かのんはユリウスの走りに痺れた。傍観者の一人となり、ユリウスの走りを見守ったのだ、それは自身が見たことがない走りで調教している時とは全く別の馬と感じたくらいだった。

口取り撮影の時に、「ユリウスおめでとう」と自然に言葉に出た。

ユリウス「ブル、ルル」

(うん、頑張った)

かのんはユリウスに抱き付きながら口取りは撮られた。

馬主になった秀則はユリウスが勝ったのが余程嬉しかったのか年甲斐も無く、飛び跳ねて喜びを爆発していた。

尚道も笑って賛同していた。

秀則「尚道ありがとう❗いや~自分の馬が勝った時のこの感動は忘れられない、やっぱり尚道❗お前の言った通りだった。疑ってすまん。」

尚道「叔父さん、まだ始まったばかりですよ。次は重賞と行きましょう❗」

秀則「何❗もう重賞を走れるのか?」

尚道「この強さなら、重賞はいただきですよ(笑)」

秀則「そうか、次のレースが楽しみだな」



翌日、ユリウスの圧倒的な勝ち方に各スポーツ紙はユリウスを大きく一面に載せる

「完璧な走り」

「流石スピードキングの妹、ぶっちぎる」

「スーパーホースの誕生」

「最後の1Fで10馬身の圧勝劇」


数々のスポーツ紙がユリウスを称える、タイムこそ2分1秒と並みのタイムであったが、上がり3Fが31秒8と脅威的な数字だった。最後の1Fは10秒フラットと馬なりで達成し競馬関係者を驚かせる。あの小さな馬体に何処にこれだけのスピードがあるのかと不思議そうに思いながらも、感嘆を禁じ得なかった。


美浦長野厩舎
   
ユリウスの新馬戦のパフォーマンスに取材陣が訪れ長野厩舎の前に人がごった返っていた。特に調教師である長野哲朗に質問が集中する。

「ユリウスについて詳しい質問させて下さい 。」        

「ユリウスは次は何処に出すんですか?」                  

「牝馬三冠馬になれそうですか?」    

「特殊な訓練をしたのですか?」  


長野は眉をピクピクさせていた。それが、哲朗のイライラサインであったのだ。

哲朗「やかまし~~い~いわ、まだ、新馬戦に勝ったごときの馬などそこいら捜せばいくらでも居るだろ❗まだ、500万条件の馬でしかない、取材ならG1勝った時に受けてやる。それまで一切取材は断る。わかったカーぁ❕」  

哲朗は怒鳴るような口調で喋り、取材陣は迫力に押され後退りしたのだ。   取材陣は黙りすごすごと帰って行くのだった。

哲朗「全く、新馬戦の馬に何期待してるんだ。相手が弱かっただけだろうが❗」  

弘子「でも父さん、そんなに怒らなくても、ユリウスは強い勝ち方には違い無いんじゃないの?」      

哲朗は深い溜息をつく

哲朗「出遅れだ❗」      

弘子「出遅れ?」

哲朗「長距離ならともかく中距離では致命的弱点だ。これが天皇賞秋なら負けていた。しかも小柄ときている。それで馬群の中にいたらどうなると思う❕」      

弘子「身体の小さなユリウスは馬群の中では走る事すら出来ない❗と?」

哲朗「そう言う事だ。スピードキングならともかく、ユリウスは身体が小さいから他の馬に当たれば吹き飛ばされる。……う~ん……後は尚道さんの知恵を借りるしかなさそうだな」        

弘子「じゃあ、ユリウスは先行や差しといった作戦が使えないじゃないの」

哲朗「だから、苛ついているのさ、新馬戦勝っただけじゃ何も分からん、マスコミの奴ら先走りやがって、これだからムカつく」

そこに尚道が訪れ、またアメリカで買った菓子を持参して来たのだ。

哲朗「ああ、ちょうどいい時に現れましたね、少しお聞きしたい事が❗」

尚道「どうやら、ユリウスの事ですかね。」

哲朗「いや~、尚道さんに隠し事は出来ませんな(笑)」

尚道「出遅れですか?それとも馬込みの中の話しですかね。」

哲朗「さっきの話し聞いてたんですか?」

尚道「いいえ、ユリウスの弱点ならその辺りかと思いましてね」

哲朗「なら話しが早い、ユリウスは今後のローテーションと馬群の中の苦手意識についてどうするかも聞きたかったんですよ。私が思うに年内に、もう一戦しチューリップから桜花賞にローテを組もうかと❗更に出遅れ癖を治す為ゲート練習をさせようかと思います。」

