Medicine メディスン 感想(於:シアタートラム) | 君に会えてよかった。

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昨日、無事に舞台メディスンの大千穐楽の幕が下りました。

Congratulations!クラッカー

キャスト&スタッフの皆さま、お疲れさまでした。

 

・・・ということで、封印していたネタバレ感想を書きたいと思います。

 

 

   ジョン・ケイン(田中圭

 

まずはパンフレットを見ずに観劇。

終わり近くで、何度も繰り返されたジョンの言葉が、録音された別の声で語られ始めたので、これはもしかして洗脳なのか?と思いました。

なので、ジョンは一生この場所から出られないのだろうと思いました。

帰宅後、パンフレットを熟読し、録音された声が老人ジョン(小林勝也)であると知りました。

老人ジョン!

ジョンはすでに老人なのに、ジョン自身はまだ自分が若者だと思っている、ということであれば、私たち観客が見ているのは、ジョンの世界のジョンであり、劇中の事はすべてジョンが見ている世界なのではないかと思いました。

 

ジョンが入ってきた部屋はパーティーの残骸で雑然としています。

それは現実だと思われますが、同時にまたジョンの混乱した頭の中の可視化のようにも思えました。

後片付けに時間を取られることに苛立つジョンですが、ジョンが人と対峙する時、まずは頭の中を整理して言葉を選んで話さなければならないことと重なる気がします。

他人に変に見られないようにおもねる態度を嫌悪感なくむしろ愛おしく見せるさんの演技は至芸!

 

 

   メアリー(奈緒

 

メアリーは別の仕事から時間ギリギリでこの施設に現れ、ノリノリでドラマセラピーの準備を始めます。

その時点ではメアリーもメアリー2も似た者同士に思えます。

しかし、徐々にこのやり方が本当にジョンのためになっているのかと疑問を持ってしまいます。

メアリーが取った行動もジョンのためになるのかどうかはかなり危険な賭けのような気もしますが、少なくとも私はメアリーがジョンに「ずっと」とは言わずに、「いられるだけ」と言ったことに、彼女の誠実さを感じました。

そして、終幕、少しずつ、少しずつ、少しずつ、暗くなっていく時間の長さが、すなわちジョンの安らぎの時間の長さに思え、たとえ僅かでもジョンにも幸せな時間があったと信じることができました。

 

特に5月28日の夜公演では、ジョンが倒れ込んだ時に、図らずも紙屑がジョンの髪に付いてしまい、メアリーがそっと取ってあげたのですが、それはまるで混乱したジョンの頭の中のごみをメアリーが一片だけ取り除いてあげたようにも見えました。

たった一片だけどジョンに必要だったのはこういうことだったのではないかと思いました。

その時の優しい微笑みたるや・・・それはそれは美しいシーンでした。

   

 

   メアリー2(富山えり子

 

メアリー2は現代の生き辛さに言及しますが、彼女もまたその渦中にいるように思いました。

そしてそれを認めたくなくて虚勢を張っているように見えました。

メアリー2が扉を開くたびに逆風に晒され、何とか踏ん張っているのは、その可視化のように思われました。

 

公演の初期の頃は、メアリー2が「良かった」と言い捨てて部屋を出て行ったのですが、途中からこのセリフが無くなりました。

メアリー2はどうして嫌いな言葉「良かった」を使ったのか?

メアリーに対しての皮肉なのか、「良かった」もさほど悪くない言葉に思えたのか、その両方なのか、私の解釈は定まりませんでした。

ただ、このセリフが無くなってから、メアリー2の心情の揺れが見えるようになってきたように思います。

メアリー2はバスに乗ったまま、二度とこの施設に現れない気がしました。


コミカルな演技とは裏腹のキレッキレのダンスに目を奪われました。

 

 

   ドラム奏者(荒井康太

 

舞台関係の人によると、ミュージシャンはとにかく時間にルーズだそうで、そういうセリフが出て来てニヤリとしてしまいました。

しかし、他者の心情に添う音を瞬時に作り出すためには、他者を観察し理解しなければできない技で、メアリーもメアリー2も自分の感情に揺れる中でプロフェッショナルだったのは唯一この人だけだったように思います。

 

人間の生の感情が余すことなく表現されていました。

 

 

   村人の目(観客)

 

シアタートラムという狭い空間では、私たち観客も登場人物としての役割を担わされたように思います。

13歳のジョンが赤いワンピースを着せられて歩く姿を見ている村人だったり、19歳のジョンが避ける教会に集う村人だったり・・・自分を見ないでくれと願っているジョンを凝視する目は蔑みだったか、同情だったか・・・

さんが演じているジョンだから寄り添いたいと思うけど、これが現実社会だったら?

そんなことを考えさせられた舞台でした。