市の閑静な住宅地の一角にある、地域密着型の介護施設「請西苑」。広大な敷地に建てられた温かみのある木造平屋建ての建物では、グループホーム、デイサービスセンター、特別養護老人ホームの3つの介護施設が運営されています。
この施設の一番の特徴は、敷地内の隣接する建物に学童保育施設「木更津みらい学舎」があるという点でしょう。
「請西苑は、計画段階から学童保育所が先行して開園していたこともあり、高齢者と児童が相互に影響し合って日常を形成するシステムを構築してきました。木更津市内の小学校に通う子どもたちが、学童保育所に帰ったあと、遊んでいる様子が施設の高齢者の方にも感じられるようなコンセプトに計画されています」(森田恵副理事長・本部長)
子どもたちと高齢者がつながる地域密着型サービスを提供する介護施設という点が、請西苑で仕事をしている人たちの特徴にもなっているようです。
「お年寄りのお世話に生きがいを感じたり、子どもと触れ合っているご利用者の笑顔に喜びを感じる介護職員が多いように思います。夏休みの学童お泊り体験などでは、介護の仕事帰りに子どもたちの所に顔を出して、花火大会を一緒にやったり、ゲームで遊んでくれたりと、子ども好きのボランティア精神旺盛な方もいます」(森田副理事長・本部長)

人間としてケアの本質が感覚的に理解できること

請西苑では、認知症予防、または認知症による周辺症状の緩和ケアに、併設の学童保育所「木更津みらい学舎」の児童たちと積極的に日常交流を行い、幼老統合ケアの実践を展開しています。子どもたちとの交流に感激して涙を流したり、子どもたちに何かを教えたり、伝えたりしようとする行動が、認知症の予防や緩和につながります。また、子どもたちも認知症について学んだり、お年寄りに喜んでもらおうといろいろな企画を考えたり、歩行をサポートしたり、身近なところで人が亡くなることを体験したりすることで、人間としての豊かな心を育んでいます。
「高齢者の方々も子どもたちも、それまでは単なるケアの受け手でしかなかったのが、相互交流によって新たな役割意識が生まれ、双方がケアの担い手へと変化します。そのような人間としてケアの本質が感覚的に理解できて、介護のプロとしての職業意識をもって向上心のある、心身ともに健康な人材に来ていただきたいと思います」(森田副理事長・本部長)
次回は森田副理事長・本部長が考える、介護業界全体の人材の傾向についてお話を伺っていきます。

信頼関係を構築できる人柄は、基本中の基本!

地域密着型の介護施設「請西苑」は、利潤を追求し株主への配当を事業の最終的な目標としている営利法人とは違い、社会福祉事業を行うことを目的としている社会福祉法人です。そういった観点から、「介護職に求められるのはどういった人材か?」という問いに対して、森田さんはまずは「福祉スピリットのある人」を挙げます。
「この施設の職員は、何かあったときには休みでも駆けつけてくれます。利用者の方が心配で助けたいという思いがあるからです。そういった福祉のスピリットがないと、この業界は無理だと思います。もちろん施設側も、それに甘えてはいけないと思います。そこにはもちろん信頼関係もあります。信頼関係を構築できる人柄というのはベース、基本中の基本ですね」(森田恵副理事長・本部長)
ただ、営利企業としての介護施設で仕事をするのであれば、いずれは社長や独立ということが目的でもよいと、森田さんはおっしゃいます。
「でも福祉をやってみたい、困難のある方に手を差し伸べていきたいという方は、我々のような社会福祉法人で仕事をするのが良いと思います」(森田副理事長・本部長)

心・技・体のバランスの良い人

介護の仕事に自分の役割を見出せるかどうかも、森田さんが人材を見る際に重要視すると言います。
「この場所に自分が関わりたいと思えること、またこの場所が自分を活かせると思えることが大切ですね。自分の役割がないところへ来ても、長続きはしません。介護業界がこれから成長産業だから、と思って入ってくる方もいますが、そういう人はどこかで限界がきてしまいます。そういった人は、本当の福祉の原点である“福祉の精神”がわかっていない人ですね」(森田副理事長・本部長)
そのほかにも、森田さんはこの業界に必要な人材についてこう考えます。
「この業界に必要な人材は、心・技・体のバランスの良い人が求められていると思います。よく言われる人間性は『心』、それに加えて高齢者介護・特に認知症ケアに関する知識・技能が『技』、タフマインドも含めた心身の健康が『体』という意味です」(森田副理事長・本部長)
そういった人材を見抜くために、履歴書を解析して面接を行いますが、いい人だと思って採用しても裏切られることが多々あるとか。次回は、そんな森田さんが思う“採用したくない人”について語っていただきます。

