ダービーで走ったライバル達は尚道のレースプランに導かれ、その馬のポテンシャルを発揮出来そうなコースを選定し、ダービーで敗れた馬達の活躍が期待されていた。

スーパーステージは予定通りアイリッシュダービーに参戦する。

スーパーステージの馬主、二階堂は日本ダービーに敗れアイリッシュダービーで勝てないのでは無いかという不安に襲われ、回避する動きがあったが尚道に説得され、再度挑戦する事となる。1週間の短期放牧の後中一週ときついレースを迎える。

ダービー2着のジャングルパワーはアメリカに遠征し、芝の王を目指す。最大の目標がBCターフでありスピードキングと一緒の日にレースに出る事になる。ジャングルパワーは左回りの得意な馬でアメリカでは左回りしか無く最適と考えた。


テイオーボーイは日本をメインに残る菊花賞を目指すがその前にイギリスセントレンジャーステークスを走る。


レナウンは短期放牧したのち英国ダービーに参戦する。今回尚道が言うには中距離馬が殆どで、レナウンなら勝機ありと踏んだ。


ゴールドミリオンは放牧後、9月にカナダ遠征

ブラックシップは放牧後、ダート路線に変更し、時期が来たときにアメリカ遠征に旅立つ

サイレントサードは放牧後、ヨーロッパ遠征

他の馬達は国内の重賞を目指した後海外遠征に向かう



ダービーから3日後、かのんはみんなで競馬のスタッフと新馬の取材をするためスピードキングの妹にあたるユリウスの取材をする事になっていた。

競馬予想以外はしたことはなく緊張して体が硬くなっていた。
早速、長野厩舎に向かい交渉するが前もってアポを取っていた為すんなり通して貰った。

だが、調教師と調教助手が居なかったので弘子が応対してくれた。

かのん「初めまして、かのんです。」

弘子「待っていました。早速ユリウスを連れて来ますから、入り口で待って居て下さい。」

かのん「分かりました。お願いします。」

5分ほど待つと小柄な馬が弘子に牽かれて現れる。ユリウスはかなり小柄な馬でかのんは一目で気に入った。額の星が❤ハート型をしていてますます気に入ったのだが、違う所も気になる事があった。それは

かのん「あの~本当に2歳馬ですか?あんまり小柄なので競走馬になれないんじゃないかと、一瞬、思いましたが❗」

弘子「紛れもなく、スピードキングの一つ下の妹です。」

かのん「額のハートマークがなんとも言えません❗可愛いい❤」

まん丸な愛嬌のある瞳に見つめられ、かのんは記憶の奥底にこの馬と会った事があるのでは無いかと思った。

だが、まさかそれは無いよねと、首を傾げる(かしげる)。とユリウスも首を傾げたのだ?何気無く、反対に首を傾げて見ると、ユリウスも真似をし、首を傾げるのだった。

かのん「あーん!可愛い過ぎる!なにこの仔❤多分もう大ファンになってますよ🎵」

かのんはユリウスの身体を撫で感触を分かち合う、身体は華奢であったが、ガレているわけでもなく、思っていたより張りがあり筋肉も確りしていたのだった。暫くお互いを見つめ会い感傷に浸っていた。

かのん「懐かしい気がするわ、何故かしら?」

はっ、と、我に返った。取材していたのを忘れてしまっていたのだ❗

スタッフも苦笑いを浮かべていた。

かのん「ごめんなさい❗ちょっと………すみません」

弘子「私は構いませんよ、この仔は可愛いからそれだけで話題を拐ってしまいますから」

かのん「気を使って頂き恐縮です。」

気を取り直して、深呼吸するとリポートを始めた。

かのん「ユリウスはG1馬に調教中に競り勝ったとお聞きしたのですが真相はどうなのですか?」

弘子「うちのテオノグラフと走りユリウスが5馬身差を着け勝ったのは事実です。ですが、2頭がダートを5000mを流して走り、そのあと芝で1000mを併せ馬で馬なりに任せて走りましたが、テオノグラフは元々短距離馬ですから失速し、ユリウスが勝った様に見えたのだと思います。」

かのん「なるほど、レース形式では無かったのですね。」

弘子「はい。テオノグラフはスタミナが無いので、オークスに出すのは父が反対していたのですが、オーナーの意向で出走する事になりスタミナを付ける為にダートの長距離の調教を行いました。」

