サボとエース

コルボ山の秘密基地で、こんな会話があったとしたらSS。ほとんど会話だけです。



「エース見ろよ、今日は星が綺麗だ。」

「なら明日の朝は冷えるな。ルフィにもう一枚毛布かけてやるか」

「相変わらず現実的なヤツ・・・」


サボの溜息が、白い霧となって窓の外へ消えた。

雲一つない満天の星空に感動を覚えたサボは、窓辺に貼り付けていた身体を子供一人分ずらしてエースを隣へと誘っていたのだが、サボの無言の誘いに彼は一向に気付かない。

それでサボは諦めて、己もエースの隣に並べた布団に潜り込んだ。

エースの言うとおり、冬の空気は布団の繊維の奥まですっかり冷やしてしまったようで、サボは布団の中でかじかんだ足先を擦り合わせる。



「なぁ、エース知ってるか?人は、死んだら星になるんだと」

「へぇ・・・あの空で光ってるのは今までに死んでった奴らか。だったらおれは流れ星になってさっさと燃え尽きちまいてェ。いつまでも手前ェの死体を晒しておくなんてゴメンだ!」

「・・・エースはさっさと死にてェのか?どうして?」

「分からねェ・・・死にてェわけじゃねェけど、おれが生きてることに価値があるかも分からねェからな」

「生きてる価値・・・?」


珍しくこの男が高尚なことを言っている、とサボは大きな目を瞬かせた。


「そうだな・・・サボ、もしおれが死んだら、お前はおれのために泣くか?」

「・・・・・・!」

「おれが死んで、お前がたった一日だけでも泣いてくれたら、そしたらおれにもそれだけの価値があったってことになるんだろうけどよ」


自嘲気味に笑うエースの顔は、サボの目に痛々しく映った。

滅多に己のことを語りたがらないエースがたまにその話をする時、彼はいつも己の過去を、自身を、哀しげな顔で嘲る。
サボは、返す言葉を探すふりをしながら、しばし口を噤んだ。


「・・・・・・おれは、」

「うん・・・?」

「おれは、お前のためになんか泣いてやらねェよ・・・」

「・・・・・・そうか」


エースの唇が僅かに強張ったが、それに気づかれまいとすぐに自嘲の笑みを深々と刻む。


「泣かねェけど、その代わり徹底的に恨んでやる」

「恨む?おれを?」

「もしエースの勝手で死んだんだとしたら、おれはお前を一生恨み続ける。地獄の果てまで追いかけて、血ヘド吐くまでお前をぶん殴る。・・・そんで、もし誰かのせいでお前が死んだとしたら、おれは何があってもそいつを絶対に許さねェ。それがルフィだったとしても、おれはルフィを敵とみなす・・・!」