職員が利用者の優位に立ってはいけない

「請西苑」の採用を担当している社会福祉法人天祐会副理事長・本部長の森田恵さんに、採用したくない人について伺ってみました。
「まず『賃金が安くても仕事をしなければいけないから』とか、『介護の仕事しか就職できないから』という理由は採用が難しいと思います。それと、『自分が世話をしてやっている。困っている人を助けてやっている』という押しつけがましい考え方の人もダメですね」(森田恵副理事長・本部長)
困っている人を助けるということは、第一回で森田さんが語った「ボランティアスピリットがある」ということと混同されそうですが、それ以前に職員が利用者の優位に立ってはいけないということが基本。そこをはき違えている人が非常に多く、かつ採用してからわかることが多々あり、採用は試行錯誤の連続だそうです。
「明らかに、どこの企業でも採用されなかったと思われる方もいますし、ご利用者サービスのことなどまったく気にせず、ただ、将来有望業界だからという理由で面接に来る方もいます。何かあると明日からもう来ませんという、こちらを困らせてやろうという態度の人もいます。でもその人が来なくなって困るのは施設の利用者のみなさんです。そういう人がいるからこそ、良い人材は宝だと心から思うことができます」(森田恵副理事長・本部長)

介護の仕事が向かないなら、それを見極めてあげることも大事

介護業界の転職のサイクルの早さについても、森田さんは語ります。
「この業界では、同業を転々とする方も多いと思いますが、経営サイドから言えば、できればひとつの施設で長く働いていただきたいと思っています。でもこの業界が合わないという人を無理にひきとめてしまうことで、うつ病になったりしてしまう例がたくさんあります。そうなる前に、向かないなら向かないと経営サイドが見極めてあげることも大事だと思います。流動的で転職が早いというのはこの業界の宿命かもしれませんが、それでもこの施設がよいと思う人は、結果長く勤めてもらっています」(森田恵副理事長・本部長)
そのほかにも、「過去の自分を否定する人。自分を大切にしない人」、「『福祉は対人サービス業』という感覚のない人、「コミュニケーション能力に欠け、雰囲気の暗い人」、そして「仕事に夢をもてない人。夢を語れない人」を、採用したくない人としてあげていました。
では逆に「仕事に夢をもつ、夢を語る」ということはどういうことなのか——最終回の次回は、その点について詳しく伺ってみます。

人は夢のためなら仕事をするし働くのではないでしょうか

社会福祉法人天祐会「請西苑」副理事長・本部長である森田恵さんは、採用したくない人として、「仕事に夢をもてない人。夢を語れない人」をあげていらっしゃいます。では「仕事に夢をもつ、夢を語る」ということはどういうことでしょう。
「夢と希望をもってこの業界へ入っていただきたいと思います。夢のない人はだめなんですね。とりあえず仕事しなければいけないからとか、この仕事しかなかったからという人は、利用者のみなさんに見抜かれてしまいます」(森田恵副理事長・本部長)
社会福祉法人の場合、株式会社と違っていて限られた介護保険の中でしか事業を展開できないため、来年になれば給料が上がるといった保証はありません。その中で中、長期的に職員のモチベーションをどう上げて、持続可能にしていくのかが課題、と森田さんは仰っています。
「それにはこちらの夢を語り、夢を実現し、職員のみなさんとモチベーションを共有する。経済的なことをいったら生活できないのではということになりますが、人は夢のためなら仕事をするし働くのではないかなと思っています」(森田恵副理事長・本部長)

視点を変えると福祉事業の中には壮大な夢がある

「介護の仕事を志す求職者の人は、目先の給料ではなくて、国の補助金で大きな施設がつくれることがということを考えるとおもしろいと思います。介護業界や福祉業界で仕事をすることを、大きな視野で考えることが大切です。もちろんお年寄りのお世話をすることは大切で尊いことです。でも将来が不安だという人は、自分で起業をすればいい。自分でできなければ社会福祉法人と組んで、自分の夢を叶えなさいというのが持論です」(森田恵副理事長・本部長)
遊休地だったところが施設に変わっていくのをみるのが、うれしくてしょうがないと語る森田さん。目先の給料にとらわれたり、たんに人の役に立つということだけにやりがいを感じるのではなく、視点を変えると福祉事業の中には壮大な夢があるのだということを気づかされます。
「この業界で起業しよう、事業を立ち上げようという人間はガッツがあります。地味な世界ですが、とても奥が深いです。給料は一般企業より安いですが、管理職や役員になれるチャンスがある職場です」(森田恵副理事長・本部長)
社会福祉法人天祐会は、請西苑にはグループホーム、特養、デイサービス、学童の4つの施設があり、各施設の職員が請西苑の中でトップを目指しているとのこと。そしてそれぞれの施設でつながりながら、切磋琢磨して地域の一番になることを夢みて、それを実現させているのです
2013.12~2014.1   4回連載