尚道「いいえそれには及びません、何故ならユリウスを来年弥生賞に出そうと思っています。」

哲朗「なんですと❗」

弘子「ええ~ぇ」

二人は尚道の言葉に驚く、普通ならば牝馬なら桜花賞に行くのがセオリーとなっている。常識はずれな考えであり、さらりと言ってしまう尚道を一瞬だが競馬を知らないと思ってしまう。だが次の一言が支えた心が解放される。

尚道「ユリウスは出遅れは治りません。何故ならゲートに出た時他馬にぶつかるのを恐れているからです。従って戦法はディープインパクトに習い、走りを徹底するしか方法がないのです❗ディープもゲートを出る時に恐がり出遅れていたようです。」

哲朗が思っていた事と合致した。ユリウスは長距離が得意と認識していた。牝馬クラシック前半に於いては重賞などマイルが主体で、出遅れ癖の多いユリウスでは勝算が薄い、牡馬戦は2000m以上が主体となる。ユリウスにとっては距離的には好都合ではあった。

哲朗「あのディープインパクトに、ユリウスが成れますか?」

尚道「ユリウスはディープの孫にして、カントリーのパワーも受け継ぎ、パーフェクトなホースでスタミナもある。再来年に天皇賞春を走っても何も問題無い、目標は無敗の三冠馬」

哲朗と弘子は生唾を飲み込む

哲朗「それは物凄いプレッシャーを感じますよ」

弘子「全く尚道さんは突拍子も無いことズバズバ言うから驚きの連続です。」

尚道「私が見る限り来年の牡馬にユリウスに対抗出来る馬が居ません、チャンスならもぎ取るのが最良ですよ」


哲朗「貴方が言うのならばそれが良さそうだ、今まで全て尚道さんの言った通りになった。あとは騎手次第って事ですな(笑)」

尚道「毎回、口を差し挟み心苦しく思っています。が、ユリウスと沙織ならばきっとやってくれます。」

弘子「ユリウスが三冠馬になったら親子で家の三冠馬が誕生しますね、ワクワクしちゃう」

哲朗「いやいや、尚道さんが馬主と勘違いしてしまいそうだ。」

尚道「叔父とは相談済みですので三冠路線で向かって下さい」

哲朗「分かりました。ユリウスの才能に賭けて見ましょう❗」

こうして、まだ気が早い新馬戦を終えたばかりのユリウスの来年のローテーションが決まり三冠馬に挑戦する事となる。

だが今年はどうするのか?まだ決まっていなかった。


テレビ局

かのんはユリウスの調教やレースのVTRを載せブログに書き込む作業を終える。そこに、上司からBCクラシックの取材の申し入れがあったのだ、だがユリウスが気になり遠くに行く事は最初から避けると考えていた。

かのん「今回は申し訳ありませんがユリウスの事が気になります。」

かのんはこの上司に前世について話しており、理解はあったのだ。

上司「わかった。今回はその方が良かろう」

かのん「ありがとうございます。」


翌日の美浦

かのんはユリウスの坂路調教を覗いたがどうやらサボり癖がついて要るようで本気で走っていなかったのだ。

かのんの顔を見せると途端に走りが変わった。調教をしていた沙織も渋い表情を見せる。ユリウスは走り終わるとかのんの近くに寄ってくる

沙織「この子、サボり癖があるみたいね」

かのん「やっぱりそうですか❗」

ユリウス「フルル」

(そんな事無いもん)と聞こえた。

かのん「頑張らないと会えなくなっちゃうわよユリウス」

ユリウス「キュウ」

(そんなの嫌だ)

かのん「結果を出せない馬は。。。もう2度と逢えなくなるのだから頑張るのよ(嘘泣)」

ユリウス「ギュウ、ギュウ」

(それ嫌だ、絶対嫌だ、頑張る)っと言っている。

沙織は困惑していた。(何なのこのやり取りは?)

沙織「もしかして馬の気持ちが、かのんさん分かるの?」

かのん「えっ、まあ少しだけですが」

沙織「スピードキングの気持ちも分かるのかな?」

かのん「た、多分、分かるかと(汗)」

沙織はニヤリと笑い不敵な笑みを浮かべた。

沙織「今度キングが何を考えているか知りたいわ、後で教えてね」

かのん「ええ、分かりました。(^_^;)」(多分ろくな事考え無いと思う)

かのん「それからユリウスを乗ってどうでした?他の馬とやっぱり違いますか?」

沙織「そうね、ユリウスは前に飛ぶ感じかしら、キングはガツンってくる感じだけど、ユリウスの場合は沈み込んで加速するのストライドなのにピッチ走法の様に走るから❗スピードは半端無いわ、飛んでる感じかしらね。もし古馬になったら上がり3Fを29秒台を出すかも知れないわね」

かのん「えっ❗そんなに速く走れるんですか?でもそんな走りをしたら…………」

沙織「骨折するかも知れないわ」

かのん「………………」

沙織「大丈夫、そんな無理させないから、ユリウスを壊さない様に巧く乗るわよ」

かのんはホッとした。

かのん「ありがとうございます。今ユリウスが居ないと寂しいく感じますので」

沙織(ユリウスと何かあるのかしら?)