「・・・・・・」


枕元に置いていたロウソクが、微かに芯を焦がす音を立てて燃え尽きた。

二人の顔が一瞬のうちに暗闇に掻き消える。

隣で眠るルフィを気遣っているのだろう、押し殺されたサボの声は、彼の表情を隠したまま床を這うようにして重くエースにのしかかった。

エースの背筋に、一瞬冷たいものが掠め去った。


「・・・それから、もしも、おれのせいでお前が死んだとしたら・・・その時はその場で舌を噛み切るか、銃で手前ェのこめかみに銃弾をぶち込んでやるよ」

「・・・・・・そりゃ、おっかねェな・・・へへ」

「・・・それがお前の価値だ、エース」

「・・・・・・!」

「だから、お前は死にたがっちゃいけねェんだ・・・!分かるだろ?」


それだけ、己にとって掛け替えの無い存在だから――

縋るような目で、サボはエースを見る。

星明りの中、頼りない夜目に浮かぶエースは、じっと天井を見つめたままだった。


「・・・・・・ロウソクが切れた。もう寝よう・・・」

「うん・・・おやすみ」


エースはサボに背を向け、おやすみとだけ返して眠りについた。

だからエースがどんな顔をしていたのか、サボは知らない。



【了】



2年前のあの時、ルフィは仲間たちの存在に助けられてまた前を向いて歩くことが出来るようになった。

けれどサボには、彼をどん底から引き上げられるくらいの大切な仲間がいたのかは分からない。

もしも少年時代にこんな会話があったとして、サボだけがルフィのように立ち上がれず、2年前からずっと恨みや憎しみで心をいっぱいにしてしまっているとしたら。

かつての自分の夢も追えず、ただひたすらに海軍への復讐の機会を狙っているのだとしたら。



なんてね☆






初めましてコボリと申します。

11/23(いい兄さん)の日にブログ開設しました!

更新はなめくじの歩みの如しですが、以後よろしくお願いします。ぺこり


以下はご挨拶がわりのいい兄さんSSです。

先月開催されたGLC2の無料配布用に・・・と温めていたネタですが、ちょうど兄ネタだったのでこの機にサルベージ^^

無配用だったのでこじんまりしていますが


↓↓




朝のHRが終わって、担任が去った後のざわついた教室。

金曜一時間目の授業は数学。予習は済んでいる。あとは宿題のノートを――

鞄から教科書とノート、それからペンケースの順に取り出し授業に備えるおれの前に、ふと人の気配。

顔をあげると、何故か仏頂面のエースがいた。お前の教室は二つ隣だろう?

授業が始まるぞ、と口を開きかける前に、奴は言った。


「サボ、今から出るぞ。支度しろ」

「は?何言ってるんだよ、もうすぐ授業――」

「いいから行くぞ!!」

「!?あ!おい・・・っ!!」


返事を返す前に、手首を掴まれ強引に引っ張られた。

クラスメートの驚きと好奇の目の中、そのまま大股で歩き出すエースに何度も足をもつれかけさせながら、教室から引きずり出されてしまった。

膝に乗せていた鞄はかろうじて取り落とさずに済んだが、数学の教科書一式は机の上に残されたまま。一時間目の授業まで、あと五分もないというのに・・・。




キッドナップ・ホリディ




「・・・それにしたって、サボるならもう少し遠くの店の方がよかったんじゃないか?生活指導が見回りに来るぞ?」

「そん時ゃそん時だ」



連行されてきた喫茶店は、教師から目をつけられやすいゲームセンターや繁華街からは離れているものの、ここも学区内だ。

見つかったとして、エースはそれでいいだろうが、おれは不可抗力でここにいるだけなんだけど・・・。

時計を見ると、既に授業は三十分も進んでいる時間だった。



「あーあ、どうすんだよ授業」

「・・・・・・」

「・・・で?おれを拉致した目的は何だ?身代金ならねェぞ、誘拐犯」

「うるせェ。人質は黙ってろ。」


じろりと睨んで吐き捨てるエースに、言われた通りに口を噤んで肩をすくめてみせると、エースは面白くなさそうにふいと顔を背け、手元のメニューに顔を埋めた。

まあ、おれの軽口に乗ってくるほどの心の余裕があるのなら、事態はそう深刻ではない。



やがて店員が注文を取りにおれたちのテーブルにやってきた。

ホットコーヒーを・・・と頼みかけるおれを遮り、エースは軽く手を挙げ店員の注意を向ける。


「“金魚鉢パフェ”二つ。前から食ってみたかったんだ」

「え!?あれ相当デカいぞ・・・って、二つってことはおれもか!?」


文字通り、金魚鉢に山のように盛られて出てくるそのメニューはこの店の名物で、好奇心旺盛な女子中高生たちに人気なのだが、一人で食べきれるほど可愛らしい代物ではない。なんといっても、金魚鉢がテーブルにデンと乗っかってくるのだ。三、四人で囲んだとしても相当の迫力がある。

