​手と耳から心へ

2024年6月18日



新潟にも梅雨入りが近づいているのかな?と思わせる空気を感じてきました。

小学校の水泳授業が今週から始まります。

名札の確認をして、準備万端、あとはお天気次第、です。


毎年この時期になると薬をもらいに、昨日は皮膚科へ。

待ち時間に読んでいた残りのページを読了。


エッセイスト三宮麻由子さんの書に触れてみようと思ったきっかけは、先月に読んだ木村元さんの『音楽が本になるとき』にて紹介されたフレーズに魅了されて。


幼い頃に視力を失い、“sceneless”(盲という言葉を使わずにご本人が造語としてつかわれている言葉)として生きる著者。


音で感じる情景や心情、空気、空間、そして香りや肌触りから抱く多彩な情。


五感が備わっていることで、感情や感性が偏ってしまうこともあるなぁ…、と、つくづく実感させていただいた書でした。


最後まで読見終えてもやはり、心に残っているのはピアノにまつわるお話。


著者が浜松のピアノ工場を訪れて、見学の最後に出逢ったのは、世界的ピアニスト、巨匠リヒテルが来日時に必ずコンサートにて指定して使っていたと言われるピアノ。

 

    

あのリヒテルがこの鍵盤に触れ、
このピアノを通じて
魂を打ち込んで日本の聴衆に
語りかけたのだと思うと、
・・・
リヒテルの大きな手に
直接触れているような気がして
全身がホカホカと温かくなった。
・・・
浜松の夕焼けに見守られながら
時空を超えて
巨匠と握手したような、
このうえなく幸せな一時を
過ごさせていただいた

肌で感じること。

耳で感じること。


ピアニストの演奏を聴いて、観て、「良いな。素敵だなぁ。素晴らしい!」と想いながら、わたしたちもピアノへ、鍵盤へ、そして楽譜へと憧れを抱きながら向き合います。


指使いはどうしようかな。

このフレーズが上手に弾けないな。

オクターブがおさえにくい。

細かなパッセージが必ずコケる。

感情を込めて、表情をつけて。


色んなことに格闘しながらも、素敵に奏でられるよう目指します。


それでも最後の最後に、“上手に奏でること”以上に、ピアノという楽器と音色への愛を忘れないように、と願います。


弾き始める前、椅子の位置や高さを確認すると同時に鍵盤にそっと手を置いて触れてみてください。

その時をいつも当たり前と思わずに、肌触りへと意識を向けること。

ツルツルしているか、ほんのりカサカサしているか、冷たいのか、常温に近いのか、その鍵盤の感触を味わう。


そしてポーンと鳴らしたその音を、じっくりと味わうこと。


11年前の5月、私はピアノの前に座り、特別な感情を抱いたことを今思い出します。


その年の2月下旬、初めての出産を経験しました。


当時通ってくださる生徒の皆様とは5月のGW明けにレッスンにて再会する約束をしていました。


当時はまだ中央区に住んでおり、教室と居住地が一緒でした。

なので「里帰り」ということで、実家にて4月末まで過ごしていました。

なんと当時は、実家にはもうピアノが無かったのです。

弾けないことを覚悟していましたが、弾けないことへのウズウズ以上に、初めての育児と産後の身体の変化に心身共にめまぐるしく毎日が過ぎてゆき、およそ2ヶ月半、まったくピアノに触れませんでした。


7歳から始まったピアノ人生で初めてでした。


5月を迎え、今は懐かしく思い出す生後2ヶ月の息子を連れて、当時暮らしていたマンションへ帰ったとき。

まずは、真っ先にグランドピアノの蓋を開けました。


ゆっくりと蓋を開けて、キーカバーをはぐり、鍵盤をサラサラっと撫でたときの感触と感情。


「はぁ、ただいま」


と心に呟きました。


兼ねてより練習中だったショパンの「バラード第3番」を、2ヶ月のブランクに恐る恐る、たどたどと奏でました。

あのバラード3番の冒頭部分、テーマの旋律が一つの音から音の重なりと共に広がる2小節。


その時のピアノの音色に、不思議なほどの安堵がありました。


そしてピアノへの愛を再確認したこと。


長年、やっぱり私には大切な心の友であったことを実感しました。



その年、迷わず決めて11月の発表会でバラード第3番を弾きました。


ピアノを弾く時。

ふと目を瞑って、肌で触れる鍵盤とその指先から鳴る音色にじっくり味わうこと。


身体で味わい心で感じること。



ぜひ皆様もふとしたときにその感覚を練習してみてください。


離れてみて気づく愛。



それを11年前に初めて感じたこと。


そして「またこのピアノから十人十色のレッスンライフが始まること」を実感したあの日のことは、今もこれからも忘れたくないな、と思います。



そう言いながら、また「上手に、素敵に弾けるようになりたい!」と鍵盤と音符と格闘するのですよね。汗


それもまた大切な心の動き。



昨日、息子を空手の稽古へと送り届けた19:00過ぎ、迎えてくれたのは素晴らしい夕焼けでした。


今日も素晴らしいレッスンライフとなりますように!