かのん「なるほど、そこでユリウスと併せ馬で走らせたのですか❗」

弘子は頷き

弘子「オーナーも三冠馬のチャンスをテオノグラフに賭けたのだと思いますが、結果は惨敗でした。これからは短距離路線で走らせると思います。」

かのん「そんな裏話があったのですね」

弘子「伊崎先生は、一部始終を観ていましたので分かってる筈ですよ」

かのん「えっ、伊崎先生が?そんな話し訊いてないわよ」

弘子「多分黙ってたんですね、取材陣が来た時は芝の併せ馬しか見てませんでしたから❗」

かのん「ずるいわ❗………そうか、だからオークスの時、テオノグラフは来ないよって自信満々で言ってた訳ね」

ユリウスが、かのんの髪の匂いを嗅いでいた。

かのん「この仔は他に変わった特徴とかありますか?」

弘子「そうですね、ゲートは苦手の様です。8割出遅れますね」

かのん「8割もですか❗」

弘子「はい。後は、瞬発力は秀でた物を持っていますね❗」

かのん「まるでディープインパクトの様ですね、その他にもあったら教えて下さい」

弘子「ストライドで大きな走りを魅せてくれますね」

かのん「ストライドですか、早くこの仔のレースを見たいです。」

弘子「デビュー戦は10月後半です2000mを出す予定です。」

かのん「ありがとうございます。この仔が走るのワクワクしてますよ、待ち遠しいです。」

ユリウスはかのんの身体に顔をスリスリさせ構って欲しい素振りを見せていた。かのんはユリウスの首筋を優しく撫でる。

弘子「珍しいですよ、ユリウスは自分で人に対してこんなことする馬じゃ無いんですが、余程かのんさんを気に入ったのですね」

ユリウスの取材は完了し、次は休養に入ったスピードキングの取材があった。

その日の夕方に北海道に移動しなければならず先を急ぐ、スタッフは機材をまとめ出発準備を始めた。

だが、かのんはユリウスと再び目が会うと、お互いに引き込まれていた。ユリウスの顔を両手で撫でる

かのん「また、逢いましょうね🎵ユリウス」

ユリウスは寂しそうな顔をしていた。

かのんはスタッフ達と車に乗り込み出発し、ユリウスは遠くになり、見えなくなるまでこちらを向いていたのだった。


羽田から千歳の飛行機に乗り、ユリウスの事を考えていた。今まで馬に会った事はあるが、ユリウスの様な特別な感情を惹く馬は皆無だった。
昔から知っていたような、そんな気持ちになり。(でも、あの仔本当に競走馬としてちゃんと走るのかな?)そんな疑問がまた脳裏に浮かび、なぜか心配してしまう馬だった。

