タクティクスオウガ本編を小説にしています。

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彼らは、祖国ローディスの利権のため

この国の政治に介入し、

支配者階級と手を組んだのだという。


虐げられるばかりの、

自分たちウォルスタ人にとって、

大国の存在は絶望的なものだった。


だからこそ、

もしここで彼らに打撃を与えることが

できたのなら──。


「デニム、ああ、デニム。

ほら、こっちに来るわ」

カチュアの切羽詰った声で

現実へと引き戻される。

ごくりと唾を飲み込んで、

目を凝らした。


憎き仇の姿を、

しかと見定めなければならない。


一年前の冬の夜、

どれだけの人々が

彼ら暗黒騎士団に殺されたことか。

うずたかく積まれた死体が

蛆をわかせて腐敗しても

墓作りが間に合わず、

しばらくの間、町全体が

むせるような臭いに閉じ込められた。


教会の子どもであるデニムとカチュアは

父を襲った悲劇を嘆く暇も与えられず、

ぎこちなく葬儀をとりおこなう毎日だった。

自分たちが指折り数えあげた死を

忘れるわけにはいかないのだ。


許せない。


今、血走った視線の先に、

五人の男の姿がある。

内、一人は有翼人種で

もう一人は老人だ。

彼らではないとして、

どいつがランスロットなのだろう。

いずれにせよ、

剣を向けた瞬間から

全員が敵である。

考えるより先に

覚悟を決めるべきかもしれない。


「おいおいおい。

ヴァレリアは海洋貿易で栄えた島国なんだろ。

すると、ここはまさに経済の玄関口のはずだぜ。

にもかかわらず、

なんだこのさびれた風情は。

泊めてくれる宿なんて、本当にあるのかよ!

いい加減、休みたいんだよオレは」


ついに、声が聞こえるところまで、

彼らは近付いてきていた。


あけすけな物言いは有翼人の青年だ。

とがらせた唇で前髪を吹き上げて、

疲れの色もありありと

愚痴めいた言葉を垂れ流している。


さびれてるだって?


デニムは向かいの路地に身を潜める

ヴァイスと視線を交わした。

互いの瞳の奥に

怒りの炎を確認する。


お前らが、他ならぬお前らが

それを口にするというのか!


しかし、こちらの心情にはお構いなしに、

会話はあくまで間延びした調子で

続けられるのである。


「なんだなんだ。

カノープスの旦那は情けねえなあ」

髭を生やした、

たくましい体躯の男が呆れた声をあげた。

「やれ疲れた。やれ休みたいって。

アンタ、いったい幾つだよ」


「い、幾つってオレは、」


「確か四十八でしたね。

合っていますか、カノープス」

すかさず遮ったのは、

やけに洗練された印象の

端整な青年である。


髭の男と、優美な青年は

揃いの陣羽織に身を包んでいた。

白を基調としたその姿は

暗黒騎士団の異名からは

かけ離れたものである。

デニムは違和感を覚え

眉をひそめた。


「うるせー! 年寄り扱いするな! 

有翼人はお前ら人間と寿命が違うことぐらい、

知ってんだろうがよ!」

真っ赤になって怒鳴る

カノープスと呼ばれた男は、

実際、外見だけなら二十代にしか見えない。


「年寄り扱いするなって言うんなら、

せめて文句を控えろよ。

新しい土地を訪れたなら、

まだ口にせぬ地酒と未知なる女を

励みにするぐらいの

心の余裕がなくてどうするってんだ。

黙々と歩いている、

本物のじいさんを見習えよ

髭の男の言葉を受け、

旅装束のフードの中から

老人は苦笑する。

「おやおや。

これでは私も文句が言い出しにくい。

カノープスのせいですよ」


「お、お前ら、みんなして

俺に何か恨みでもあるのか!

おい、ランスロット、

なんとか言ってくれよ!」


──ランスロット!


デニムも、カチュアも、ヴァイスも一斉に、

しんがりをつとめている

その男へと視線を移した。