エンジンのシリンダーとピストンのように、金属同士が高速でこすれあうと、摩擦熱で金属同士が焼付くことがあります。これを防ぐために潤滑オイルを使い冷却してオーバーヒートしないようにします。ところがこの摩擦による発熱を逆に利用する「摩擦圧接」が40年ほど産業分野で実用されてきました。この摩擦圧接は異種材の接合が容易などの優れた長所があるものの、摩擦熱を発生させるために、接合部材の一方は回転させることのできる寸法と形状でなければいけません。このため円形断面をもつ製品の製造には適していましたが、板形状の部材をつき合わせて接合することはできませんでした。


 1991年に英国溶接研究所(TWI:The Welding Institute)が開発し特許を取得した摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は回転工具による摩擦熱と接合部材内部に発生する塑性流動を利用する接合方法です。摩擦圧接と同じく固相のままの接合であり、しかも板材の突合せ接合ができるために、さまざまな分野で利用されるようになりました。FSWはごく簡単にいうと、摩擦熱(Friction)を利用して部材を柔らかくしてから、かき混ぜて(Stir)、一体に接合する(Welding)というものです。ウェルディングは通常は「溶接」と訳されますが、この場合には母材を溶かさないので「接合」とするのが一般的です。


アルミ合金の構造物を組み立てるとき、従来の溶接では、酸化被膜の前処理や溶接時には不活性ガスによる完全シールドが必要でしたし、アルミ合金の溶接に特有なブローホール(気泡)の生成や凝固割れなどの問題がありました。またアルミは熱膨張が大きいため、アルミ薄板を溶接しますと変形してしまうことが問題でした。しかし1997年にFSWが700系新幹線車両などの鉄道車両の組み立てに導入され、日本でも注目されるようになったものです。FSWはジュラルミン系のアルミニウム合金の接合に威力を発揮しますので、航空機分野ではリベットに代わる結合方法として期待されています。また自動車産業で一般的なスポット溶接の代替技術として開発が進められています。


 FSWは、中心に突起(ピンまたはプローブという)をもつ回転工具を接合部に押し当て、回転させて摩擦熱を発生させることにより、材料を粘土のように可塑化させます。ピンは接合部材の板厚と同じかわずかに小さくします。回転工具の肩部をショルダーといい、可塑化した部材を外に漏らさず、また摩擦熱を発生させる役目があります。回転工具を進めていくと順次に可塑化が起こり、固相のまま接合していきます。


 素材の融点よりも低い温度で接合のプロセスが完了するため、いろんな特長があります。熱処理したアルミ合金などでは溶融によって強度が低下してしまうのですが、FSWでは熱処理合金でも継手強度が大きいままです。ひずみが小さいため、残留応力が少なく変形がありません。重力の影響を受けないため接合方向の制約がありません。接合部に結晶が成長せず、塑性流動により結晶が微細化されるため、疲労特性に優れています。また溶接が不可能な材料や異種材料の接合も可能です。さらに熟練を要することなく接合でき、接合面の品質が安定しています。
 FSWにもいくつかの問題点があります。まず、三次元曲面の接合は困難です。接合部の終端にはピンの穴が残りますので、その処理が必要となります。現在までのところ、接合部材は軽金属に限られています。

 FSW接合部の断面はミクロ組織により、撹拌部、加工熱影響部、熱影響部、母材部の4つの領域に分けられます。熱影響部(B)は接合中の摩擦熱の影響を受ける領域であり、もともとの母材が熱処理を受けていたか、圧延か鍛造かによって、影響の受け方が異なります。熱・機械的影響部(C)は摩擦熱と塑性流動の両方の影響を受ける領域であり、母材よりも小さな結晶粒組織ができます。撹拌部(D)はピンとショルダーの両方の摩擦熱の影響を受ける領域であり、微細化した結晶粒がランダムになります。通常の溶接ではこの結晶粒が粗大化する部分であり、これがFSWの長所になります。ただ断面は左右非対称となり、組織あるいは強度特性の面からさまざまな問題を誘起する原因になります。


 船舶では、フィンランドの高速ジェット推進双胴船にFSWパネルが初めて実用化されました。板厚6mm、幅20~40cmのアルミ合金押出し形材を幅方向に接合して6m×16mの大型パネルを製造して船殻に使用しています。ポータブルFSW装置により局面の接合を行ったようです。わが国ではテクノスーパーライナーとして建造された「スーパーライナーおがさわら」で上部構造体の接合にFSWが用いられました。しかし原油価格高騰の影響で就航のみこみはなさそうです。

(参考文献)
・時末光:FSW(摩擦撹拌接合)の基礎と応用、日刊工業新聞社、2005年
・村上陽太郎:摩擦撹拌接合の進歩と適用、NMCニュース、2004年12月号