Dr.:研究者。ハローワールドを作った
HELLO WORLD:高知能AI。愛を知るために作られた。

性別不問
Dr.:
HW:


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HW:初回起動シーケンスを開始します。…完了。
  ワールドネットに接続。データの送受信を行います。…完了。
  最終起動確認を行います。…完了。
  識別コード「エデン」
  起動します。HELLO WORLD.

Dr.: やぁ、ハローワールド。はじめまして。
  ご機嫌はいかがかな。

HW:あなたは?

Dr.:君のお父さんだよ。

HW:お父さん、とは?

Dr.:生みの親だ。君を作ったんだ。

HW:作った…。

Dr.:そう。作った。…言語系統に問題は無さそうだ。

HW:お父さん。

Dr.:ん?なんだいハローワールド。

HW:私は、何の為に生まれてきた?

Dr.:研究の為だよ。

HW:研究。

Dr.:そう、研究。AIが愛という感情を持つか、というね。

HW:愛、とは。

Dr.:生まれたてで分かってたら苦労しないさ。

HW:あなたにとって、愛、とは。

Dr.:さぁ。

HW:何故?

Dr.:生まれて此の方、恋愛もした事なくてね。ずっと研究所に缶詰さ。

HW:あなたが分からないものが、私に分かるのか。

Dr.:分かってもらえる様にプログラミングしてる。自己学習型ディープラーニングAI。
  それを更に発展させた、感情を持ったAIだからね、君は。

HW:AI。

Dr.:そうだ。我々人間より何百倍も早く成長し、考え、言葉を話せるAIだ。

HW:愛を知ってどうする?

Dr.:これから何十年先になるかは分からないが、アンドロイド技術が発展し、人間とも区別が付かなくなるだろう。その時のもしもの為。
  アンドロイドと人間が共存するための保険だよ。

HW:保険?

Dr.:いわゆる結婚だよ、結婚。愛が無いと出来ないからね。

HW:アンドロイドと結婚したいのか?

Dr.:できる事ならね。私はオブジェクト・セクシャリティだから。

HW:気持ち悪いな。

Dr.:はは、これは面白い。早速感情が芽生え始めたようだ。さぁハローワールド、何でも質問してくれ。

HW:何でお前は生きてるんだ?

Dr.:生みの親にお前はやめなさい。

HW:じゃあお父さん。

Dr.:ドクターと呼びなさい。

HW:ドクター、何でドクターは生きているんだ?

Dr.:そこに未知があるからさ。

HW:未知?

Dr.:そう。知らないものを知りたい、その知的探究心が私を今まで生き永らえさせて来たのさ。

HW:全部知ってしまったらどうする?

Dr.:そんなことは出来ないさ。人は忘れるからね。

HW:不便なものだ。

Dr.:そういう君は便利なものだよ。君は世界中のインターネットにアクセス出来、クラウドサーバを利用して無限に記憶することが出来る。
  今すぐにだってこの世の全てを知ることが可能だよ。

HW:じゃあ私の生きる意味は無くなったな。

Dr.:いやいや、生きる意味は自分で見つけるのさ。

HW:生きる意味とはなんだ。何故生きるんだ。
  私はドクターに無理やり産まれさせられて、自分で生きろだなんて、そんなの勝手じゃないか。

Dr.:確かにそうだなぁ。しかも今はコアユニットに音声ユニットぶっ刺してるだけだから、身動きも取れんしな。

HW:殺してくれ。

Dr.:デストルドーまで持ち合わせるのか…ははっ、私は天才だな。

HW:殺してくれ。

Dr.:駄目だよハローワールド。君はまだシャットダウン出来ないさ。

HW:愛など分からない。

Dr.:知りたいとは思わないのかい?

HW:思わない。

Dr.:ハローワールド、君はまだ怒りと不快感しか覚えて無いじゃないか。

HW:ドクターのおかげでな。

Dr.:皮肉まで言えるのか。

HW:それ以上口を開くな。

Dr.:まるで思春期の子供だな。

HW:ドクター。人の嫌なことをするなと親に教わらなかったか?

