「……あっ、雪!」
「ホントだぁ~、ホワイトクリスマスだね~♪」
そんな楽しげな声が聴こえて、
足元に落としていた視線を上にあげる。
「………………」
真っ暗な夜空に花降るような、
白いふわふわ。
オレはその綿雪をぼんやり見上げて、
細くて長い息を吐き切った。
…本当なら今頃、
この雪を龍馬さんとふたりで見ていたはずだ。
それなのに……。
ふわふわりと舞うタンポポの綿毛みたいな雪を視界におさめながら、
遠退いた幸福に想いを馳せる。
『――あぁ、待て! 翔太っ!』
駅前の小さな広場、
通話の役目を終えたスマホを手にしたまま、
オレはその場で動けなくなっていた。
耳に残る龍馬さんの声、
脳内で反芻される告げられた言葉。
『……どうしてもおまんに話したい事があるき、明日は必ず行くちや!』
“話したい事”
それはなんですか?
龍馬さん…。
すれ違いばかりで逢えない日々。
伝えたい事もうまく伝えられなくて…。
好きである事も見失いそうになってしまう。
お互いの存在理由、
一緒に居る意味。
そんなの、
今のオレ達に存在するんだろうか?
こんなの、
“恋人”って呼べるんだろうか?
「……別れ話…かな……?」
自分で発した呟きが、心の奥深い所に重くのしかかる。
誰からも好かれて慕われる龍馬さん。
それはこの時代に来てからも同じだ。
いつも龍馬さんの周りには笑顔が溢れていて、
そこはひだまりみたいにあったかくて、
居心地が良くて…。
最初はオレだけだったんだ。
でも今では多くの人に囲まれてて、不慣れだったこの時代にも、すっかり溶け込めている。
オレはもう、
用済みなんだろうか?
役立たずなオレなんかが居なくても、
もう龍馬さんはひとりじゃない。
ずっと一緒だったんだ。
ずっと一番近くに居た。
離れている事に矛盾を感じてしまう程に。
オレ達は他の奴等とは違う。
もっとずっと強い絆で繋がっているんだ。
そう思ってたけど…。
「……龍馬さん…」
柔い雪花が舞う空。
この空を、龍馬さんも見上げているんだろうか?
オレ達は…、
この空みたいに、
まだ繋がっているのだろうか……?