本日はとても良い天気である。
雲一つ無い真っ青な空から、太陽が惜しみなく光を地上に注ぐ。
間違って桜が咲いてしまうのではないだろうかと思うほど陽気で暖かい。
荒廃した町、ライ・ワーストにも季節は存在し、今は冬の終わりだ。
もうそろそろ春が到来する。
冬の猫はこたつで丸くなると一般的に言うが、今日は外で日向ぼっこに勤しむのも良いだろう。
現に、そこらにちらほらと猫が日向ぼっこをしている。
そして、もう一匹。
いや、一人である。
猫に混じって屋根で日向ぼっこをしている人間が居た。
"探し屋"零である。
「いやはや、今日は気持ちが良い。 依頼が在った事なんて忘れちゃうね」
猫を撫でながら零は猫に話しかける。
話しかけられた猫は、何の事やらと言わんばかりに伸びをする。
「そんな事言うなよ。 まだ一緒に寝てようぜ」
側から見れば唯の変人である。
昼間から屋根で猫と会話している人だ。
しかも何故か会話が通じている。
だが、猫はスッと立ち上がると何処かへ行ってしまった。
「…………何だよ可愛気の無い奴だな」
少しむっとして呟く。
そして、背伸びをして言った。
「さぁて、俺も仕事に戻りますかね」
とん、と屋根から降り事務所もとい、家のドアに手をかけようとする。
そこには、何やら謎の風呂敷らしきものがドアに掛けてあった。
「……何だこりゃ」
零は風呂敷を手に取る。
「俺の家に何の用だ? 爆弾か?」
爆弾かと疑ったくせにさっさと風呂敷を開ける。
「…………!」
そこには爆弾ーーではなくチョコレートが大量に入っていた。
それに加え、中には紙切れが一枚。
それにはこう書いてあった。
昨日はどうもありがとうございました。
ささやかなお礼ですがどうか受け取って下さい。
弟のユウがこれが良いって言うので、チョコレートにしました。
"カナデ"
「……ふむ。 あの人か」
カナデとは、昨日零が救った女性の事である。
零は頭をぽりぽり掻きながら思い出した。
「いやはや、それにしても律儀なのは結構なんだがよ」
一つ間を置いて呟く。
「もっと他のは無かったのか?」
「人様のお礼にケチ付けるんじゃないよ!」
「うわっ!?」
零が振り返ると、そこには中年の女性が立っていた。
髪は後ろで束ね、エプロンをしている。
エプロンには、"シマ雑貨"と書かれている。
「びっくりさせるなよ、おばちゃん」
「そりゃ悪かったね。 ほら、昼飯だよ」
中年女性はそう言って弁当箱を零に差し出す。
この中年女性はシマと言う人だ。
収入の少ない(無い事もある)零の面倒を見てくれている。
そして、両親の居ない零の母親的存在の女性だ。
「ありがとよ」
「どういたしましてだよ。 さっさと収入安定させなさいよ」
「うるへー」
零は弁当の煮物を食べながら言った。
「それにあんた、昨日不良を三人も伸ばしちゃったのかい?」
「んん、そうだな」
まだ零は弁当を食べている。
すると、シマおばちゃんのトーンが上がった。
「何やってんのさ、あの不良共は最近ここらに出てきた新しい組だよ!」
「そうかいそうかい」
「前居た町では本当に酷い事して回ってたらしいよ」
「あー昨日もそうだったなー」
昨日は女性を連れ去ろうとしていた。
恐らく前にもこんな事をやっていたのだろう。
だとすれば何と言う変態組織だ。
「あんた、狙われるかもよ」
「了解。 狙い返せばいいのね」
何食わぬ顔で弁当を食べ続ける零。
それにカチンと来たのか、シマおばちゃんの顔付きが変わる。
「違うよ! あんた、どれだけの事か分かってるの!?」
いきなり怒鳴られて、零は目を丸くするがまた元の目に戻った。
「おばちゃん、大丈夫だって」
「またあんな事を起こす気かい?」
「しないよ。 大丈夫」
「あんたの大丈夫は信用ならないからね」
"あんな事"が何かは分からないが、何かしでかしたのは確かである。
零は表情を変えずにひたすら大丈夫を繰り返した。
「それじゃ、気を付けなさいよ」
シマおばちゃんはその場から去る。
零はその背中を見つめる。
そして呟いた。
「……弁当食い終わっちまった」
食べ終わった所で、弁当箱を返しに行くのも今は気まずい。
「どうすっかなぁ……」
そこで、一旦家に入った。
入った所で弁当箱をテーブルに置き、ベッドに寝転ぶ。
外が騒がしいが、無視して寝る。
すると、ドアを叩く音。
これも無視した。
だが、さらに強く叩く音。
これも無視した。
その次には連続でドンドン叩く音。
流石に無視出来なかった。
ドアに向かい、ドアを開けるとそこに子どもが一人。
それはユウと分かった。
血相を変えた様子である。
今にも泣きそうだ。
「…………どした?」
とりあえず訪ねてみた。
「姉ちゃんが……!」
「あ?」
「姉ちゃんがッ!」
「おい、落ち着けよ」
「姉ちゃんが攫われた!」
「!?」
流石にこれには驚かざるを得なかった。
そして、自然と質問の言葉が出てきた。
「誰に!?」
「変なヤンキーが沢山ウチに来て姉ちゃんを連れてったんだ!」
恐らく昨日のヤンキー三人組の所の組だろう。
零は小さく舌打ちをした。
そして、ユウは泣き始めて言った。
「お願いだよ零……! 姉ちゃんを探して!」
「…………」
零は大きく深呼吸をした。
そして、言った。
「その依頼、受け取った……!」
~続く~
はい。
第二回です。
どうでしょう?
今回は零の日頃の過ごし方とかを描きました。
そして零の元へ来る依頼!
これからも皆さんに魅せる作品を作りたいですので応援よろしくお願いします。
それでは感想待ってます。
おまーるえびふらい