こんにちは、英語講師のKです。
「関係詞の制限用法と非制限用法の発話時の区別」についてネイティブに訊いてみました。
●関係詞の制限用法とは?
I have a brother who loves baseball.
「僕には野球が大好きな兄(弟)がいるんです」
このように、a brother「兄(弟)」を「野球が大好きな」のように関係代名詞who以下のまとまりが修飾する用法を制限用法(または限定用法)と言います。
中学3年生で習う関係詞の使い方のことですね。
特徴としては、日本語訳するときには「野球が大好きな兄(弟)」のように、後ろから訳出する形になることです。
(ただし英語使用と上達の観点から言えば、このようないわゆる返り読みは避けて前から意味を読み取っていく訓練をすべきであることは言うまでもありません。)
●関係詞の非制限用法とは?
一方、非制限用法(または継続用法)というのは、
I have a brother, who loves baseball.
このように見た目として関係詞の前にコンマが置かれるものです。
意味のとらえ方としては、
「私には兄(弟)が一人いて、彼は野球が大好きなんです」
といった具合にいったんコンマまでを一つの意味のまとまりとして受け取り、そのあとでa brother「兄(弟)」についての説明を加えます。
これが非制限用法です。
●意味の違いは?
では、これら二つの文の意味の違いは何でしょうか?
1.I have a brother who loves baseball.
2.I have a brother, who loves baseball.
見た目的には、コンマがあるかないか、の違いです。
まず1の文は、「野球が大好きな兄(弟)が一人いる」と述べているわけですが、このときに「ひょっとしたら野球以外のものを好きな別の兄弟がいるかもしれない」ことを暗示しています。
野球好きな兄弟は確かに一人だけれど、実は他にサッカー好きの兄やテニス好きの弟もいるかもしれません。
つまり、あくまで「野球好きは一人」と言っているだけであって、「話者が何人兄弟なのかは不明」だということです。
これに対して、2の文ではまず「私には兄(弟)が一人いる」と述べたところでいったん文が区切れています。
これは「私の兄弟は一人である」と言い切っているということであり、つまり「話者にはそれ以外の兄弟がいない」ことを表していることになります。
そしてコンマ以下で、その一人の兄(弟)についての説明を加えているわけです。
●ネイティブの解釈はどうだろう?
さて、これらの意味の違いは一般の学習参考書などにも書かれていることですが、果たしてネイティブはどのようにとらえているのでしょうか?
あるネイティブ講師に1の制限用法の文を見せて「この人には何人兄弟がいると思う?」と聞いてみました。
すると「一人だ」と即答されました(笑)
パッと見の印象としてa brotherを見た瞬間に「一人しかいない」と恐らくは判断したのでしょう。
そこで「他の兄弟がいる可能性はあるか?」と聞いてみると、
「確かにあり得る」
とも答えてくれました。
もちろん文章には文脈や背景が伴います。これを無視して解釈を限定することはできないでしょう。
このネイティブの反応を見ても、参考書に書かれてあるように、1が必ずしも兄弟は「絶対に一人だ」とも「絶対に一人ではない」とも言い切れないようです。
(参考書の解説を読んだり、僕たち講師の解説を聞いたりする学習者の方々は、つい「制限用法の場合は兄弟は一人じゃないんだ」と思い込んでしまう危険があります。
もちろん参考書はそのように断言はしていませんし、僕たち講師もそのようには言い切りません。
でも学習者の方々にとっては、曖昧なものよりも明確な違いが分かった方がありがたいはずです。
その心理から、「制限用法の場合は兄弟は一人ではない」と理解した方が都合が良いと感じ、そう思い込んでしまうケースは往々にしてあるでしょう。
そうではなくて、あくまで可能性として「他の兄弟の存在も無視できない」くらいの理解に留めておくことが大切で、その意味では僕たち指導する側も誤解を招かないよう正確な解説をすることが必要ですね。)
●発話時はどう区別する?
非制限用法の面白いところは、コンマという、「書かれてはじめてその存在を認識できる記号」を用いている、というところです。
文字で書かれた場合にはコンマがあるかないかは見れば分かります。
ところが文字を書かない会話の場合には、コンマがあるかどうかを確認することができません。
まさか喋りながら「コンマ」と声に出して言うわけにもいきません(笑)
そこでネイティブ講師に
「話すときにはどうやって区別するか?」
と尋ねてみました。
すると
「意味の混乱が起きないように何か別の表現をするなどして工夫する」
とのこと。
たとえば「兄弟は一人だ」と言い切りたいとき、
I have ONE brother.
のようにoneを使って少し強調してみせるとか、
I have a brother AND he loves baseball.
「兄弟が一人いて、それで彼は野球が大好きなんだ」のようにandを挟むことで「兄弟は一人」という意味の句切れ(言い切り)を明確にする、といった具合です。
逆に「他にも兄弟がいる場合」には、
I have two brothers. One loves baseball and the other loves soccer.
「僕には兄弟が二人います。一人は野球好きでもう一人はサッカー好きだ」
とか
One of my brothers loves baseball.
「(複数の)兄弟の一人は野球好きだ」
と言った具合に、全く別の表現で兄弟の複数性を明確にしたり、暗示したりする、ということです。
どちらの場合も、より分かり易くするために関係詞すら使わなくていい、と(笑)
(ちなみに僕の経験を蛇足ながら付け加えさせていただくと、
I have a brother(一呼吸置く)who loves baseball.
このようにwho(関係詞)の手前で一拍分のポーズを挟むことで、そこに意味の句切れがあるのだと伝えようとする、無意識のリズムをネイティブスピーカーから感じることがあります。
目に見えないコンマ、つまり言葉がいったん中断されるところをポーズという「無音」の表現で表すわけです。
これも一つの言語活動と言えるでしょう。)
英語学習を通じて基本的な文法の仕組みやその意味解釈を学ぶことはとても大切です。
それが正しく使えるように訓練を重ねることも必須です。
一方、文脈や背景のある現実の英語使用においては、ときには学んだことがらにとらわれない工夫や、そのための柔軟な発想を持つこともとても大切なのだということも忘れてはいけないことを改めて感じさせられました。
今日もお読みいただきありがとうございました。