まだ温かい夫の顔を撫でながらどれだけ時間がたったのだろうか。

看護師さん達に夫を綺麗にするので
また、ラウンジで待っていて欲しいと言われた。


娘とふたり病室を出ようとしたけれど

一緒に夫を綺麗にしてあげても良いですか?と聞いたら

看護師さん達はびっくりして、良いですけど、大丈夫ですか?と聞かれた。


大丈夫ですと答えると

青いビニールのエプロンみたいなものと

ゴム手袋を渡された。


そうか、素手で触ってはいけないのか


それらをつけて、濡れたタオルを受け取り夫の顔を拭く。


綺麗な白髪の夫の髪の毛が血で固まっていた。

大好きだった猫っ毛で柔らかい夫の髪。


頑張ったね

ひとりでいかせちゃってごめんね

そんな事を泣きながら言い、髪や顔を丁寧に拭いた。


布団をめくるとパジャマが血で真っ赤に染まっていた。


どれだけの量の血を吐いていたのだろう。


びっくりしただろうな

心細くなかったかな

私に側にいて欲しいって思ってたかな


頭、顔、腕と順番に拭いていくが

右手の爪の間ついた血がなかなか取れない。

きっと、とっさに手で受け止めたんだろうね。


看護師さんが、夫を着替えさせるのに側にあったパジャマを出してきたので

昨日、退院する時用にと持ってきていた

アロハシャツとジーパンでも良いかと聞いたら良いと言うのでそちらに着替えさせてもらった。


だいぶ痩せて、ジーンズがブカブカになってしまったので、新しく買ってきたジーンズとお気に入りのアロハシャツで退院させてあげようと用意していたものだ。


身体を綺麗にしてもらい

アロハシャツと真新しいジーパンでベッドに横になる姿はまるで、ただ寝ているようで

おはよう〜来てたんだ照れ

って起きてくれそうなほど、穏やかで優しい顔をしていた。