千歳に夜に到着しビジネスホテルにスタッフと泊まる

翌日の朝、レンタカーに機材を載せ高速で飛ばし三時間を掛け田崎牧場に到着する。



田崎牧場

田崎牧場で出迎えてくれたのは騎手の沙織とその姉の美優だった。

かのん「初めましてかのんです。今日は宜しくお願いします。」

美優「遠い所からよくお越し下さいました。お疲れでしょお茶を入れますからどうぞこちらに」

かのん「いいえ、お構い無く取材ですので❗」

沙織「こんにちはかのんさん、遠慮せず家の中に入って下さい。オーナーの若林も居ますよ🎵」

かのん「沙織さん、あっ、はい」

かのんとスタッフ3人は家の奥に入いると二人の男性が座って雑談をしている姿が見えた。二人の前のテーブルの席につく

尚道「よく来ましたね、お疲れ様です。かのんさんですよね、良くテレビで拝見させて貰ってますよ」

かのん「初めましてかのんです。ああ、ありがとうございます。もしかして、貴方が若林尚道さんですか?」

尚道「そうです。」

かのんはビックリしていた。尚道は俳優にいそうなイケメンだった。馬を見る天才と言われていた為、もっとおじさんだと思っていたのだ。

かのん(めちゃめちゃ格好いい)「ああ、あの~スピードキングについて今日は、しゅ、取材させて頂きます。」

尚道「喜んでお受けします。それから、私の隣にいるのが叔父の秀則です。」

秀則「まあ、宜しく」

かのん「こちらこそ宜しくお願いします。」

尚道「スピードキングは滝壺に游ぎに行ってますから、そのうち帰って来ると思います。それまでここで待機していて下さい。」

沙織がお茶と菓子を運んで、スタッフ達も何やら緊張気味だった。

かのん「スピードキングは滝壺によく行くのですか?」

尚道「ええ、仔馬の頃からです。暑い日は游ぎに行きますよ勝手にですが(笑)」

かのん「勝手にですか❗……若林さんは良くここに来られるのですか?」

尚道「毎年この季節には来ますね、新たな産駒が産まれる時期で、庭先取引もありますからね」

かのん「なるほど」

尚道「2週間前にスピードキングの新たな妹が産まれたばかりですよ」

かのん「本当ですか❗見て見たいです。」

尚道「スピードキングの取材が終わったら好きなだけ見て下さい」

かのん「ありがとうございます。それから赤い馬の話しを聞いたのですが、ここに居ますか?」

美優「居ますよ🎵3日前に家に帰って来ました。」

かのん「私は運が良いわ❗付いてるかも」

最初硬かった話しも段々と話が盛り上がり世間話しに移行し肩の硬さも解れ、全員で記念写真を撮るなど、皆がフレンドリーになっていた。

そのあとスピードキングの取材の為、全員で庭に出る。美優が拡声器を持ち出した。

かのん「何ですか?それは?」

沙織「まあ見てて」

美優が拡声器の音量を上げた。

美優「キング~ぅ貴方の大好きなおやつの時間よ~ぉ」

と、拡声器で話し掛ける

シーンと静まり返っていたが、どこからか馬の走る音が段々と大きくなるのが分かる。

滝壺がある細道からスピードキングが飛び出した。スピードキングは身体がびっしょりと濡れ、身体中から水が滴っていた。美優の前に止まると、おやつくれ、っと、言っているのが何となく、かのんには理解出来た。

かのん「なんとも、鮮やかな呼び方(笑)」

昨日ユリウスを観たからなのか、スピードキングが物凄く大きく感じた。そして気になったのは額の星がダイヤ♦の形だった事。今までスピードキングの走りにしか興味が無かったが、昔サトノダイヤモンドと同じ額の星だった事を記憶していた。スピードキングはどちらかと言えば強面だったが美優の前ではデレデレ顔をしていた。

かのん(ちょっと待って、スピードキングはダイヤ♦ユリウスは❤ハートって事は、赤い馬の額には♠か♣よね………たぶん)

何の根拠も無いが確信を抱いていた。

スタッフが機材をセットし取材を行える状況になり、美優が応対役をしてくれる事になる。

だがそう簡単には行かなかった。最初はスピードキングがカメラのレンズを舐めてしまい映らなくなる
次にインタビュー中、かのんの足におしっこを掛けられてしまう❗
着替えのズボンが無くてスカートに着替える

今度はお尻をクンクンと嗅いでいて集中出来なかったが、何とか手で抑える。しかし、次の瞬間スピードキングは鼻面でスカートをめくる。流石のかのんもこれには怒った。

かのん「殴るわよ❗あっち行ってて❕」

スピードキングはしょんぼりとし、かのんのそばから離れた。

かのん「ちょっと言い過ぎたかしら?」

沙織「良いの良いの、いつもの事だから、たまにはいい薬よね(笑)」

美優「ご免なさい、度々イタズラしちゃって」

かのん「私の方こそ向きになっちゃってすみません。」

スピードキングを交えての談話が出来なかったが、産まれて来た時は逆子だった事、数分で立ち上がった事、自分で滝壺に游ぎ始めたなどのエピソードを話して貰い何とか映像に収める事が出来た。

そして、赤い馬のダンサーに対面する。かのんが予想していたよりも真っ赤な馬体であった。

かのん「わぁー🎵本当に真っ赤かだわ」

気になった。額には稲妻⚡の形に似た星があったのだ。

少しガッカリしたが稲妻の形も珍しくこの兄弟は一体何なのと思っている自分がいたのだ。かのんが手を差し出すと、ペロペロと舌で舐めてきた。ユリウスとはまた違った可愛さがあった。人懐っこい所が垣間見れたのだ。精悍な顔立ちで人間ならイケメンかも知れないと印象に残った。

隣は最近産まれたダンサーの妹は栗毛で、まだ人を怖がる素振りはあったが小さくて可愛い仔馬だった。額に渦巻き🌀の様な形をしていたが、まだ産まれて間もなく母馬の影に隠れ良く確認出来ない。

尚道が言うにはこの仔馬は才能はあるものの走るのが嫌いじゃないかと云うもので、まだ未知数らしい、美優が引っ張っても走ることを嫌がっていたのだ。碧川ひかるが、4番目の仔馬を売って欲しいと言っていたのだが、今の状況では、庭先取引も出来ないと尚道は考えていたのだ。

全ての取材ロケは終了し、東京に一度帰り、他の有力馬をまた取材しなければならない、だが美浦に着いたら、かのんは独りでユリウスに逢いに行こうと決めていた。