1日5分で教師力アップ!インクルーシブ教育時代の生き残り術【DATABANK】
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このページは,小貫悟さんの論文を引用したものです。
授業のユニバーサルデザイン化を体系的にまとめた秀逸な論文です。
参考になれば幸いです。

1-1 参加のための工夫:クラス内の理解促進

 クラス内の子ども同士の関係は授業を支える根本部分である。失敗を笑うような雰囲気の中で活発な意見の出し合いや学び合いは生まれない。
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 日常的に得意不得意を含めたお互いの理解を促進するような働きかけが大切になる。つまり,この視点は授業内に限らず,あらゆる学校での活動において育てていく視点である。様々な場面で,一人一人が活躍する場面,助け合う場面,良さを認められる場面などを積極的に作っていきながら,一人一人のことをお互いによく知る機会を作っていきたい。

 こうした雰囲気作りに心を割き,わからなことは「わからない」と正直に言える子が増えるクラスでは,どのような授業も否応なくユニバーサルデザイン化されていくはずである。子どもの「わかったふり」が教師側の授業のユニバーサルデザイン化の努力を妨げる要因の一つである。

1-2 参加のための工夫:ルールの明確化

 発達障害のある子が「暗黙のルール」に弱いことはよく知られている。こうした子どもに対しては,授業に参加するためのルールを明確にしておく必要がある。
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 ルール理解の欠如をベースに
 「指されていないのに発言してしまう」
 「授業の流れについていけない」
 「取り掛かりのタイミングがワンテンポ遅れる」
などの様子がよく見られる。

 意見を言うとき聞くとき,先生の指示への注目,授業の進め方などの基本ルールを決めておくと授業への参加がスムーズになる。ルールや活動のパターンが決まっていると,どの子どもも安心して授業内行動をしやすくなる。授業の内容は多様でさまざまになるが,それを包み込む外枠の構造(授業ルール)は,ある程度固定され,わかりやすくなっているほうがよい。

 例を一つ出せば,「意見」「付け出し」「同じ意見」などのハンドサインを決めておくことで,どの子でも挙手できて(参加が支えられ),また参加の質を上げることにもなり授業の活性化にも寄与する。

1-3 参加のための工夫:刺激量の調節

 ADHDのある子の特徴についての一般的な誤解の一つに「注意力がない」との思い込みがある。しかし,実際の対応を考える際には「注意力がありすぎる」という捉え方の方が適当である場合が多い。つまり,この子達は「周囲の刺激にすべて反応してしまう」特徴をもっているために結果的に「注意力がない子」と思われるという理解である。
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 こうした子ども達には,授業中でも教室内の掲示物や教室外部からの音といった刺激が,集中の持続に対する密やかなブレーキになっている。そのため,刺激の対象となるものを減らすことが注意のコントロールを助けることになる。

 授業中に目や耳に無意識にでも飛び込んでいる妨害刺激がないかをよくチェックして,余計な刺激を徹底的に排除する必要がある。また,こうした物理的な刺激とともに,授業内の活動や教師からの指示内容に雑多なものが含まれると同様に全ての内容に反応し,本質的でないものに注意が向かってしまうことがある。

 活動を絞り,指示内容の言葉を徹底的に削ることも必要である。

1-4 参加のための工夫:場の構造化

 学習活動を行う教室を徹底的に構造化していくと自閉症児の学習活動がスムーズになることを明確に示したのはTEACCHプログラムである。この視点は,公共の場でみる一般の工夫のさまざまにある発想と同じである。つまり,構造化はユニバーサルデザインの基本なのであろう。
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 あるべき場にあるべきものがあると当然われわれのパフォーマンスは高まる。授業においても教材が整理整頓され,決められた場所に決められたものがある状態がキープされている学習環境(=教室)は,子ども達の学習活動を助ける。

 また,教室全体のような大きな空間だけでなく,清掃用具入れ,机の中,机の上などといった「場」も構造化されると,すべての子の活動効率,学習効率を高める。

 なにより,物が機能的かつ整然と置かれている状況は,不思議と,その雰囲気を落ち着いたものにすることは我々が日常的に感じていることでもある。


1-5 参加のための工夫:時間の構造化

 時間は見えず触れることができない。
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 このような実態のないものこそ,把握しやすくする工夫が必要である。我々が手帳によって時間管理するのは時間の「見える化」の典型例である。

