自転車を走らせると吹き抜ける心地よい風、新緑に包まれた自転車道を照らす木漏れ日。

6月、オランダ初夏のサイクリングシーズンのはじまりだ。

オランダという国は国土が(びっくりするぐらい)平坦で、国中、端から端にいたるまで自転車道が整備されており、日本のように<山越えコース><細い道で車と接触ヒヤリハット>みたいな過酷なこともなく、健脚であれば体力のない人でも安全かつ簡単に、遠くまで自転車で移動できるようになっている。

 

私の住む街・アイントホーフェンの市内中心部から、ものの自転車で15分も進めば運河の左右にはもうこんな田園地帯が広がる。

 

 

馬とか牛なんかがのんびりと草を食む光景なんかもオランダならでは。

 

道すがら、こんなおしゃれなデザインの橋がひょっこり現れた。

む?

せやせや、野鳥の季節でもあったな照れ

この時期、親鳥がひなを連れて歩く光景があちらこちらで見られる。

すくすく大きくなるんやで。

 

何もこの運河は、サイクリングを楽しむ人だけのものではない。

カヌーにいそしむ人や、

何が釣れるのか、釣りを楽しむ人なんかも。

皆、思い思いの楽しみ方があるようで。

 

川沿いの景色は美しいだけでなく、新たな発見もある。

走行中、運河の向こう側に、なにやら開発途中と思われる新興住宅地が見えてきた。

利便性の良いまちなかに住みたがるのはもっぱら外国人であり、オランダ人は郊外の落ち着いた場所に家を構えたがると聞いたことがあるので、きっとこの新興住宅地はオランダ人ばかりが住んでいるのだろう。

 

オランダは古い家をリフォームこそすれ、新しく立てるようなことはあまりして来なかったので、近年、急増する海外からの移住者による住宅需給が逼迫している。

私たちも当初こちらに来た際には、家探しに苦労したものだ。

 

なんでも税金を投入してハコモノを建てる日本も問題だが、オランダのように作らなさすぎるのも問題が大きい。

この国は、新たに家を建てるイメージなんてまるでなかったから、こういった一から新しい家が建つ様子が垣間見れるのは実に興味深い。

 

上の写真のように、トラディショナルな造りの屋根で伝統を受け継いでいるのかと思いきや、その下からは全面ガラス張りのモダンな壁が顔をのぞかせ、都市部では決して見ることのできない珍しいオランダの現代住宅を見ることができた。

 

田舎に行くほど、都市部やその近郊でよく見かける横並びの画一的な煉瓦造りの建築と違って、一棟一棟独立しており、家の外観デザインも多岐に飛んでいてそこもまた面白かった。


この日は、本来であれば平坦なオランダではとても珍しい丘陵地帯が、なんでもアイントホーフェン市とへルモンド市の間に存在することをgooglemap上で確認できたので、それを目当てに出かけたのだが、あまりにも車輪が快活に回るもんだから、気が付いたらヘルモンドまで来てしまっていたというわけだ。

オランダってマジ自転車でどこまでもいけてしまってこわい。

 

さて、せっかくなのでヘルモンドを街歩きしよう。

ヘルモンドはオランダ南部の小さな町だ。

 

街の端から端まですぐに歩けてしまうし、人々の感じものどかでアイントホーフェンより家賃も安いだろうから、幾分住みやすそうに見える。

白人比率が高く、アジア人は自分たち以外は見かけない。

 

お、かわいい小道があるな。

くぐってみると、、、

開けた通りに出たが、そのさらに向こうには、常軌を逸する外観の建物がこちらを見ているではないか。

近づいてみよう・・・

えー!!これって、ロッテルダムにあるキュービックハウスの親戚みたいやん!!

 

<a href="https://pixabay.com/ja/users/Engel62-22128/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=89501">Engel62</a>による<a href="https://pixabay.com/ja/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=89501">Pixabay</a>からの画像

 

そんなんがヘルモンドにもあるなんて聞いてないでわし。

住人らしき女性が玄関と思しきドアから出入りし、入り口には上着や傘など、生活感がうかがえた。

 

頭の整理が追いつかない間に、後ろを振り返ると・・・

はひ?丸くね??

