そう言えば、随分前にそっくり同じことがあった。


その時は昼間で私はひとりきりで。


やっぱり「おれ、わかる?」と。



声だけで、

電話越しで、

しかも何年も経ってって、

わかるわけないっつーの。


「わかりません。」


それでも名乗ってくれない。

私の名前を知ってるから昔の知り合いなのは確か。


で、仕方なく

こういう風に何年も経ってから

電話をかけてくる可能性のある相手の名前を挙げてみた。


「誰々(人の名)?」――「違う」


「誰々(別の人)?」――「違う」


「んじゃ、誰々(また別人)」――「違うよ」



・・・当たらない。(いや、クイズじゃないんだけど)


思い当たる相手多すぎとか思われたんじゃないかと思うと

気まずいったらなかったさ。

しかも相手のことは思い出せないという。


結局彼本人が名乗ったさ。



中学校の途中で隣の市に転校しちゃった男子。


転校してからもときどき連絡をくれた。

電話はいつも彼の方からだった。


私が大学に合格したとき(彼はもう1年頑張ることに)

「一緒に当時の担任に報告に行こう」と誘われて、

中学校まで行った。

(そう言えば、あのとき初めてバイクの後ろに乗ったな)


大学の寮に遊びに来たこともあった。



おもしろくて、いいやつで、

すごく気の合う男友達だと思ってた。


彼の方はちょっと違ったのだと、この電話で初めて知った。



名字が変わったこと、電話番号、どうやってわかったんだろ。





男の人にとって、

初恋の相手は

何年も経っても特別なものなのかな・・

(多分、本人よりは相当美化されて)


自分のことにもかかわらず、

ずうずうしいとの自覚もありつつ、

そんな風なことをなんとなーく思った。






そんな記憶の隅にすっかり埋まっていた出来事が

今日の電話で掘り起こされた。

(のでついでに書いとくことにした)





それにしてもさっきのはいったい・・

(この彼ではないと思うんだ、なんとなく)




(日記的な)


23時過ぎに鳴る電話のベル。


「はい。」


「もしもし。こんばんは」


「・・・こんばんは」


「わかる?随分久しぶりだけど・・覚えてるかな?」


「いえ・・」


「わかんない?誰だか」


「はい」


「・・・」


ツー、ツー、ツー・・・





つい1時間前の出来事。


懐かしいような、

声に聞き覚えのあるような気もするけれど、

やっぱりわかんない。


家族もいるし、「わからない」意外答えようもなく。


明らかな失望の色が受話器越しに伝わった。

次の瞬間には繋がりは断たれて。




気になるなぁ。

誰だったんだろ。


(そもそも相手が私でよかったのか?)





紫の煙と

珈琲の香り越しに

向かい合う



本当は隣りがいいんだけどな

いつでもぬくもりを感じていたいから




かわりに

テーブルの上

手と手を重ねてみる



ぴりぴりと

ずきずきと


からだ中の神経が

きーんと研ぎ澄まされて

指先だけに集まってくる



痛いくらいに

感電してるみたいに


かれのかたちをなぞる





今、ふたり一緒にいるんだね