 授業においても,始まりから終わりまでの全体の見通しや時間配分がわかると,授業参加しているすべての子どもの不安感が軽減し,時間の使い方も効率が良くなる。これは,ちょうど地図なしで道を歩いているときと,地図によって目的地までの道のりと自分の位置を確認しながら歩いているときとでは,気持ちの面でも,効率の面でも大きく違ってくることと似ている。

 授業の時間には,区切りがどこで,今,行っている活動が何であり,この後どのように展開するのかが,おおまかにわかるように(見えるように)スケジュール表などを使用すると,子どもたちは授業に参加しやすくなる。


2-1 理解のための工夫:焦点化

 「刺激量の調節」でも触れたように,授業内にごちゃごちゃとした情報が溢れていると,子どもは自分の活動をコントロールしにくくなる。また,学ぶべき事柄が一回の授業内に多すぎれば結局大切な事柄が何かがわからなくなり,何も学ばないと同じ結果が生じることになる。
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 授業は焦点を絞り,「シンプル」にすることが肝要である。

 しかし,授業をシンプルにすることと,内容の難易度のレベルを下げるということと同義に考えてはいけない。シンプルにすることはイージーにすることではない。授業における学習内容の本質を見極め,そこに集中することが焦点化の意味なのである(桂,2011)。

 つなり,フォーカスすることなのである。

 この視点は,とくに教科教育の深い理解と,教材研究を必要とする視点である。おそらく,ここに挙げた14の視点の中でもっとも技術的に難しく深いものである。


2-2 理解のための工夫:展開の構造化

 授業の焦点が決まれば,その内容の理解に向けて,授業を組み立てていく段階に入る。そこには,様々な道筋があってよい。
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 しかし,最も効率的にその内容を伝えるに最適な展開はいかなるものかを精査しなければならない。そこに至るまでの論理展開としては,いかなる形がベストか,何から体験させるか,説明するか,展開のすべてに根拠をもって決定したい。

 瞬間のひらめきや,その場の雰囲気によっての展開の変更は,ときに授業を活性化させる。しかし,それが有効になるのは,すでに授業全体が考え尽くされた構造になっており,そのバリエーションとしての変更である場合に限られる,

 この視点では,これまで当たり前だと思ってきた伝統的な授業展開についても,本当にそれがユニバーサルデザインの視点から効果的なものであるかどうかを常に点検し続ける姿勢も大切になろう。

2-3 理解のための工夫:スモールステップ化

 「スモールステップ」という言葉は特別支援教育においてたびたび使われてきた言葉である。
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 一人一人の能力や特徴が違う障害児教育においては,課題へのアプローチに個に応じた細かなステップを設けて一つ一つを達成していくやり方は常識になっている。こうした工夫は課題達成のための「踏み台を作る」作業と言い換えることができる。

 踏み台の授業内での提示は,教師側の技術の引き出しの多さにかかっている。

 スモールステップ化によって課題達成までの一つ一つの段差をできるだけ細かくすることで,歩みがゆっくりな子も目標に向けての歩みを進めることができる。

 また,ユニバーサルデザイン化の視点では,どの子も同じ段差を進む必要はなく,一段抜かしや二段抜かしをしてステップを上がっていくこともできるようにするのがポイントとなる。

 「踏み台」は使ってもよいし,使わなくてもよいものである。


2-4 理解のための工夫:視覚化

 発達障害のある子は認知能力に個人内差,つまり「かたより」をもつことが知られている。こうした「かたより」を把握するために,WISCをはじめとする認知能力検査を使用するのが常識になりつつある。
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 認知のかたよりに対する指導上の工夫の一つとして「多感覚刺激」の必要性が言われてきた。情報の入り口を複数にすることによって,情報が入りにくい入り口を別の入り口がカバーするという発想である。

 しかし,この発想は通常の学級においては,取り入れにくい。できるだけ多くの入り口(聴覚・視覚・触覚)が使用されるように教材を用意するのは時間と労力がかかるからである。

