映画「アラバマ物語」(1962年)は、題名だけを見ただけでは観たいという興味がわかなかったので、観るのは今回が初めてです。英語の原題からの直訳も「ものまね鳥を殺すこと(To Kill a Mockingbird)」となっていて、やっぱりぴんときません。解説を読むと、人種差別と裁判物の映画らしくて、またかと思われるかもしれませんが、かなりの名作らしい。舞台は1930年代のアメリカ南部、人種差別が根強く残るアラバマであったできごとを弁護士の娘が後に回想するというものです。

 

 主演のグレゴリー・ペックはシングル・ファザーの弁護士の役をしており、冤罪の黒人の弁護をしたことから、白人たちに嫌われ、息子と娘が白人の子らから意地悪をされたり、襲撃されるようになりました。グレゴリー・ペックといえば、「ローマの休日」(1953年)でオードリー・ヘプバーンの相手をした新聞記者ジョー・ブラッドレーを演じた俳優でした。オードリー・ヘプバーンの妖精のような可愛らしさは今での頭のなかで凍りついておりますが、グレゴリー・ペックも同じくらいすてきな男性でした。「真実の口」に手をつっこみ、噛み切られたと言って、袖のなかに隠した手を見せたときのヘプバーンの驚きようは演技とは思えないほどのものでした。あれはグレゴリー・ペックのアドリブで、それを隠し撮りしていた場面でした。相手のいいところを引き出すのがとてもうまい役者だったようです。本作はそんなグレゴリー・ペックの十年後の作品でした。

 

 ところで、モッキンバードは日本にいない鳥なので、映画の題名をどうするかで苦労したことでしょうね。モッキンバードは「ものまね鳥」といわれますが、和名はマネシツグミです。アメリカの南部に生息している鳥で、スズメの仲間ですが、大きさはスズメの倍くらい、鳩より一回り小さい。ツグミという鳥は日本にもいて、あまり鳴かないので、“口をつぐむ”からツグミという名前がつけられました。ものまね鳥もふだんはおとなしい鳥なのですが、繁殖期になるとメスにアピールするため、いろんな鳴き声をあげてさえずるので、一羽を飼っていると、何種類もの鳥がいるような気がするらしい。

 

 モッキンバードはアラバマ州のほかにも、テネシーやフロリダ、ミシシッピなどの南部諸州の州鳥になっています。あるとき父親(グレゴリー・ペック)が小さな娘に、「子供のころ、キャア、キャアとうるさく鳴くカケスは殺してもいいけど、きれいな声で鳴くだけのモッキンバードを殺してはいけないと教えられた」と話します。娘が襲われたとき謎の人物に命を救われ、その人物が犯人を刺し殺しますが、保安官は正当防衛であると判断し、犯人が転んでナイフが刺さっただけと処理します。娘は父に教えられた「ものまね鳥を殺すこと」は罪なのと同じことなのだと納得したのです。なにも悪いことをしない者を罰してはいけない、という教訓でした。