京都、鹿が谷。岡崎エリアから、南禅寺や永観堂などを徒歩観光しながら北上、泉屋博古館に向かいました。美術館が近づくにつれ、閑静さがあたりに戻ってきました。

住友グループの運営する美術館ですが、依然訪れた際には、木島櫻谷という、京都画壇で活躍した画家の展覧会を開催しており、新しく素敵な作品を幾つも知ることができました。小ぶりの美術館ですが、侮れません! 



今回は、いわゆる外光派として有名な黒田清輝を筆頭に、明治・大正期に、渡欧して西欧絵画のノウハウを吸収して帰国した俊英たちの作品を集めた企画展です。普段はそれぞれ企業の壁を飾っている絵が多く、なかなか目に触れる機会がないそうなので、貴重な機会を楽しみました。
 作品数が少ないので、一作一作をじっくりと鑑賞。私の魅かれた作品を、印象的だった順にご紹介いたしますね。



藤島武二《幸ある朝 (A Happy Morning)》1908年
陽光。ヨーロッパの眩しい陽射しが部屋全体に差し込むなか、女性は恋人からの手紙を開封し…幸福感あふれる描写が、鑑賞者の気持ちまで暖かくさせてくれるようです。釘付けになってしまいました。

マスネのオペラにある管弦楽を10組にまとめたオーケストラ組曲のなかで、最も美しいのが第4組曲「絵のような景色」の第3楽章「時を告げる鐘」。不意に、この曲を思い出しました。まるで、朝の時を告げ、幸福を祝福する教会の鐘が聞こえて来そうな情景です。



黒田清輝《花と婦人 (Chrysanthemums and Two Women》1892年
 花が画面の大半を占め、左隅に夫人が描かれるという独特な構図。皇室の象徴である菊の使用といい、ジャポニスムを意識した感がありますね。

ちなみに、同時期に、京都文化博物館では「黒田清輝展」が開催されており、そちらにも足を運びました。


斎藤豊作《秋の色 (Colors of Autumn)》1912年
黄色と青の補色関係が強いコントラストをなし、目に飛び込んできます。それでいて、牧歌的な、村の一風景が、見るものを穏やかな気持ちにもしてくれます。

彼は、黒田清輝に師事した画家。師と同様フランスに留学し、黒田が学んだラファエル・コランに学びながらも、新印象派や後期印象派、フォーヴィスムなど、パリ画壇の新傾向にもふれ、自由な制作活動に入ったとのこと。

確かに、本作には、後期印象派やフォーヴィスムに通じる、濃い色遣いや力強いタッチなどの特徴が強く表れているように感じます。会場のなかでも、目を引いた作でした。



岡鹿之助 《堀割 (A Canal)》 1960年頃
 気の遠くなりそうな細やかな点描画。緻密な描写に、思わず嘆息です。
パリに留学経験を持つ岡鹿之助が原点とした風景の1つが、都市の運河、堀割だったそうです。しかも、戦前期のパリ時代のみではなく、その後も繰り返し、都市生活の空気を漂わせるこのモチーフに取り組んでいたようです(ポーラ美術館にも同名の作品が収蔵されています)。

1927年、ポーラ美術館蔵



浅井忠《グレーの森 (Woods in Grez-sur-Loing)》1901年 
留学先のフランスで出逢った風光明媚な地、グレー=シュル=ロアン村を描いた一枚。浅井は、グレーの風景を数多くの珠玉の油彩画、水彩画で残していますが、黒田やほかの画家たちも訪れた渡欧日本人画家たちにとって貴重な場所だったそうです。
 透明感の強い、爽やかな作品だと感じました。早春を描いた作品なのか、樹々の多くはまだ芽吹いていませんが、暖かな陽光の下、薄緑色の葉の色が古城のお濠の水面に反映し、たゆたう―春の柔らかさが十分に伝わってきました。



三宅 克己《ハムプステッドに於て吾宿の花園》1898年
彼は、来日したイギリス人水彩画家の作品に接したのを契機に水彩画を志し、生涯多くの水彩画を残したそう。英国、米国、フランス、ベルギーなど欧米に多くの渡航経験があるとのこと。
蒼みがかかった緑がみずみずしく、美しい作品。ロンドンに数年滞在していたので、初夏に公園を散策して回った記憶が蘇ってきます。ピーターラビットなどの童話に出てきそうな風景がいいですね。


「ちょっとパリまで、ずーっとパリで ―渡欧日本人画家たちの逸品―」
東京会場:泉屋博古館分館  2014年3月15日(土)~5月11日(日)
京都会場:泉屋博古館  2014年5月17日(土)~ 7月13日(日)