タクティクスオウガ本編を、続きモノで読み物調に紹介しています。

本日は二話更新です。

前回のお話↓

http://ameblo.jp/k-lh/entry-10825612318.html


「オレたちは傭兵の仕事を求めてこの島にやってきた」

「傭兵?」

「そうだ。見ての通りの猛者揃いだぜ。

おい人気者、先に名乗れよ」

人気者か。苦笑して、ランスロットは肩をすくめる。


「私の名はランスロット・ハミルトン。

ゼノビア王国の聖騎士だ」


「オレの名はカノープス。風使いと呼ばれている。

そっちのジジイは……」

豊かな白い髭をさすりながら、

品のよさそうな、けれどどこか底知れぬ風のある

老人が会釈をよこした。

「ウォーレン・ムーン。

占星術師でございます」


白い騎士二人は顔を見合わせ、

順番を譲りあうような間を置いたが、

結局、端正で甘やかな顔だちをした青年の方が

先に一礼してみせる。

「私はミルディン・ウォルホーン。

ゼノビアの騎士です」

かくあるべしというような、美しい所作であった。


ちるちる。


一方、筋肉質な方の男は、

伝法にひらひらと手を振ってみせる。

この二人は揃いの装束に身を包みながらも

見た目といい、性格といい、好対照であるらしい。

「ギルダスだ。

おい、小僧。そんなに怖い顔をしないでくれ」


ちるちる。


デニムがヴァイスを振り向くと

さすがに睨んではいないが、

こわばった表情をしていた。

そんな。違うなんて。呟く声は虚ろである。


さあ、自分たちの番だ

ようやく喋る機会を与えられ、

カチュアとデニムは頷き合う。

ヴァイス。ヴァイス、謝るぞ。

袖を引いて呼びかけてみるも反応がない。

仕方なく二人だけで跪き、最敬礼の姿勢をとる。

「とにかく、謝罪いたします、騎士様」

代表して、カチュアがそう言った。

「そして、どうか私たちにお力をお貸しください」


力を、貸してもらう?

姉の意外な言葉に驚き、

顔を上げかけたところで考え直す。

なるほど傭兵の仕事を探しているというのであれば、

助けを求めるのも一つの選択肢なのだ。


──自分たちウォルスタ人は

こんなにも追い詰められているのだから。


ランスロットがどんな表情でそれを聞いていたかは

見えなかったが、

少なくとも頭上からの声には気遣う優しさがあった。

「詳しい事情を聴かせてもらおう。

我らとて、この地は初めてなのだ。

さあ。顔を上げてくれ。

まず、君たちの名は」

「はい、僕たちは」

「オレは!」

声を張り上げたのはヴァイスだった。

この三人のリーダー格であるということを

表明したかったのだろう。

衝撃の拭いきれぬ顔をゆがめて、

先んじて名乗る。

「オレは……、オレはヴァイス。

仇があんたたちじゃなくて残念だ」

「ヴァイス!」

カチュアが悲鳴に似た叱咤をとばし、口早に続けた。

「重ね重ね申し訳ありません、騎士様。

私はカチュア。僧侶です。そして、こっちは弟のデニム」


デニムはランスロットと視線を合わせる。

威風堂々たる佇まい。

ヴァイスの悪態にもまるで頓着していない。

幼いころ憧れた絵物語のなかに出てくる人物のようだ。


「僕の名はデニム。

どうか僕らをお許しください」


まっすぐに見つめて言うと、ランスロットは両目を細め、

笑い含みに言う。


「気にする必要はない。……驚きはしたがな」

そして、手庇の下から陽を仰ぎ、呟いた。

「ここは暑い。

さあ、どこか別の場所に移り、

そこで話を聴かせてくれないかな?」


これが、デニムと、

彼が生涯を懸けてその背を追い続けたランスロットとの

運命的な出会いだった。