二人と一頭は厩舎に戻り調教師の哲朗と話しがあるようで二人は呼ばれた。

哲朗「沙織今日は上がってくれ、明日アメリカだろ」

沙織は哲朗の話を聞いていない

沙織「ねえ、聞いてかのんさん馬と喋ってるのよ」

哲朗の眉が動く

哲朗「その話し他言無用だ。」

沙織「どうして?こんなに凄い能力なのに?」

哲朗「その能力が知れたらマスコミはどう思う、ある事無い事書き立て世間が騒ぐ事、間違いないぞ、だから他言無用だ。分かったな❗」

沙織「はーい、分かりました⤵」

哲朗「かのんさんも表立って見せ付けないように頼みますよ」

かのん「分かりました。申し訳ありません」

哲朗「だが、かのんさん、安っさんからは聞いて知っている。どうして馬と会話出来るのか分からんが、ユリウスの奴、ソラを使うだろ❗」

かのん「怠け癖の様な感じですかね?さっきお仕置きしました。(笑)これからは真面目に走るかと」

哲朗「何だ!そうか、いや~それを頼もうかと思ってた所だった。良かった(笑)」

沙織「そういえば、どうして急に馬と会話が出来る様になったの?スピードキングの取材の時は分からなかった見たいだったけど?」

かのん「実は」

かのんは自分の前世の話を二人に詳しく話した。ユリウスが前世の自分を助けてくれた事、前世で馬と会話していた事、なぜユリウスが砂が嫌いなのか、最期に瓦礫に潰されてしまう話をしたのだ。

沙織「ええ~えっ、ユリウスの前世の持ち主がかのんさんなの❗」

哲朗「にわかに信じ難い話しだが、馬と会話出来たのはそのせいだとすれば合点が行くな」

沙織「じゃあ今のオーナーである叔父の事はどう思ってるのかしら?」

かのん「それはまだ訊いてませんでした。」

哲朗「其からな、二人には話して置く、実はユリウスを来年牡馬の三冠に挑戦させようかと思う。」

かのん「ええ~えっ❗」

沙織「本気なの❗牝馬よ」

哲朗「だが今年はまだ決まっていない、何とも変な話だが、来年決まって今年がまだ未定なんだよ(笑)問題は今年どのレースに出すかだ。」

沙織「尚にいは何て言ってたの?」

哲朗「京都2歳がいいだろって言ってはいたが、2歳戦は任せるとも言っていた。」

かのん「いきなり重賞ですか❗私ならば、500条件を確実に無理せず勝ちにいきたいです。黄菊賞が宜しいかと」

哲朗「そう、短距離は回避し長距離を選ぶ方向だ。しかしまだ重賞は時期尚早だろうな、かのんさんの言う通り黄菊賞なら最適だろう、尚道さんに掛け合うか」

沙織「尚にい、らしいわね余分なレースをさせないって事でしょ」

哲朗「まあそんな所だな」

この後、尚道と電話でローテーションを相談し黄菊賞に変更された。かのんのローテの案に乗っかる形となるのだった。

その後、かのんと沙織はユリウスの馬房へと向かう、哲朗がユリウスの出遅れ癖の真相を訊きたいといい、かのんは頼まれ付き添いで沙織も同行した。

かのんはユリウスに近付くと飼い葉を食べてこちらを見ていた。

ユリウス「プルル」

(はーに)っと聞こえる。

どうやら飼い葉を食事していて聞き取れ無かった。

かのん「ユリウスが食事終わる迄待つわ」

ユリウス「モグモグ、ブルル」

(もうふこひ、たへるるよ、モグモグ)っと聞こえる。

かのん「何のこっちゃ?」

沙織「どうしたの?」

かのん「飼い葉を食べてて分かりません」

しばらく待ち食事を終えると、かのんは質問する。

かのん「ユリウスあなたは、いつも出遅れるわよね何故なの?」

ユリウス「ブルルルル」

(だって怖いもん、おっきい馬が一杯いるから)

