泉屋博古館分館での「華ひらく皇室文化」展の内覧会に行って参りました。

 

本展は、内覧会といえども写真撮影に厳しく、ホール以外での撮影は禁止でした。

 

貴重な撮影可能作品の一部などをご紹介しますね。

 

 

 

今尾景年(いまおけいねん・1845ー1924)

左:≪深山瀑布図≫(明治後期―大正・20世紀)

右:≪富士峰図≫(明治後期―大正・20世紀)

 

写真撮影は内覧会につき許可されています。

 

すぐれた動物画を多く遺した木島櫻谷の師である今尾氏。

京都の友禅師の家に生まれます。はじめは浮世絵師に学びましたが、明治初に鈴木百年に入門、頭角を現しました。

(ちなみに、弟子の櫻谷の回顧展は最近、2017年にここ泉屋博古館分館で行われています。)

 

シカゴ万博やパリ万博で賞ををとるなど海外でも評価され、

明治37年帝室技芸員にもなりましたが、現在ではすっかり忘れられた画家に。

今回の展覧会では、万博や内国博覧会で活躍した、帝室技芸員の作品が多数出展されていることが特徴です。

 

「帝室技芸員」制度は明治23年、帝室(皇室)が技芸(技術)の制作活動を奨励するために設置した制度で、今でいう人間国宝指定のようなもの。

 

 

以下の写真は、屋外に飾ってある誰でも見られる展覧会広告をアップで撮影したものです。

 

初代宮川香山(みやがわこうざん・1842~1916)

≪菊花形藤花図壺≫

明治39年 1906

 

京都の陶家・真葛家に生まれましたが、明治3年に文明開化の地・横浜に移住して開窯しました。

輸出用の陶磁器で名を上げ、「Makuzu ware」は欧米でも知られています。

現在でも横浜には彼の記念美術館があります。

 

宮川香山 眞葛ミュージアム

http://kozan-makuzu.com/

 

菊花形に成形された器に描いているので、立体感が出て、藤に表情がありますね。

 

この作品は藤の花がやさしげですが、むしろ、香山は、以下の作品のようにグロテスクなほどの凹凸がある「高浮彫(たかうきぼり)」の技法で有名です。

 

・参考

≪高浮彫桜に群鳩三連壺≫明治時代後期

※本展には出品されていません

 

外国人に薩摩焼が好まれたので、薩摩風の作品を制作しようと考えたのです。

当時海外では、値段を問わず、飛ぶように売れたそうです。

 

最近ではサントリー美術館で没後100年展がありましたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 

没後100年 宮川香山展(2016)

 

フィラデルフィア万国博覧会(1876)など国内外の博覧会で受賞を重ね、高い評価を得ました。帝室技藝員としても活躍。

 

 

 

板谷波山(いたやはざん・1872ー1963年)

《葆光(ほこう)彩磁珍果文花瓶》【重要文化財】  

大正6年 1917

 

皇室に愛され、陶芸界最後の帝室技芸員になりました。

泉屋博古館を設立した住友春翠が好んだ陶芸家でもありました。

 

作品全体が淡い光に包まれたような繊細な質感。

波山が開発したマット釉・葆光彩(ほこうさい)で覆われています。

本人もこの作品の出来栄えには大変満足していて、「結果非常に良好なり」と記録に残していました。

 

 

本展の要注目の1つは、勢揃いしたボンボニエール

 

手のひらサイズの小箱「ボンボニエール」は、天皇のご即位や皇族方のご成婚など、慶事の際に皇室から贈られる引出物です。明治期からこの慣習が始まり、外国賓客にも贈られ、日本の高い技術や繊細な美意識を世界に示す役割も担ってきました。

 

 

鶴亀型ボンボニエール

明治27年(1894年)3月9日

 

明治27年(1894年)3月9日。

制作日が台にも刻まれていますね。

さて、この日は何の日でしょうか?

 

この日、明治天皇の大婚25年祝典が行われました。

 

日本が欧米の文化水準に追いついた近代国家であるということを内外にアピールする一大式典で、もちろん式典は西洋式。

 

この鶴亀型ボンボニエールは、立食の宴の参列客1,208人に配られたそうです。

1,208個もこんな細かいもの(誉め言葉です)を制作するなんて…!

気が遠くなりそうな手間です。

明治期の工芸品は、このように、文化立国を示すため採算度外視で作られた品が多いことが特徴です。

欧米人受け、欧米の貴族の邸で映えることを意識して作られているため、ときにtoo muchに感じてしまうこともありますが、華麗さ、繊細には圧倒されるものがあり、現代では再現できない技法や材料であることもしばしば。細部まで必見です。

 

 

このように明治皇室の典雅が感じられる本展は、2018年4月、名古屋の徳川美術館にはじまり、秋田市立千秋美術館、京都文化博物館を巡回してきています。

東京が最後の巡回地です。

学習院大学史料館(展覧会情報は下記をご覧ください)と提携しており、図録に掲載されている作品をすべて見るためには、両方観覧する必要があります。

 

 

夕焼け館長こと野路耕一郎氏のご挨拶。

 

学芸員 森下愛子さんのトーク

展覧会の趣旨や見どころを解説頂きました。

 

 

参考文献:

「花開く皇室文化」青幻舎(2018年)(※本展図録)

「没後100年 宮川香山」(2016年)

 

 

【展覧会情報】

華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美-

住友コレクション 泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1

 

2019年3月16日(土)~5月10日(金)
前期:3月16日(土)~4月14日(日)、後期:4月17日(水)~5月10日(金)

www.sen-oku.or.jp

 

 

【関連展覧会情報】

平成31年度 学習院大学史料館春季特別展
「明治150年記念 華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美-」

学習院大学史料館

2019年3月20日(水)~5月18日(土)

      月~土 10:00~17:00
      〔閉 室 日〕日曜・祝日、5月1日(水)
      〔特別開室日〕4/14(日)(「オール学習院のつどい」)

http://www.gakushuin.ac.jp/univ/ua/exhibition/