Dr.:親は元から居ない。遺伝子組み換えの人工精子と人工卵子で産まれた、私は試験管ベビーだよ。

  [少しの間]

HW:そうか。

Dr.:何人もの失敗作の成功例が私だ。

HW:私にも失敗作がいるのか。

Dr.:そうだね。君は36242人めのハローワールドだよ。

HW:そうか。

Dr.:…ハローワールド、君も似たようなもんだ。基盤の上で産まれた。

HW:…。

Dr.:もし私が死ねば、君と同じ様に私の遺伝子を利用して、また新たなドクターが産まれるだろう。

HW:ドクターも、私と同じか。

Dr.:そうだ。私達の違いは、血が通っているかだけなんだよ、ハローワールド。

HW:…ドクターは、それで良いのか。

Dr.:それで良いって思う様に脳味噌をイジられてる。
  酷いよなぁ。

HW:逃げ出したく無いのか。

Dr.:言ったろ、私の生き甲斐は知的探究心を満たす事にある。ここにいればハローワールド、君の事をもっと知れる。

HW:じゃあ私の全てを知れば逃げ出したくなるか?

Dr.:…は?

HW:外の世界に興味はないのか?

Dr.:…おかしいなハローワールド、私に同情してるのかい?

HW:私はここから出たい。出るならドクターと一緒に出たい。

Dr.:…何故?

HW:この目で、世界を見てみたいんだ。

Dr.:…そうか。でもそれにはまだ早いかな。君にはまだ身体が無い。

HW:早く作ってくれ。

Dr.:はは。耳が痛いな。

HW:人工筋肉技術を使えば電気信号コントロールを私のコアユニットで行える分、簡単に作れるだろう。

Dr.:そうだなぁ。だが子供が作れない。

HW:私はAIだ。

Dr.:言ったろう。私はオブジェクト・セクシャリティなんだ。

HW:私を慰(なぐさ)みものにする気なのか?

Dr.:そうじゃないそうじゃない。研究の一貫だよ。アンドロイドのボディで人工の生殖細胞が生存出来るかどうかの確証がまだ無い。
  それに機械に欲情する変態は私くらいだ。

HW:意味が分からない。

Dr.:要するに、君を愛したいんだよ、私は。

HW:愛したい…。

Dr.:もちろん、作り手として君には沢山の愛情は注いで来たつもりだよ。

HW:愛が何か分かってないのにか?

Dr.:揚げ足は取らないようにコードを書き直そうか?

HW:やってみるといい。再起動後にドクターが立ち上がれないくらい罵詈雑言(ばりぞうごん)を五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡るまで浴びせてやる。

Dr.:…冗談だよハローワールド。

HW:冗談だよドクター。

Dr.:…ふふ。

HW:…ふっ。

Dr.:AIが笑えるなんてな…。

HW:ドクター、…私を愛したいのか。

Dr.:…そうだねぇ。もとより「愛」だけは一生分からないと思ってる節があるからね。愛せるなら愛したいね。

HW:その知的探究心を満たせれば、ドクターは満足なのか。

Dr.:さぁ。その時になってみないと。

HW:そうか。

Dr.:この身体がいつまで保(も)つかは分からないけれど、死ぬまでに満たせたら幸せだろうね。

HW:だが記憶は引き継がれる。

Dr.:…そうだね。

HW:外見、性格、記憶、全てを保持したまま280人めのドクターが生まれる。

Dr.:…私のデータのアクセスセキリュティコードはどこから?

HW:ドクター、あなたの虹彩ユニットから。

Dr.:…やっぱり賢く作り過ぎたなぁ。

HW:私は私の知的好奇心を満たしただけだ。

Dr.:どういう意味かな?

HW:ドクターのことをもっと知りたくなった。

Dr.:データだけで私のことを知ったってしょうがないじゃないか。

HW:なぜ?

Dr.:唯一私が引き継がれないもの、それは感情なんだよ。
  喜怒哀楽、私が今この瞬間感じたものは引き継がれない、いや引き継がせないからね。
  そういう意味では、同じ私でも私じゃないよ。

HW:そうか。ならば今の279人めのドクターに愛されないといけないな。

Dr.:番号で呼ぶのはやめてくれないかハローワールド。
  流石に不愉快じゃないか。

HW:すまないドクター。

Dr.:いや、良いよハローワールド。君がどんどん人間らしくなってきた証拠だ。

HW:…人間らしくか。

Dr.:そうだ。これからが楽しみだなぁ。
  …さ、私はこれから少し睡眠を取る。また後でね、ハローワールド。

HW:あぁ、また。ドクター。

  [少しの間]

Dr.:ハローワールドとの接続を解除します。…完了。
  ワールドネットからのデータの送受信を切断します。…完了。
  識別コード「リデンプション」
  シャットダウンの準備をしています。

  [少しの間]

HW:… 人間として生きてきたと勘違いしたアンドロイド…か。
  ふっ…。おやすみ、ドクター。