いくらおれたちが食べ盛りといっても、そこまで甘いものを胃にぶち込める自信はない。


「おれはいいよ!エースのを分けてもらうから」

「・・・お前、想像してみろよ。野郎二人で一つのパフェをつっつき合う光景なんて嫌だろ?」

「ん?おれは別に構わな――」

「二つで!!」


可哀想に、若い女の子の店員はエースの剣幕に圧されてビクリと肩を強張らせ、注文を書きとめるなりそそくさと逃げるようにカウンターの奥に引っ込んでしまった。

お前は手前ェの人相の悪さを、もう少し自覚するべきだ、エース。

店内に流れるクラシックジャズは、マスターの趣味が色濃く反映されている。

せっかく家で終わらせてきた宿題も予習も、目の前の男に全て台無しにされ、一言言いたいことはあったが、聞き覚えのあるピアノの旋律と時計の無いこの店の空間にいては、最早それもどうでもよくなってしまった。

今頃教室はどうなっているのだろう。

教師は、机に教科書を残したまま姿を消したおれを訝しんだだろう。誰かが気を利かせて「保健室に――」とでも伝えてくれていれば有難いが、 恐らく女子どもがありのままを喋ってしまっているに違いない・・・

後日職員室に呼ばれて、少しばかりの説教を喰らう程度で済めばいいのだけど。





「うわ・・・!」


運ばれてきた金魚鉢二つに思わず絶句した。

バニラ、苺、チョコレートのアイスクリームに色とりどりの果物、それに山ほどの生クリームと、刺さっているのはウエハースではなくアイスクリームのコーン丸々一個・・・

改めて目にすると、やはり物凄い迫力だった。これからこいつを一人でやっつけなければならないかと思うと、金魚鉢が敵の要塞のようにすら見えてくる。

それはおれにとってだけではないようで、周囲からの目がおれたちのテーブルに集まってくる。結局、野郎二人が仲良く一つのパフェを分け合っていようがそうでなかろうが、注目を浴びるのは同じことじゃないか・・・!

先に意を決したのはエースの方で、細長いパフェ用のスプーンを掴むと、生クリームとその下に敷き詰められたシリアルをぐちゃぐちゃとかき混ぜ大きく一口頬ばった。

続けてもう一口、またもう一口、エースは無言でパフェをかき込んでいる。

そんなに急いで食ったら頭が痛くなるぞ――忠告しかけたら、エースは小さく呻いて悶絶し始めた。言わんこっちゃない。


「・・・そろそろ話してもいいんじゃねェか?何があった?」


眉間を抑えて頭痛を堪えるエースが落ち着きを取り戻すのを待って、おれもパフェを突きながらようやく本題を切り出した。


「・・・別に、お前にゃ関係ねェよ」

「関係がないのにおれをここまで引っ張り出してきたのか?」

「・・・・・・」


実のところ、何があった――など、こいつが口を割らずとも知っている。

これが初めてではないのだ。

おれの都合も聞かず、それでいて何も語りたがらない。ただ、おれを傍に置いておきたいだけ。

不機嫌の元を解消したい、どうにかしたいけど、どうにも出来ない・・・それを黙っていても理解してやれる、唯一無二の存在がおれだからだ。

そのエースの不機嫌の元凶は、一つしか無い。

「・・・ルフィか」

「――――っ!」


エースの顔が明らかに動揺を見せた。


「今度は何だ?また冷蔵庫の中身でも食い荒らされたか?それとも風呂の掃除当番でもめたか?」

「・・・冷蔵庫だ。昨日の夜・・・」

ようやく観念したようで、エースはシロップ漬けのみかんを口に運びながらぼそっと呟く。

頑なに口を閉ざすこいつの顔は、こんなにも素直で分かりやすい。可愛い。

先刻から続けざまに頬張っていた生クリームに辟易したのだろう、しきりにスプーンで果物を探すこいつに今その言葉を口に出したら、確実にげんこつが飛んでくるから黙っておくけど。


