ビートルズのレコード・CDは一通り揃えているが、何をおいても、というほどの思い入れはなく、男子ならビートルズの曲はそこそこ押さえとかないと恥ずかしいといった時代を経たことによる。

 

1957年生まれの私はいわゆるビートルズ世代ではないが、美空ひばりや春日八郎らをテレビでしょっちゅう目にしていた頃、9歳上の従兄の部屋で聴いた ”アイ・フィール・ファイン” 冒頭のフィードバックや ベンチャーズ ”ダイアモンド・ヘッド” のテケテケの新鮮なカッコ良さを昨日の事のように記憶している。

 

もし私がひょうきんな少年だったら、え―っ?何これ!と驚いて腰を抜かし尻下がりに躄る仕草をしたかもしれない。それほど衝撃的な瞬間だった。

 

 

1970年になると、ジミヘンが亡くなりビートルズやサイモンとガーファンクルが解散し、サンタナ、シカゴ、カーペンターズ、ショッキング・ブルーらが台頭して新しい時代の波を実感させられた一方で、”レット・イット・ビー” や ”コンドルは飛んで行く”、”明日に架ける橋” は問答無用のパワーで流行っていた。

 

 

どこの学校にも、お勉強が良く出来て部活では主将、しかも品が良くてハンサムってのが必ずいる。私を含めて大方の男子・女子にとっては近寄るのも恐れ多い存在だが別にツンとして凡人を寄せ付けぬオーラを発しているわけではない。が、むしろそのオープンな爽やかさが眩いバリアを感じさせた。若大将・加山雄三(のような中学生)がすぐ近くにいると言えば分かり易いだろうか。

 

或る日、廊下で若大将君とビートルズの話をしたことがあった。

以下、彼を K(加山君)

私を B(凡人)とする。

 

K: ビートルズの曲だと何が好き?

B: (”イエスタデイ”と言うとナメられると思い少し気張って) ん~、”アイ・フィール・ファイン” とか ”エリナー・リグビー” とか。

K: 他には?

B: ”恋を抱きしめよう” や ”デイ・トリッパー” なんかも。

K: ふ~ん、オールディーズに入ってる曲ばっかりだね。

 

ガ―――ン!!!

ず、図星っ!!!

 

ビートルズ世代ではないが、知らないと仲間内でロック・ポップスを語る資格がないように扱われるのを怖れて、なけなしの小遣いで買ったビートルズ前中期のベスト盤だったのだが... 

 

オリジナル・アルバムを全て網羅しているのか、ホワイトアルバムの ”アイ・ウィル” やサージェント・ペパーズのなんたらかんたら、ラバー・ソウルの ”ドライブ・マイ・カー” 等々を軽々と口にする彼にかかると私なんぞはいとも簡単に見透かされ、貧乏人が背伸びしてもしょせん... と大いに卑屈になったものだった。

 

 

知恵の輪をじ―――っと見つめた後にササッと解いてみせたK。

数学や理科の宿題を先生よりも分かり易く解説・教えてくれたK。

後々の(恥ずかしい)証拠にされるかもしれないからラブレターの類は書かないという小賢しい分別をするK。

 

オールディーズに入っている曲を耳にする度に、ちょっと悔しくも上には上がいるもんだと知った懐かしいあの頃を思い出す。

 

 

そういえば、

当時ウチの中学校では学年1クラス約42名で7組まであり、中間や期末試験結果は1番からビリッ尻の300番まで全員の名前・点数が廊下の壁にズラ~っと貼り出されたものだった。デリカシーなど微塵もない。

頭10人と尻10人はいつもの常連。ただ、尻には尻なりの熾烈な競争があるようで、前回最下位者が今回299位に上がった時の嬉しさは一入らしい。理由は、この上なくこっ恥ずかしく目立つビリっ尻に比べ圧倒的に印象が薄いのでw

彼らにとっては決して目クソ鼻クソではないのだ。

 

私はと言えば、Kとその仲間達と仲良くなって以来、成績が目に見えて向上し、それまで中の下だったのが上の下あたりに安住できるようになった。

 

オールディーズに入っている曲を耳にする度、そういうことも思い出されて、ちょっといい気持ちになるのである。