最悪だ。また、迷惑をかけてしまった。後悔するくらいなら、しなきゃいいのに、その時の自分は愚かで、どうしようもなく、分別のつかない子どものように、ただひたすらに癇癪を起こしていた。


 久しぶりにお酒を浴びるように飲んだ。そんなに弱い方ではないから、泥酔する、なんてことは決してないけれど、少し足元がおぼつかないくらいには酔ってしまった。それでも、歩けないなんてことはなく、誰かに迷惑をかけるほどの酔い方もしていない、はずだった。


 そもそも、お酒を飲んだのは就活の相談のために開かれた食事会のためだった。緊張から、ハイペースでお酒がすすむ。私は二次募集をかけている企業に来年度から入社するか、それとも就職浪人をして再来年、就職するかで悩んでいた。留年している身として、さらに遅れをとることに少し焦りを感じつつも、まあ、それでもいいか、と思えていた。


 普段は楽観的なのだ。本当に。言わなければ誰も私が心の病気であることなどわからないと思う。私は就活のことだって、前向きに考えていて、「まあ、なるようになるだろう。」と思っていた。


 だけれど、お酒によって、私の、私自身も見ないようにしていた感情が露呈してしまった。

本当はどうしようもないほど、怖かった。漠然としたこの先の不安と焦りと新しいことへ挑戦することへの恐怖が私にはあった。


 その日はHとは会えないことになっていた。Hは友人と会う約束をしていて、そのことは数日前から知らされており、私も了承していた。なのに、私は見ないように、心の奥底にしまっておいた負の感情が突然露わになって、どうしようもなく、取り乱してしまった。Hに、何度も会いたいとメッセージを送った。Hは友人に会う前に少しだけ会おうと言ってくれた。


 ここで終わっていればまだよかった。Hと合流した私は離れたくない、帰ってくるまでここで待ってると駄々をこねた。自分がおかしいことに気がついていながら、それでも自分を止められなかった。少しして、僅かに残った理性でやっと「早く友達のところへ行って。私も帰るから。」と言った。Hは何度も「ちゃんと家に帰るんだよ。」と言いながら別れた。


 Hがいなくなって、また私は不安が押し寄せてきた。自分の感情が怖くて怖くて、ただ死にたくなった。気が付くと、マンションの屋上にいた。酔っ払いとは恐ろしいもので、施錠してある扉を乗り越え、私は屋上に降り立った。一気に視界から障害物が減って空が大きく見えた。東京でも、よく見ると星がいくつも見えることを初めて知った。私は屋上のへりに寝そべって、隣に死を横たえながら、自分の感情と向き合っていた。


 下を覗き込むと足がすくんだ。2年前もそうだったな、なんて思い出す。気がつくと1時間以上も屋上にいたようだった。もういいか、と思って、最後にHの声が聞きたくなった。


 二度ほどかけたが、Hはでなかった。