 そこで意識すべきポイントを絞り「視覚化」の視点を採用する。

 通常の学級での授業において視覚化できるものはできる限り視覚化する意識をもつと,子ども達の情報の取り込みがスムーズになる。実はこの視点は上記の「多感覚刺激」の現実的な適用に過ぎない。授業においては聴覚情報がメインになるため,視覚化を意識すると結果的に「多感覚刺激」になるからである。多感覚という言葉を指針にすると煩雑になる作業に対して,視覚化という意識に置き換えることで同じ効果を狙うことができる。

 また,視覚的なものは消えていかずその場に残る。それは結果的に「記憶」を助けることにもなり,これも認知のかたよりをもつ子に対するさらなる支援となる。

 視覚化の積極的な使用を進めると,抽象的なもの,見えないものを「見える化」していく工夫などにもつながり,その工夫は,子ども達のなかにイメージを湧かせ,たくさんの気付きを生じさせる効果も生む。
   

2-5 理解のための工夫:身体性の活用(動作化/作業化)

 発達障害のある子は認知の「かたより」をもつ。
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 これは「認識」を要する作業へのハンディキャップの原因となり得る。「認識」と対になる言葉には「感覚」がある。認識を要する作業は苦手だが,感覚を使用する作業は得意である発達障害のある子に出会うことは少なくない。

 こうした子ども達へは,認識作業を偏らないような授業の工夫をしてみたい。そこで,視点として「身体性の活用」を推奨する。身体を通しての理解(感覚)を積極的に授業のなかに導入するのである。

 この技法は,音楽や体育では自然と行われている。別の教科でもこれを進んで行っていきたい。例えば,国語の授業では,ただ読むだけでなく,書いてあることを実際に動作にしてみたりする工夫を行う。この方法は認識を助けるだけのものではなく,認識だけでは拾えない全く新しい気づきを生じさせたりすることにも寄与する。

2-6 理解のための工夫:共有化

 具体的には,お互いの考えを伝え合ったり確認したりする方法である。 協同学習や学び合いなどという言葉で授業に取り入れられていることも多い。
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 通常の学級では全体指導が多くなる。この形態自体は,個別的な配慮を要する子にとっては一見不利なように見える。しかし,他の子の意見を聞いたり,自分の意見を表明してみるチャンスがあるという側面もある。多児の考え方をモデルや下敷きにして,自分でも考えを深めてみたり,人に伝えるために自分の意見を作ってみようという努力のなかで,授業理解を深めるチャンスを作ることもできる。

 そうした意味では,この手法は,結論のみに対するやりとりではなく,授業における「思考過程」を共有することに重点を置く意識が求められる。

 共有化が上手に行われると授業は当然,活性化する。

3-1 習得のための工夫:スパイラル化
  
 「スパイラル」という言葉は学習指導要領のなかでも,各単元において他の単元とのつながりを意識することを求めるときに使われる。
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 こうした教科のスパイラル構造(反復構造)を利用して,一度学んだことを「繰り返す」ための視点として授業のスパイラル化を推奨したい。 具体的には「既習事項の復讐」をポイントでしっかり入れた授業を行うことである。
 
 発達障害の子に「理解のタイムラグ」を感じることは実践場面ではたびたびある。学習をした時点では理解できなかったことが,数年を経た後,いつのまにかわかるようになっていたりする。授業での学習内容は一度だけの出会いにならないように何度でも触れるチャンスを作っていきたい。

 こうした学習事項のスパイラルは学年間に留まらず,教科間(例えば,算数の<体積>と,理科の<かさ>,音楽の<四分音符>と,算数の<分数>など)でもスパイラルがある。

 この意識を高めることで,どの子にも学習内容の再理解や習得の深まりのチャンスが確保できる。


4-1 活用のための工夫:適用化

 活用することとは,具体的には学んだことを別の課題に対しても「適用できる」ことである。「応用する」という言い方をする場合がある。
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 算数では例題で学んだ後に数値を変えた「適用問題」を行う。

 このような適用化の視点を実行するために必要なことは,授業での学習内容・教材選択は,すべて他に適用できることを前提にしたものにすることである。その教材だけならば理解できるが,他になると全く歯が立たないのでは意味がない。

 「教材<を>教えるのではなく,教材<で>教える」「教材を教材化する」(桂,2011)ことの徹底である。


                                    (小貫 2013)