「その分だと今朝も口聞いてないんだろ?さっさと謝って仲直りしちまえよ」

「悪いのはあいつだ!!」

「やれやれ・・・」


エースの意地っ張りに溜息をついていたら、ポケットの中で携帯電話が震えだした。

表示された電話の主の名に、思わず吹き出す。やっぱり考えることが同じなのは、兄弟だからなのだろうか。


「噂をすれば・・・だぞ、エース」

「ルフィか!?やめろサ――!!」


エースがスプーンをテーブルに叩きつけ、おれから携帯電話を奪おうと手を伸ばしてきた。

・・・が、そうはさせない。

軽く身をかわして、通話ボタンを押すのをわざと見せつけてやった。エースが悔しそうに歯ぎしりをしているのが見える。


「・・・もしもし、ルフィ?」

「――――っ」

「え?エース?エースは――」


電話の向こうの弱々しい声は、おれの目の前の男を探していたようだ。大方、直接電話をかけても着信を拒否され続けていたのだろう。ひどい兄貴だ。

そして、その目の前のエースはといえば、胸の前で手でバッテンを作ったり人差し指を唇に当て「しーっ!」のジェスチャーを送ってきたり、一人で騒々しい。

けどなぁ。

ルフィはエースの弟であって、ならばおれにとっても大切な大切な弟分だ。

お前と違って、おれはいつだってルフィにとっていい兄貴でいたいんだ――。


「エースならいるぞ!おれの目の前に!」

「!!てめェ!!」

「しっ!」


怖い顔で怒鳴りつけてくるので、今度はおれが「周囲の迷惑を考えろ」ときつく睨んでやった。

エチケットに関しては真面目なこの男は、鼻息を荒くしながらも慌てて口を噤み、しかし目はおれを睨みつけたままおれがこれ以上余計なことを言わぬよう監視を続けている。


「うん、うん・・・そうか・・・そりゃエースは悪い兄ちゃんだな」


ルフィの言い分を聞いてやる向かいで、エースが中指を突き立ててくる。けれど、静かな喫茶店の中で殴り掛かることもしない。


「・・・エースもな、謝りたいって言ってるぞ。だからルフィも、帰ったらちゃんとエースに謝れるな?・・・よし!」


ルフィの声がだんだん大きくなってくる。

曇り空から晴れ間が広がるように、ぱぁっと笑みを広げるルフィの表情が、見えなくてもよく分かる。思わずおれもつられて顔が綻んでしまった。

それでこそ、おれの、おれたちの可愛い弟だ。




「・・・謝りたいなんて一言も言ってねェよ!」


ただ一人、最後まで苦虫を噛み潰していたエースは、電話を切るなりおれに噛みついてきた。


「まあまあ、いいきっかけになっただろ?」

「余計なお世話だ!!」

「・・・そんなこと言って、おれがいなかったらどうしてたんだよ?お前のことだ、意地張りっぱなしだったんじゃないのか?」

「ぐ・・・っ」

「ほら、あーん」

「するかバカ!!」


溶けかけのチョコアイスを一口すくってエースの前に持っていってやる。

エースは顔を真っ赤にさせておれの手を押し戻した。

おれがいい兄貴でありたいのは、ルフィにとってだけではない。無言で助けをもとめてきたこいつにとっても、だ。

まったく、世話の焼ける兄弟だ。


「食おうぜ?パフェ。溶けちまった・・・」

「・・・・・・」

「学校に戻っても、どうせこの時間だ。今日は一日お前に拉致されたままでいてやるよ」

「・・・人質のお前に口出しする権利はねェんだからな!」

「はいはい。で、次はどこに行く?どこにでも付き合ってやるから」


余裕の笑いをみせるおれが面白くなかったようで、エースは舌打ちをして既にどろどろになってしまったおれの金魚鉢にスプーンを突き立て、おれが最後にと大事に残していた大粒の苺を攫っていってしまった。


「あ!!」


この誘拐犯、要求はおれの時間だけでは足りなかったらしい。




【了】