かのん「そうなの、だけど一緒にスタートを切らないと他の馬に勝てない時もあるかも知れないわよ」

ユリウス「ブルル」

(分かっているけど怖いの)

沙織「何て、言ったの?」

かのん「ゲートを出た時、他の馬にぶつかるのに恐怖心があるようです。」

沙織「そうなら仕方ないわよ。私に任せなさい。ユリウスを勝利に導くわ、絶対に❗」

ユリウス「ブルルブルル」

(頼もしい男の子ですね)

かのん「ち、違うわよ」

沙織「何て言ったの?」

かのん「あっ、いいえ、何でも無いです。」

沙織「❔❔❔」

かのん「それより、沙織さんアメリカに行くんじゃ?」

沙織「ああ❗忘れてた。直ぐ帰らなくちゃ❗」

その場は何とか誤魔化し沙織は馬房から出て行った。

かのん「ユリウス駄目よあの人は女なのよ❗」

ユリウス「プルルルル」

(えっそうなの?力が強いから男の子だと思った。)

口元に人差し指を当てる

かのん「シ~ィ~」

今更と思いつつ、沙織が居ない事を確認する。どうやら事務所に向かい居なかった。かのんは冷や汗を掻いていた。

ユリウス「ブルル」

(どうしたの?)

かのん「ユリウスあなたのせいでしょ、焦ったわ」

ユリウス「❔❔」

ユリウスは首を傾げる

かのんは前からユリウスに訊きたかった事があった。(ここからはかのんとユリウスの会話となります。)

かのん「昔の事覚えてるのユリウス?」

ユリウス「覚えてるよ❗かのんはパメラでしょ」

かのん「やっぱり知っていたのね」

ユリウス「でも気が付いてくれなかったから淋しいかった。」

かのん「ご免なさいね、私は分からなかったわ、額にハートの落書きが私を気付かせる為に残ったのね」

ユリウス「うーん、自分から見えないから知らない、そんな事よりまた一緒に遊びたい」

かのん「また、私を乗せてくれるかしら」

ユリウス「うん、いつでものせるよ」

かのん「ありがとうね、いつも遊びにこれないけど、来たときにまた乗せて貰うわ」

ユリウスはニコニコしていた。

ユリウス「でも何で昔見たいに毎日遊べないの?」

かのん「ユリウス今は私があなたのご主人じゃ無いのだから好き勝手出来ないのよ、たまにしかこれないのがその理由よ」

ユリウス「そんなの嫌だ。」

かのん「もし、あなたがずっと勝ち続けたらいつか二人でまた遊べる事になるかも知れないわね」

ユリウス「本当に❗」

かのん「ええ、約束するわ」

ユリウス「分かった。私誰にも負けない❗」

暫くかのんはユリウスと会話を楽しんだ。話しは過去に遡り一緒に行った丘やピクニック、買い物、の話しで盛り上がっていたのだった。帰り際ユリウスに人参をあげると、顔を撫でてその場を後にする。

かのん「またくるわねユリウス」

ユリウス「ハーイ」

かのんは厩舎の事務所に戻りユリウスのゲートを出る時他馬にぶつかり怖いと言っていた事を哲朗に報告する。

哲朗「やはりそうか、尚道さんの慧眼は大したものだな、かのんさんよりも早く私にユリウスの弱点を教えてくれたよ❗」

かのん「本当ですか?凄いですね」

哲朗「普通、相馬眼は走りそうか否か位しか分からんもんだが、あの人は全てを知り尽くしている。もしかしたら馬を見る神、神眼の持ち主かもな」

かのん「私はそこまで見抜けませんね」

哲朗「何言ってるのさ、馬と会話出来る何て聞いた事無いよ、かのんさんも特別な能力の持ち主である事に代わりは無いさ」

その日かのんはユリウスの展望を哲朗と話し夕方まで、話し尽くすのだった。



ブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップ

アメリカ競馬最大のエンターテイナーであり金曜日、土曜日の二日間で13レースのG1がある。

そのレースにスピードキングはBCクラシック

ジャングルパワーはBCターフ

日本から遅れてやって来た。キュクレーンは9月から合流しブリーダーズカップ・フィリー&メアターフを走らせる為スピードキングチームに加わり日本は初の3頭を走らせる。

そして、キュクレーンの調教を長野博久が担当する事となり、騎手の大屋と沙織が木曜日に合流する事になっていた。

日本の馬達はBCクラシックに何頭か挑戦したが、全て惨敗していた。過去に類を見ない日本の最強馬達がアメリカで活躍するのか日本中いや世界のホースマンが見守るレースとなるのだった。



BCクラシック編に続く