すかさず友人が、「中国の福建土楼みたい」とつぶやく。

 

<a href="https://pixabay.com/ja/users/bigwore02-2835618/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=4159585">bigwore02</a>による<a href="https://pixabay.com/ja/?utm_source=link-attribution&amp;utm_medium=referral&amp;utm_campaign=image&amp;utm_content=4159585">Pixabay</a>からの画像

 

オランダ人が造ったら福建土楼もこうなるようだ。

後でわかったのだが、googlemapによるとこの建物は老人ホームらしい。

しかし中の造りはどうなってるんやろ。

 

にぎやかな中心街を歩いていたら運河にぶつかった。

こうやって見ていると、コロナなんかとは無縁そうな平和な光景だ。

 

レインボーカラーで着色されたポップな橋を渡ると、かわいらしい通りが見えたので足が赴くままにそちらに向かった。

 

私は観光ガイドブックに載るようなにぎやかな大通りも好きだが、少し外れたところにある小さな通りこそ、個性的な店やこだわりのものを置く店が多かったりして、歩いていて楽しい。

そしてそういった小さな通りたちは、古い造りの建物が並び、昔から存在する通りであることが多いので、軽くタイムスリップしたような感覚を覚えるし、そこで生きる人々の営みをも色濃く感じ取れる。

 

ところが、オランダのどこにでもあるこの「昔ながらの面影を今に伝えるストリート」が、我が町アイントホーフェンにはない(正確に言うと一カ所だけある「クライネ・ベルク通り」だ)

それゆえアイントホーフェンは、目にうつるものすべてが新しく、悪く言えばひどく退屈な街だ。

アイントホーフェンといえば、フィリップス社のロゴがわかりやすいビルと、「風の谷のナウシカ」に出てきそうな王蟲の成虫の形をした奇抜な建物がアイコニックなこの光景

 

したがって、私はヨーロッパに住んでるんだ!という刺激は一切ない。
仕方ない、第二次世界大戦でドイツ軍にメッタメタにされて何も残らなかった街なのだから。

 

これまで、オランダの様々な地方都市を見てきたが、2年もこの国に住んでもなお、私の目には新鮮にうつってしまう以下の写真のような光景こそ、きっとオランダのスタンダードな田舎町なのだろう。

 

フローニンゲン

フェンロー

マーストリヒト

ナールデン

デンボス

ベルヘンオプゾーム

そして、アイントホーフェン。

明らかに街の景観が他とは一線を画すると感じるのは私だけか。

良いか悪いかは別として。

 

私は、そんな異質な街であるアイントホーフェンばかりを取り上げ、「オランダってこんな街並みですぅ~」などと語っていた自分を恥じた。

我が町はまったくスタンダードではない。

 

なので、南オランダへの移住を考えている方や、南オランダに特化した情報が欲しいという方がこのブログを見てくださっていたりしますが、ごめんなさい。

結構、参考にならないと思いますこのブログ汗

 

だがしかし、あんな歴史を微塵も感じられないただ新しいだけの都市に、どうして世界中から高度外国人材がわんさか集まってくるのだろうか。

奥さんまで高学歴だからこっちが形見狭いのなんのって。

 

ちなみに私が思う限り、アイントホーフェンにはほかの都市にはある以下のものがない。

・昔ながらの面影を残す通り

・風車が回る光景

・人々の生活と結びついた運河

・チーズ工房やデルフト焼きなどの伝統産業

・レッドライトディストリクト(売春ストリート)

・有名な美術館や目立った観光地

・巨大貿易港

・海もなければ山もない

 

・・・なのに、なのに!この人気っぷりである。

なぜかというと、この街唯一にして、だがしかしそれだけで十分成り立つような、他の追随を許さぬほどに強いアピールポイントがあるからだ。

 

それは、この時代の宿命とも言えるIT産業をはじめとする最先端テクノロジーの世界有数の集積地からである。

 

そしてここで展開されているのはデザインの概念をも付加したITだと筆者は思っている。

ここでいう「デザイン」とは、日本人が考えるような外見をなんとかするカタカナの「デザイン」ではなく、functionをも含めた広義の意味の英語の「design」である。

 

実はアイントホーフェンには、その世界ではその名を知らないものはいないほど有名なデザインに特化した専門学校「アイントホーフェンデザインアカデミー」があるし、世界的に評価されている「ダッチデザイン」における最大の祭典「ダッチデザインウィーク」もこの地で開かれたりと、ITと融合したデザイン力の高さ(?)も優秀な人材を惹きつける要因になっているんじゃないかと勝手に思っている。

