昨日から、東京国立博物館で恒例の「博物館でお花見」企画が始まりました。

 

広重がそろう浮世絵室で、要注目なのが以下の≪近江八景≫シリーズです。

実は広重の名所絵シリーズのなかで、近江八景が一番好きなのです。

 

広重は、江戸だけでなく、東海道、近江、京、大坂など、各地の名所を多数描きました。
近江八景は、中国の「瀟湘八景図」(北宋時代成立)になぞらえて、滋賀県琵琶湖岸の美しさを代表する8つの景勝地を描いた作品です。

 

  • 三井晩鐘
  • 粟津晴嵐
  • 瀬 (勢) 田夕照
  • 石山秋月
  • 唐崎夜雨
  • 堅田落雁
  • 比良暮雪
  • 矢橋帰帆

 

の八景。

近年発見された史料から、琵琶湖畔の膳所城(ぜぜじょう)からの眺望を和歌で詠み、選んだものだということがわかっているそうです。

そのため、広重作品でも、各作の上部には和歌が書かれています。
いずれも、京に近くアクセスしやすい湖南エリアから選定されています。近年、桜や紅葉シーズンの京都市内は外国人観光客で激混みですから、京都市内を離れ、滋賀で季節を愛でるのもお勧めです。

 

保永堂版4枚、魚栄版3枚、計7枚が現在展示中です。

 

「保永堂版」は、≪東海道五十三次≫の大人気を背景に、同じ版元「保永堂」によって1834年頃に刊行されたもの。

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「雨と雪と霧の芸術家」と海外で称賛された広重の真価が発揮された渋いシリーズ(縦23.3cm×横35.3cm=横画面)。
 

「魚栄版」は、広重最晩年の傑作で、ゴッホが模写した『名所江戸百景』と同時期に、魚屋栄吉から出版されたもの。(縦36.0cm×横24.5cmの縦画面

 

 

≪近江八景 三井晩鐘≫
 

魚栄版(版元 魚屋栄吉)
歌川広重筆
安政4年(1857)

 

明るい色合いで春めかしい魚栄版(↑)に比べて、枯れた渋い色合いの保永堂版(↓)。

縦長か横長化の違いのせいか、画面の切り取り方も違いますし、詳細を知らないと同じ場所を描いたとは一見して気が付かないかもしれません。

 

両方の版を比べるのも楽しいですね。向かい合ったショーケースに並んでいます。

 


三井晩鐘(みいのばんしょう)=三井寺(園城寺)/大津市
思うその 暁ちぎる はじめとぞ まづきく三井の 入あひの声
 

三井寺(みいでら)は、京都に隣接する大津市にあり、京都駅からはJR琵琶湖線でいけます。

.
正式名称を「長等山園城寺(おんじょうじ)」といいます。
重要文化財でもある弁慶鐘、名物の力餅も有名です。
弁慶を基にしたゆるキャラ"べんべん"がいるそうです(笑)。
 

 

 

≪近江八景・石山秋月≫
 

魚栄版(版元 魚屋栄吉)
歌川広重筆
安政4年(1857)

 

保永堂版 江戸時代 19世紀

 

石山秋月(いしやまのしゅうげつ)=石山寺/大津市

石山や 鳰(にお)の海(=琵琶湖)てる 月かげは 明石も須磨も ほかならぬ哉(かな)
 

琵琶湖から流れ出る瀬田川のほとりに位置します。
石山寺も桜と紅葉の名所として有名です。

紫式部が源氏物語を書いた場所でもあります。
『蜻蛉日記』『更級日記』『枕草子』などの文学作品にも登場し、紫式部は、石山寺参篭の折に物語の着想を得たとする伝承があります。

 

 

≪近江八景・粟津晴嵐≫


魚栄版(版元 魚屋栄吉)
歌川広重筆
安政4年(1857)


 

 

保永堂版 江戸時代 19世紀

 

粟津晴嵐(あわづのせいらん)=粟津原/大津市
雲はらふ 嵐につれて 百船も 千船も浪の 粟津に寄する
 

強風に松の枝がざわめく様子から、晴嵐と呼ばれました。
絶景ですね。
琵琶湖岸からの景色は爽やかですがすがしく、東海道を旅していた昔の旅人は、京都を目前にして、長旅の疲れをリフレッシュできたことでしょう。
 

周辺は、城下町として栄えたエリアです。
膳所城は明治時代に廃城になり、城跡が公園になっています。
 

最寄駅 JR石山駅

 

この6枚に加えて、保永堂版のみ≪唐崎夜雨≫も展示されています。(なぜか魚栄版はない…単にショーケースのスペースの問題なのか他に何か深い理由が…?)

 

是非7枚コンプリートしてみて下さいね。

 

 

【展覧会情報】

浮世絵と衣装―江戸(浮世絵)
東京国立博物館 本館 10室
2019年2月26日(火) ~ 2019年3月17日(日)展示