アイントホーフェンでも特におしゃれなストレイプS地区にある高架下にはこんな遊び心が

 

いまだにブログ以外はなんでも手書きで乗り切っているド文系の私には、ITの世界はともかく、このデザインの概念とやらも理解できないし、とりあえず言えることは、なんだかとても未来的なんやなということだ(頭悪い)。

 

21世紀の現代だからこそ、この街の価値を世界中に知らしめることができてるんやろうな。

 

IT以外の魅力的な要素が見当たらないくせに、こんなに突出した存在感を持つヨーロッパ、いや世界の都市なんてそうそうない。

日本でも、大阪・奈良・京都にまたがる「けいはんな学研都市」みたいに、様々な企業や研究機関が集積する似たような場所があるが、だからといってここまで国際色豊かではない。

さあ、話をサイクリングに、もっと言うと途中で中断されたヘルモントの街歩きまで戻そう。

ヘルモントにはお城もあった。

オランダのお城は、ちょっと金持ちなやつがお城っぽいとこに住みたかったんだぐらいの控えめな外観のものが多い。

周辺の景色を妨げず、周囲の建物とも調和しやすいからこれはこれでいい。

 

さて、簡単にヘルモンドを見終わったところで、本来の目的地である丘陵地帯「Dak van Brabant」へ向かおう。

今度は見逃さないように慎重に笑

 

再び運河沿いを走っていると、標識がかろうじて立っている横に、整備されていないうっそうと茂った小道が森の中へと続いているを見つけた。

丘へと続く入り口はここやったんやな。

 

これも後から思ったことなのだが、ヨーロッパではうかつに茂みに近づくのはよくない。

マダニに噛まれて感染症を引きおこすことがあるからだ。

 

これでリアルに人が死んでいるので、本当は別のルートを模索するべきであったが、今の所はなにごともなくすんでいるのでよしとしよう。

 

うっそうとした林を抜けると、おお!

目の前には開けた砂利道が広がっているではないか。

 

先ほどまで上を覆っていた緑が一切なくなった今、頭上に輝く太陽が容赦なく自分を照りつける。

ロックダウンで運動不足の体に鞭を打つようにして、ひたすら砂利道を自転車片手に上っていくと、やっと視界が開ける頂上があらわれた。

う~ん、360度なにもないっ!!

 

山谷の地形が当たり前の日本人にとって、特に三方を山で囲まれし京都で生まれ育った私には30年間生きてきてもいまだに受け入れがたい光景である。

 

私は、すぐ横に見えている高圧電線がのびゆく方向を目で追った。

するとその先に、特に高い建物が集合した場所があるのが見て取れた。

我が町・アイントホーフェンである。

オランダG5の一つに数えられるアイントホーフェンは、南部最大の都市なだけあって、こうやって遠くから見ると群を抜いて高層ビルの数が多い。

 

それにくらべ他の町で、この丘陵地帯から確認できる高い建物と言えばところどころポツンと立っている教会ぐらいである。

教会は何世紀もそこに鎮座してきたわけだから、昔の旅商人なんかは皆、遠くにそびえる教会を目印に目的の町を目指したのだろう。

高い建物がなかった時代、この光景を見たら教会の重要性が容易に想像できた。

 

遠くの雄大な光景から、近くの風景にピントを合わすと今度は植物たちが目に入った。

オランダではおそらく精一杯の「高山植物たち」である笑

 

標高30mにも満たなそうな頂上で誰にも見られることなく美しく咲いていた。

 

さて、写真で見ても分かる通り、この明るさだがこの時の時刻は18時である。

日没が22時ごろにもなる、もうすぐ夏至を迎えるオランダ。

まだまだ外は明るいだろうが、そろそろ帰らなくては。

 

高いところのないオランダでは珍しいこの光景をしっかりと目に焼き付けたあと、私は再び、車輪が地面と触れるたびにジャリっと擦れる音のする坂道をくだった。

 

 

<本日の一枚>

アイントホーフェン中心にあるクラウス広場が一変。

ただただコンクリートだった空き地が、緑広がる憩いの空間になっていた。